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2019/08/15 「シリコンバレー ベンチャー事情」第2回 テクノロジー以前の課題

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こんにちは、BIPコンサルタントの安藤です。夏休みを利用して東京に一時帰国しておりまして、今回はそこで気がついたことを書いてみます。

日本でもデジタル・トランスフォーメーション(DX)を進めることが期待されており、政府や大小の企業が真剣に取り組まれています。それは必要、且つ、素晴らしいことだと思います。

しかし一方、テクノロジー以前に、全くお金をかけないで解決出来ることが多いのでは無いかと、久しぶりの東京での生活で感じることも多いのです。それは、「ユーザーの立場に立って本当に必要なことだけを考える」ということです。ちょっと視点を変えるだけで、特に大げさなテクノロジー導入も、費用の負担もなく、ユーザーの便宜を図りつつ効率化を図ることが出来る事例は多数あり、それは英語でいわゆるLow Hanging Fruits(木の低いところになっている果実。一番、少ない努力で大きな成果が得られることのたとえ)だと思うのです。

一例として、私の実家には90才の母がいます。足も悪く自分だけではほとんど歩けず、また認知能力も衰えつつあります。一方、疾病は特になく、降圧剤とアレルギー薬を飲んでいる程度でその意味では「健康」であるといえます。その母に、月に一度の「診療所での診察」があるのです。90才の足の悪い超高齢者が、37度の猛暑の中で診療所に出向くには介護タクシーを頼むか、家族が仕事の休みを取って付き添いで出かけなければならない。タクシーから診療所に入って歩くだけでも大変で、本人は帰ったらぐったりしている。今回、私がたまたまついて行きましたが、診察したからといって何かあるわけでもなく、「前回と変わりませんね」で終わり。本人にとっては午前中の半日仕事で、帰ってきたらぐったり。病気を作り出しているような感じです。同居の、介護している家族は半休の埋め合わせにどこかで残業しなければならない。

そもそも病気を何も持っていない90才の後期高齢者を、毎月診察する必要がどうしてあるのか。私は医師ではないのでひょっとしたら必要なのかも知れませんが、こういった毎月の診察をするより、何か異常があったときにすぐに電話で看護師にでも相談できるシステムがあった方がよほど、役に立つのではないでしょうか(ちなみにこの医師は診療所に「木曜の午前中」しかいないため、何かあったときには全く頼れません。)

米国のカイザー医療システムでは、何も悪いところがなければ「主治医による診察」は年1回。(下の話で恐縮ですが)検便のセットも年1回自宅に郵送されてきて、それをまた郵便で送り返す。その診断で、何も悪いところがなければ特に、その為に診療所へ行く必要も、会社を休む必要もなく、もし第一次診断で引っかかればそこで初めて、精密検査を受け医師に会う、ということになるわけです。

一方、何か不調や質問があったときにはまず、主治医に面接できなくても「ナース・ホットライン」という、当直の看護師に24時間、電話で相談できます(米国の「登録看護師」はかなり高度な資格で、医師ではないがある程度までのアドバイスができ、通常の風邪などであれば症状によって医師につなぐか、自宅療養で済むか、などの判断をする)。また、それで主治医への相談が必要、となれば予約を取るのですが、診察には「主治医に会う診療所での診察」「電話での診察」「ビデオ会議システムでの診察」の3種類の診察の選択があります。

Figure 1  Kaiser医療システムの予約画面。診察には3つの選択肢がある Figure1

Figure 2 「電話での診察」を選ぶと診察予約画面に移る Figure2

カイザー医療システムは米国でも、先端のIT技術を取り入れた医療・保険機関として知られています。ですが、ユーザーにとって一番の違いが出るのは「IT技術の採用」ではなく、「ユーザーの立場で何が必要か必要でないか」を見直すことだと思うのです。しつこいようですが90才の母の場合必要なのは「毎月出かけて、医師に先月と変わらないと言われる」ことでなく、「何か異常があったときにすぐに相談できる仕組み」です。相談時に、自宅で医師や看護婦とすぐ、ビデオ通話できるのなら、「診察に出向かなければならない」というハードルも簡単に越えられます。

ちなみに上記の「3種類の診察の選択」のうち、電話での相談はすぐにでも可能。ビデオ会議システムでの診察も、今はZoomなど極めて低コストで使い勝手の良いシステムが出ており、例えば中小規模の医院でもおそらく1日以内(ちょっとITに詳しい人がいれば数時間)で導入可能。コスト的にも、場合によっては無料のプラン(Zoom40分までのビデオ会議は無料)で始めることも可能です。なので、IT導入は全く大変ではなく、要は、「患者にとってどちらが楽か、どちらが必要か」という判断なのです(これは各診療所レベルではなくもしかしたら法令で決まっていることなのかも知れないので、国家レベルでの「DXへの初歩的取り組み」の話になるのかも知れません。)

もちろん、日本でも例えば都心などではもっと簡易な医療診察システムがあるのかも知れません。またカイザーは、健康保険と医療が一体になり、効率的でテクノロジー導入も進んだ医療機関として知られている、米国でも少し特殊な存在です。なので、これだけを取って日米の比較をするつもりはないです。

それでも、DXの必要が叫ばれている割に、「何のためのDXか、結局はユーザーに取って一番便利なことを提供するためのシステムを作ることではないか」、という、テクノロジー導入以前に、ユーザーの立場に立って何が助かるか、という視点がまだまだ欠けている場合が多いような気がします。


thumbnail_ando安藤 千春(あんどう ちはる)

コンサルタント(日米企業提携・提携投資、米国ベンチャー企業発掘・調査)

シリコンバレー在住コンサルタントとして、現地ベンチャー企業の最新情報や 日本企業の提携・投資事例をご紹介していきます。

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