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2021/10/20 コーポレートガバナンス・コードの概要

前回は、「ガバナンス」という言葉を切り口にして、企業のガバナンスと企業の成長に関して全体的なお話しをしました。

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日本企業を国際競争に勝てる体質に変革するために、第二次安倍内閣の成長戦略でコーポレートガバナンス(企業統治)を見直すことが示されました。その後、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために守るべき規範として、東京証券取引所が、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめた「コーポレートガバナンス・コード」を策定したのでした。

今回は、このコーポレートガバナンス・コード(以下、本コード)についてお話しします。

目 次

コーポレートガバナンス・コードの主要なプレイヤーはステークホルダーと企業

国際競争に勝てる企業になるために、企業は”誰”を意識する必要があるでしょうか?

本コードの中に登場する主要なプレイヤーは、企業に資源を提供するステークホルダーと、その資源を活用して企業価値を創造する企業です。ステークホルダーとは、株主をはじめとした顧客・従業員・取引先・地域などの利害関係者のことを言います。

本コードでは、企業は企業価値を創造し、その成果を資源提供者であるステークホルダーに返す責務を負うことと、その過程が透明で公正でなければならないことが規定されています

企業が守るべき規範、コーポレートガバナンス・コードの原則は次の5つです。

  1. 株主の権利・平等性の確保
  2. 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
  3. 適切な情報開示と透明性の確保
  4. 取締役会等の責務
  5. 株主との対話

以下、本コードを4つの視点から見ていきましょう。

視点1:株主の権利を守る(第1原則)

まず初めに登場するステークホルダーが株主です。

投資家は、株式を購入して株主となります。株への投資で期待されることは、その企業の持続的成長と、中長期的な企業価値向上です。株主は、自分の投資が事業に活用されて利益を生み、その一部を配当として受け取り、また成長の成果として株式の売買差益を得ることを期待しています。

しかし、企業の業績次第では、配当がゼロになることもあり、倒産によって株式の価値がゼロになることもあります。そのため、株主には自分の資産である株式の価値を守る権利が保障されなければなりません。

これが、企業が守るべき規範の第1原則【株主の権利・平等性の確保】です。

この基本原則では、「株主総会」「資本政策」「政策保有株式」「買収防衛策」「利益相反」などに関して、株主の権利・平等性を確保するための仕組みが規定されています

2018年と2021年の回のコード改訂により、政策保有株式を縮減する方向性が少数株主保護の観点から強く示され、より広い情報開示が求められるようになっています。

視点2:ステークホルダーとの適切なチームワークが企業の価値を支える(第2原則)

ステークホルダーは、漢字では「利害関係者」と訳されますが、これは投資家(株主)・従業員・債権者・顧客・納入業者などだけではなく、広くは地域社会や、行政機関・研究機関・政府などの社会構成要素なども指します。彼らは、企業が事業を進めるために必要な「資源」を有形・無形さまざまな形で提供します。企業の競争力と究極の成功は、彼らステークホルダーとの適切なチームワークによって実現されると考えられます。

コーポレートガバナンスという言葉は、当初は株主と企業との信頼関係を構築するために考え出されましたが、最近は株主だけではなく様々なステークホルダーの提供する資源が企業の競争力と成功に大きな影響力を持つと認識されるようになっており、彼らとの信頼関係も構築していかなければなりません。

これが、コーポレートガバナンス・コードの第2原則【株主以外のステークホルダーとの適切な協働】です。

この基本原則では、「企業理念」「行動基準」「サステナビリティ」「従業員の多様性」「内部通報」「企業年金」など、会社が社会的責任を果たすための事項を規定しています

サステナビリティとはESG(環境・社会・企業統治)要素を含む中長期的な持続可能性のことです。これまでの改訂を通して、サステナビリティを自らの事業課題としてとらえた対応が重要であると強調されるようになりました。人材の多様性の確保や人材確保と育成などの人材戦略もサステナビリティの重要な要素です。

視点3:取締役会は企業の経営と監督を、経営陣は業務執行を託されている(第4原則)

株主は株式を購入することで、企業の「持続的な成長と中長期的な企業価値の向上」を取締役会と経営陣に委託します。この委託を請けるべき取締役会経営陣には、その役割責任が定められています。それが、コーポレートガバナンス・コードの第4原則【取締役会等の責務】です。

この第4原則には原則数:14、補充原則数:21がありますが、これは全体の原則数:31、補充原則数:42のうちの半数近くを占めていて、取締役会等の変革により日本企業の成長と継続的発展をめざす意気込みが窺われます。

この第4原則で、株主を含めたステークホルダーに対する取締役会等の責務は次のように明確に示されるようになりました。

◆ 理念・戦略・計画 会社の経営理念等の確立と、経営戦略や中期経営計画への関与と、その実効性を確保する仕組み作り
◆ 監督 経営陣・取締役に対する監督
◆ 環境整備 経営陣幹部によるリスクテイクを支える環境整備
◆ 説明責任 上記に関する事項の株主を含めたステークホルダーへの説明責任

これまでの改訂によって、その責務はより一層具体的かつ明示的に定義されるようになってきています。

◆ 取締役会の監督の対象 CEOの後継者育成計画や、無形資産への投資、リスク管理体制 など
◆ 関与すべき方針策定 サステナビリティ関連、報酬制度設計と運用、CEO解任手続の確立 など
◆ 取締役会のメンバー構成 社外取締役の比率拡大、独立性の高い指名委員会・報酬委員会の設置、多様性(ジェンダー・国際性・職歴・年齢など)・経験・能力・知識の明確化 など
◆ 説明責任 上記に関する事項の株主を含めたステークホルダーへの説明責任

視点4:情報開示と対話が企業の変革を生む(第3原則・第5原則)

企業は、株主を含めたステークホルダーからいろいろな資源の提供を受けていますが、企業の経営と監督を委託された取締役会と経営陣は、必ずしも十分な情報開示ができていませんでした。
本コードは、ステークホルダーの権利を担保するために、企業がより適切により多くの情報を開示することを要求しています

また、企業からの十分な情報開示は、投資家の健全な経済的インセンティブに結びつくものともなります。

本コードでは主要な開示分野が規定されています。これが、第3原則【適切な情報開示と透明性の確保】です。

適切な情報の公開により、株主を含めたステークホルダーと企業の対話を活性化させ、取締役会での議論に多様な考えをもたらし、企業が内向きの集団思考に陥るのを避ける効果が期待されます。これが、コーポレートガバナンス・コードの第5原則【株主との対話】です。

これらの基本原則では、企業とステークホルダーとの信頼関係構築に必要な、財務および経営成績、会社の目的、主要な株式所有権、報酬、関連当事者の取引、リスク要因、取締役会メンバーなどの情報開示の具体的な開示分野を規定するとともに、ステークホルダーとの対話に向けた社内体制の整備が求められています

これまでの改訂を通して、サステナビリティ、気候変動への対応、資本政策、設備投資・研究開発投資・人材投資などを含む経営資源の配分、事業ポートフォリオの方針などの開示分野が追加されてきました。

企業が本コードに適合しているかという情報自体も、企業が開示しなければならない情報のひとつです。上場企業では、遅くとも202112月末日までに、このコーポレートガバナンスに関する報告書を提出しなければなりませんので、各社ともその対応準備中であると思われます。

これによって、上場企業のコーポレートガバナンスへの対応は、形式上では急速に進展すると思われます。今後は開示した情報が企業とステークホルダーとの対話の共通言語となり、企業の本質的な課題に対する取り組みをステークホルダーが評価しやすくなっていきます。

数年経つと、企業とステークホルダーの関係は情報公開を軸にして次第に変化していくでしょうし、企業の変革への取り組みをより強く促すことになるでしょう。

 

次回のテーマは、「企業のグループガバナンス」です。コーポレートガバナンス・コードの考え方で、親会社と子会社の関係を見直す重要性をお話しします。

以上

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『コーポレートガバナンスとグループガバナンス』
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『グループガバナンスはコーポレートガバナンスのグループ内への展開』

thumbnail_asai浅井 裕(あさい ゆたか)

コンサルタント(経営戦略策定と実行支援、経営管理の企画と実行支援)

私は、上場企業役員及び子会社2社の社長を務めた後、国立大学法人の監事として働きました。その間組織のガバナンスのあり方を考え、今はBIPの中で「社外取締役・コーポレートガバナンス」研究開発部会を主査しております。このミニ講座では「攻めのガバナンス」を話題の中心に据え、企業経営者自らの大胆な決断に結びつけるお手伝いができることを目指し、コーポレートガバナンス・グループガバナンスについての情報を発信していきます。

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