佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

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2017/11/06 上場企業・大企業の「コーポレートベンチャー」に期待する -日本ベンチャー学会20年に寄せて-

 11月中旬、ある大学院MBAコースで「コーポレートベンチャー論」の講義をします。

その講義テキストを準備していたら、日本ベンチャー学会より『日本ベンチャー学会20年史』(参考文献1)が送られてきました。私は1997年11月の学会発足直後より正会員として、調査・研究と交流に参加して20年経ちます。学会20年史を手に取り、未来に向けてのワクワクする感慨を覚え、今回このエッセイを執筆しました。

図「事業経営」へのシフトを可視化する仕組みを導入(三菱商事)

図 三菱商事株主通信 2017年6月 NO.44より抜粋

 

1.日本大企業のイノベーションとしてのコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)

 この数年、日本大企業のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)が激増しています。海外企業では既に成功と失敗の長い歴史があります。日本の動きは歓迎すべき出来事です。

 ご存じの通り、一般的VC(ベンチャーキャピタル)は、投資会社が外部資金を集めてVB(ベンチャービジネス)に投資し、日本では主にIPO(上場)して収益を実現します。海外では主にM&Aで大企業に売却して収益を実現します。それとは異なり、CVCは、大企業が自社の資金を活用して、投資する組織・機能です。

 このCVCの成功も簡単ではありません。あのインテルのCVCであるインテルキャピタルのブルックス社長の取材記事が11月2日の日経産業新聞に掲載されています。インテルキャピタルは1991年に始まり、累計で約1,500社に122億ドル投資して来たが、パソコンからスマホに変わる際に、投資部門はインテルの水先案内人にはなれなかった。今は、投資方針を見直ししているそうです。

 1つは、過去のセカンドシート中心からリードインベスターへの転換による事業面の提携に繋がること。もう1つは、投資対象をデータ、AI、ロボット、5Gという次世代技術に関わる企業に定めたことです。

「インテルにとって将来を探る目であり耳になることだ。かつてインテルは売り上げの4分の3をパソコン向け(の半導体)で稼いでいた。昨年は4割を(データセンター向け半導体など)データ関連が占めるようになってきた。投資する企業とはインテルの知見や顧客基盤を使い、どうやって事業面で協力ができるか、投資先の企業にどう価値を足せるかを考えている」(参考文献2)

 

2.日本大企業のCVC成功へのアドバイス

 11月2日、同じ日経産業新聞に、石黒不二代ネットイヤーグループ社長が『CVCで失敗しないために』という記事を掲載しています。石黒氏とは、8年程前に、日本ベンチャー学会に所属する大学教授が主催する「コーポレートベンチャー」研究会でお会いしたことがあり、懐かしさと同時に相変わらずの的確なアドバイスに拍手を送りたいと思いました。

 石黒氏は、日本大企業によるCVCのマクロ経済的視点を指摘しています。

「私はこの欄で「日本にはグーグルはできず」と書いたことがある。米グーグルのビジネスには、大量の情報を処理するためのハードウエアや通信インフラが必要だ。グーグルはそのために約1千億円を上場前に調達した。日本では、VC産業のサイズが小さく、これだけの資金を一般のVCから調達することはできない。

では、どこにお金があるのか。日本経済をけん引している大企業にある。バブル崩壊以降、大企業はずっと投資に消極的になっている。内部留保は日本全体で460兆円に達している。ここにあるお金を使わずして日本のスタートアップの未来はない。」

 日本大企業には投資すべき理由が明確にあり、その理解が広がりつつあります。

「大企業は、既存の製品やサービスに収益を頼れなくなっている。新製品の開発や事業の多角化が求められている。破壊的とさえ呼ばれる技術の変革の波が押し寄せる中、研究開発を内製だけに頼っていては生産性はあがらない。新技術を持つスタートアップへの投資に活路を見いだすのは自然だ。」

 CVCで失敗しないために、石黒氏は続けてこうアドバイスしています。

「私は2つの重要なポイントがあると思っている。それは継続性と専門性だ。」(参考文献2)

 

3.私の「コーポレートベンチャー論」は、先行理論と成功実践の統合知性

 海外企業では当然の事であったが、日本ベンチャー学会ではまだ少数の研究テーマだった大企業の「コーポレートベンチャー論」の蓄積と創造が、これから日本の未来に大きな貢献をする時代になりつつあると思います。

  総合商社三菱商事は、2017年6月の株主通信に事業戦略の歴史的変革を掲載しています。(参考文献3)

 「Stage1トレーディングの時代、Stage2事業投資の時代、そして2016年度よりStage3事業経営の時代」と定義しました。ローソンの子会社化は、皆様ご存じの通りです。その鍵は、経営人材です。株主通信では、世界各地で活躍する経営人材の記事も掲載しています。

 私は、総合商社冬の時代を打破する三菱商事による事業投資開始時期の大成功モデルとなったコーポレートベンチャーであるネットワンシステムズ(株)に15年在職しました。売上高100億で7億円の赤字だった企業が、リエンジニアリングとビジネスモデル転換により1996年IPOに大成功。短期間で高成長・高収益の売上高1,000億円を超えて、東証1部上場企業に発展し、ネットワークインテグレータ専業領域日本NO.1企業になりました。

 コーポレートベンチャー大成功の現場は、ビジネスモデルの連続変革による事業開発、ベンチャー投資とM&Aによるメーカー的技術獲得戦略、急成長企業の都市型野生的思考による人材マネジメント、三菱商事筆頭株主である1部上場企業としてのコーポレートガバナンス等、常に他業界のロールモデルの組み合わせによるモデリングの連続でした。(参考文献4)

 日本には他にも、古河電工から富士通、ファナック、富士電機等、領域一番のコーポレートベンチャー成功事例がたくさんあります。トヨタが過去に自動織機産業から自動車産業へと進出したことも、コーポレートベンチャーだったと言えます。

 BIPの企業支援実績の60%以上は、上場企業・大企業及びその子会社です。(参考文献5)上場企業、大企業のイノベーションが富国の道であることを今年創刊した『BIP総合研究所ジャーナル』(参考文献6)に記載しました。

 イノベーションの多様な統合知性を共創する時代です。気軽に交流をお願いします。

以上

<参考文献>

(1) 日本ベンチャー学会『日本ベンチャー学会20年史』2017年9月30日発行

(2) 日経産業新聞 2017年11月2日号

(3) 三菱商事株主通信 2017年6月 NO.44

(4) 早稲田大学商学学術院教授 井上達彦『模倣の経営学 偉大なる会社はマネから生まれる』 日経ビジネス人文庫 定価830円+税別

(5) BIP(株)『上場企業・未上場企業実績トピックス』https://www.bi-p.co.jp/case/

(6) BIP(株)『BIP総合研究所ジャーナル』https://www.bi-p.co.jp/?p=7182

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thumbnail_sasaki佐々木 昭美(ささき あきよし)

取締役会長 総合研究所所長

経営コンサルタント(経営改善、事業開発、ビジネスモデル、 人事戦略、IPO、M&A、社外取締役)

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