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2022/09/22 「経済安全保障」第8回 両罰規定は法人も要確認の経済安保法(第6・7章)雑則・罰則および附則

こんにちは。BIP株式会社・経済安全保障コンサルタントの児嶋秀平です。

私は現在、知的財産の専門家である弁理士として特許事務所を経営しています(https://www.kojima-ip.com)。弁理士になる前は、国家公務員として経済産業省、中小企業庁、資源エネルギー庁、警察庁、外務省、内閣官房等で30年間勤務しました。

この講座では、現内閣の最重要政策の一つである「経済安全保障」を巡る動向と、それが企業に与えるであろうインパクト等について、元国家官僚としての私見を交えつつご説明したいと思います。

目 次

オマケではない!運用上重要な第6章「雑則」、第7章「罰則」、附則

今回は、第2回から続けてきた経済安全保障法の条文ベースの解説の締めくくりとして、第6章「雑則」、第7章「罰則」及び「附則」の解説を行います。
なお、本ミニ講座における説明のうち、意見、推測、主張、感想、賞賛、批判などに係る部分は全て私・児嶋の個人的見解であって、BIP株式会社はもとよりいかなる企業・組織の見解を示すものでもないことはこれまでと同様です。

経済安全保障法の全条文は、内閣官房のウェブサイトに公開されています。
経済安全保障法(PDF)https://www.cas.go.jp/jp/houan/220225/siryou3.pdf
第6章「雑則」は110ページ以降、第7章「罰則」は113ページ以降、「附則」は118ページ以降に記載されています。

経済安全保障法案
第一章「総則」(第1~5条)
第二章「特定重要物資の安定的な供給の確保」(第6~48条)
第三章「特定社会基盤役務の安定的な提供の確保」(第49~59条)
第四章「特定重要技術の開発支援」(第60~64条)
第五章「特許出願の非公開」(第65~85条)
第六章「雑則」(第86~91条)
第86条:主務大臣等
第87条:権限の委任
第88条:行政手続法の適用除外
第89条:経過措置
第90条:国際約束の誠実な履行
第91条:命令への委任
第七章「罰則」(第92~99条)
附則(第1条~11条)

第6章「雑則」(第86条〜第91条)

第86条(主務大臣等)は、この法律に登場する「主務大臣」とは誰かについて規定しています。

第2章「特定重要物資の安定的な供給の確保」における主務大臣は、特定重要物資の生産、輸入又は販売の事業を所管する大臣です。例えば、半導体や鉱物資源の主務大臣は経済産業大臣、医薬品の主務大臣は厚生労働大臣です。
第3章「特定社会基盤役務の安定的な提供の確保」における主務大臣は、特定社会基盤事業を所管する大臣です。例えば、電気事業の所管大臣は経済産業大臣、水道事業の所管大臣は厚生労働大臣、鉄道事業の所管大臣は国土交通大臣です。

なお、第4章「特定重要技術の開発支援」及び第5章「特許出願の非公開」には、「主務大臣」は登場しません。第4章の政府側プレーヤーは内閣総理大臣及び研究開発大臣(研究開発資金を交付する大臣)であり、第5章は内閣総理大臣及び特許庁長官であり、他の大臣には関係しないからです。

第87条(権限の委任)は、この法律に規定する各大臣の権限は、地方支分部局等の長に委任することができる旨を規定しています。この規定により、例えば経済産業大臣の権限の一部は、私がかつて任ぜられていた北海道経済産業局長に委任されます。この規定によって、より地方の実情に即した柔軟かつ適切な法運用が可能となります。

第88条(行政手続法の適用除外)は、第3章の特定重要設備の導入審査、第5章の保全指定等の行政手続について、行政手続法第2章及び第3章の規定を適用しない旨を規定しています。行政手続法第2章及び第3章は、各種申請に対する行政庁の適正手続(審査基準、標準処理期間、公聴会、聴聞等)に係る規定です。

第89条(経過措置)は、この法律に基づく命令の制定又は改廃に伴い経過措置を定める旨を、第90条(国際約束の誠実な履行)は、この法律の施行に当たっては条約などの国際約束の誠実な履行を妨げてはならない旨を、第91条(命令への委任)は、この法律を実施するために必要な事項を命令(政令、省令等)で定める旨を、それぞれ確認的に規定しています。

第7章「罰則」(第92条〜第99条)

具体的には、第3章の特定重要設備の導入と、第5章の保全対象発明の実施等の手続違反を故意に行った場合です。
これらは日本の経済安全保障環境を直接危険に晒す行為であり、この法律において最も重大な犯罪行為と位置付けられています。特に、機微技術の国外流出に直結する保全対象発明に係る違反行為は、未遂犯や国外犯を含む旨が規定されています。

第93条から第96条にかけて、この法律の様々な手続違反行為と罰則を規定しています。罰則は徐々に軽いものになります。
例えば、第5章の外国出願違反は、1年以下の懲役若しくは50万円以下の罰金又は併科です。第2章及び第3章の立入検査に対して資料提出を拒むと、30万円以下の罰金です。

第97条は、第92条と第94条(第78条に規定する第一国出願義務に違反して外国出願を行う行為)については、行為者だけでなくその行為者が属する法人等も罰することを規定しています。組織ぐるみで行われやすい犯罪を対象とする、「両罰規定」です。

第98条は、日本政策金融公庫の役員に対する100万円以下の過料を、第99条は、安定供給確保支援法人又は同独立行政法人の役員に対する20万円以下の過料を規定しています。

附則(第1条〜第11条)

附則第1条は、この法律の施行期日を規定しています。

施行期日は、公布の日(令和4年5月11日)から9か月以内(9月を超えない範囲内において政令で定める日)を原則とし、例外として以下が規定されています。
基本方針の制定は、公布の日から6か月以内です。また、第3章(特定重要施設)と第5章(特許非公開)の基本指針の制定は、公布の日から1年以内です。
第3章の基本指針以外は、公布の日から1年6か月以内で、一部が1年9か月以内です。また、第5章の基本指針以外は、公布の日から2年以内です。

附則第2条は法施行前の特許出願に係る経過措置を、附則第3条は附則第2条以外の経過措置を政令で定める旨を規定しています。

附則第4条は、この法律の施行後3年を目途として、政府がこの法律の施行状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずる旨を規定しています。本条の「この法律の施行後」は、附則第1条の公布の日から9か月以内を指しているので、「施行後3年」は令和7年5月11日になります。

以下は、この法律の施行に伴い調整が必要となる他の法律の改正規定です。
附則第5条は、国立研究開発法人医薬基盤・健康栄養研究所法の一部改正です。
附則第6条は、地方税法の一部改正です。
附則第7条は独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構法の一部改正、附則第8条は、国立研究開発法人新エネルギー・産業地術総合開発機構法の一部改正です。この法律に基づく「安定供給確保支援業務」が、JOGMEC及びNEDOの法定業務に追加されました。
附則第9条は内閣法の一部改正、附則第10条は国家安全保障会議設置法の一部改正、附則第11条は内閣府設置法の一部改正です。それぞれの所管事項に「経済政策」が追加されました。

以上をもって、経済安全保障法の条文全99条及び附則11条の解説は一通り終わりました。

閣議決定は9月中?全体的な基本方針と四つの制度の基本指針に注目!

次に注目すべきは、経済安全保障法の第1章に基づく全体的な基本方針と、第2章から第5章までの四つの制度ごとの基本指針です。

去る9月12日、政府は、「経済安全保障法制に関する有識者会議(第2回)」を開催し、パブリックコメントを経た基本方針及び2つの基本指針の閣議決定案を提示しました。その内容は内閣官房のウェブサイトに公開されています。
内閣官房ウェブサイト:経済安全保障法制に関する有識者会議(令和4年度~)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keizai_anzen_hosyohousei/4index.html

本稿を執筆している9月19日現在、まだ議事要旨は公開されていません。したがって、会議において有識者の間でどのような議論が行われたのかは不明ですが、その議論を踏まえて必要な修正が加えられた基本方針及び基本指針が、早ければ9月中にも閣議決定されるものと思われます。

「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する基本的な方針」(経済安全保障法第1章に基づく基本方針)(案)の構成は、以下の通りです。

  • 第1章 経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する基本的な事項
  • 第2章 4施策の一体的な実施に関する基本的な事項
  • 第3章 安全保障の確保に関し、総合的かつ効果的に推進すべきその他の経済施策に関する基本的な事項
  • 第4章 経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関し必要なその他の事項


「特定重要物資の安定的な供給の確保に関する基本指針」(経済安全保障法第2章に基づく基本指針)(案)の構成は、以下の通りです。

  • 第1章 特定重要物資の安定供給確保の基本的な方向に関する事項
  • 第2章 特定重要物資の安定供給確保に関し国が実施する施策に関する事項
  • 第3章 特定重要物資の指定に関する事項
  • 第4章 安定供給確保取り組み方針を作成する際の基準となるべき事項
  • 第5章 特定重要物資の安定供給確保のための取り組みに必要な資金の調達の円滑化の基本的な方向に関する事項
  • 第6章 安定供給確保支援業務並びに安定供給確保支援法人基金及び安定供給確保支援独立行政法人基金に関して安定供給確保支援法人及び安定供給確保支援独立行政法人が果たすべき役割に関する基本的な事項
  • 第7章 特別の対策を講ずる必要のある特定重要物資の指定に関する基本的な事項
  • 第8章 特定重要物資の安定供給確保に当たって配慮すべき基本的な事項
  • 第9章 その他特定重要物資の安定供給確保に関し必要な事項


「特定重要技術の研究開発の促進及びその成果の適切な活用に関する基本指針」(経済安全保障法第4章に基づく基本指針)(案)の構成は、以下の通りです。

  • 第1章 特定重要技術の研究開発の促進及びその成果の適切な活用に関する基本的な方向に関する事項
  • 第2章 協議会の組織に関する基本的な事項
  • 第3章 指定基金の指定に関する基本的な事項
  • 第4章 調査研究の実施に関する基本的な事項
  • 第5章 特定重要技術の研究開発の促進等に当たって配慮すべき事項その他特定重要技術の研究開発の促進等に関し必要な事項

次回のミニ講座について

次回以降、閣議決定された基本方針及び基本指針の内容について、解説を試みたいと思います。
あわせて、経済安全保障を巡る国内外の情勢についても必要に応じフォローしたいと思います。

BIP株式会社は、「企業様と共に事業開発・経営改善に取り組み、第2・第3の成長を創るパートナー」であることをビジョンとしています。この講座では「経済安全保障」に関して、企業経営者自らの大胆な決断に結びつけるお手伝いができることを目指して連載を進めます。

以上

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第9回 政府、日本企業は早急に台湾有事に備えよ!把握すべき情報と対策の指針

thumbnail_kojima児嶋 秀平(こじま しゅうへい)

弁理士 経済安全保障コンサルタント

このミニ講座では、急速にクローズアップされている「経済安全保障」を巡る法律の立案と関連する動向、それが企業に与えるであろうインパクト等について、私見を交えつつご説明していきたいと思います。
私は現在、知的財産の専門家である弁理士として特許事務所を経営しています。弁理士になる前は、国家公務員として経済産業省、中小企業庁、資源エネルギー庁、警察庁、外務省、内閣官房等で30年間勤務しました。多様な経験を活かして企業の皆様に貢献したいと思っています。

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