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2021/11/24 グループガバナンスはコーポレートガバナンスのグループ内への展開

前回は、企業が守るべき規範「コーポレートガバナンス・コード」の概要に関して全体的なお話しをしました。

<< 前回コラム「コーポレートガバナンス・コードの概要」

今回は、コーポレートガバナンス・コードの考え方の延長にある「グループガバナンス」についてお話しします。

目 次

グループガバナンスはコーポレートガバナンス・コードの延長上にある重要な領域

実は、東京証券取引所が2015年に策定した「コーポレートガバナンス・コード」の中では、グループガバナンスのことは大きく取り上げられていません。コーポレートガバナンス・コードは主に“単体の企業経営”を念頭においた規範でした。

これに対して経済産業省は、その趣旨をおし広げ補完するものとして、2019年に「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」(グループガイドライン)を策定しました。
こちらは“グループ経営を行う企業”において、グループ全体の企業価値向上を図るためのガバナンスのあり方を示したガイドラインです。

【PDF】経済産業省(2019年)「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」(グループガイドライン)
https://www.meti.go.jp/press/2019/06/20190628003/20190628003_01.pdf

企業が営んでいる複数の事業の一覧「事業ポートフォリオ」の改革は、M&A戦略や、関連企業や事業部門の再編成、コングロマリットディスカウントからの脱却、業界の再編成の基礎となるもので、当社では企業の成長戦略とコーポレートガバナンスにとって、グループガバナンスは非常に重要な領域である、と考えています。

そこでこのミニ講座では、グループガバナンスもメインテーマの一つとして取り上げます。なお、事業ポートフォリオのマネジメントについては、次回から詳しく扱っていきます。

企業グループの場合は親会社とその事業部や子会社の両方で対応する目標と仕組みが必要

企業が成長していくとき、事業の一部を子会社として独立させることや、他社の事業の一部をM&Aによって自身の子会社にすることで“企業グループ“として大きくなることは、企業の成長のふつうのかたちです。

それなのに、コーポレートガバナンス・コードが制定され運用が始まっているこの時期に、改めて企業のグループ経営を「グループガバナンス」として議論するのはなぜでしょうか?

それは、大きな企業のガバナンスを改革するためには、グループ内の組織や子会社の全体に対して具体的な改革をしないと、実質的な企業のガバナンス改革にはならない、と考えられるからです。

コーポレートガバナンス・コードを企業グループの目で見ると、グループ本社とその取締役会を中心に書かれているように見えますが、実際の企業グループの業務は複数の事業部や子会社がそれぞれの経営と執行を担っています。

このため、企業グループのガバナンス改革には<親会社>と<その事業部や子会社>の両方で対応する目標と仕組みが必要です。

グループ本社とその取締役会は複数の役割を果たさなければならない

では、企業グループの中で必要なガバナンスとは具体的にどのようなものなのでしょうか?

前回(第2回)の「コーポレートガバナンス・コードの概要」では、コーポレートガバナンス・コードの4つの視点を示しました。

コーポレートガバナンス・コードの概要 4つの視点
1、株主の権利を守る
2、ステークホルダーとの適切なチームワークが企業の価値を支える
3、取締役会は企業の経営と監督を、経営陣は企業の業務執行を託されている
4、情報開示と対話が企業の変革を生む

これらの視点をもとにグループガイドラインを見てみると、グループ本社とその取締役会などが果たすべき役割が明らかになってきます。

すなわち、グループ本社とその取締役会は、株主などのステークホルダーに対してはグループを代表する顔としての役割を果たし、グループ内の組織や子会社に対しては、グループを束ねて統率する役割と、<グループ内株主>として物申す役割を果たさなければならないということです。

それでは、4つの視点から見ていきましょう。

視点1:株主の権利を守る

コーポレートガバナンス・コード第1の視点は「株主の権利を守る」でした。(前回の視点1

グループ経営の場合は、グループ内の複数の企業が上場している場合があります。

株主総会の議決権は株の保有数に応じて与えられます。「50%以上の議決権の保有」などにより、ある会社の意思決定機関を別の会社が掌握しているとき、掌握している方が親会社、掌握されている方が子会社です。そして、親会社だけでなく子会社も上場している場合、子会社を上場子会社と呼びます。

親会社の持っている株以外は、一般の株主が保有していますが、所有割合が50%未満で決議に影響を及ぼさないため、彼らを少数株主と言います。

投資家は株式を購入して株主となることで、株主としての権利を得るとともに適正な利益を期待しています。
しかし、上場子会社には、少数株主の利益と親会社の株主の利益が相反する場面がありえます。

たとえば親子間で事業の譲渡や現金の預入れなどの直接の取引があるときに、親会社が「高く譲渡して現金を得たい」と考えれば、子会社の少数株主にとっては「高い買い物になってしまう」わけです。このように支配株主である親会社の利益になる取引条件は、子会社の少数株主には不利益になりやすいものです。

日本では、欧米に比べて上場子会社の数が多いと言われていますが、親子上場になじみの薄い海外の機関投資家を中心に、日本の親子上場に対して厳しい視線が向けられています。海外の機関投資家が日本の株式市場でのシェアを30%以上に高めてきていることを考えると、市場の透明性の確保とグローバルな発展のためには投資家の懸念を払拭するための対策が必要です。

このため、経済産業省はグループガイドラインの中で「上場子会社に関するガバナンスの在り方」を示して、親会社と上場子会社の双方に守るべきルールを提示しました。

これがグループガバナンスにおいて企業グループ本社が株主の権利に関して特に配慮すべきポイントです。

視点2:ステークホルダーとの適切なチームワーク

第2の視点は「ステークホルダーとの適切なチームワークが企業の価値を支える」でした。(前回の視点2

企業にとってステークホルダーとは、投資家(株主)・従業員・債権者・顧客・納入業者など直接的な利害関係者だけでなく、広くは地域社会(行政機関・研究機関・政府や住民など)も指します。

企業とステークホルダーとの適切なチームワークは企業の価値を支えますが、ひとたび企業に不祥事が起きるとステークホルダーとの信頼関係が失われます。昨今の企業不祥事では子会社で発生するものが多く、子会社の不祥事であってもグループ全体のブランド力や信頼関係に大きく影響することが多くなっています。

このためグループ本社の取締役会は、本社のリスク管理体制を構築し監督するだけでなく、子会社のリスク管理体制を含めてグループ全体のリスク管理体制を監督できるように、<グループ全体の守り>=グループ全体の内部統制を整備しなければなりません。

このことは、グループガイドラインで「内部統制の在り方」として示されています。

視点3:取締役会は企業の経営と監督を託されている

第3の視点は「取締役会は企業の経営と監督を、経営陣は企業の業務執行を託されている」でした。(前回の視点3

グループ本社の取締役会は、企業グループ全体の持続的な成長と企業価値の向上を株主から委託されている、そして、その責務の対象は企業の業務の実質を担っている企業グループ全体である、と考えなければなりません。

◆ 理念・戦略・計画 グループ全体の経営理念、経営戦略、中期経営計画などを策定し、これをグループ全体に展開します。
新規事業開拓、M&A、協業、基礎研究、人事政策などはグループ全体を見渡して本社が主導すべき戦略です。
◆ 監督 子会社の経営陣・取締役の人事管理(指名・育成・監督と報酬政策の策定)と、子会社の経営の監督をします。
本社は子会社に対して株主でもあり、監督者でもなければいけません。また、子会社の経営陣の指名と監督は本社の経営人材育成の観点からも重要です。
◆ 環境整備 グループとして適切な攻めの経営判断ができる環境を整備します。
事業部や子会社の事業価値を定量的にも定性的にも評価できる体制の整備は重要な本社の役割であり、これは事業の投資と撤退、事業や子会社の売買など重大な判断の基礎となるものです。
◆ 説明責任 株主やその他のステークホルダーに対してグループ全体の戦略と経営の状況を説明する責任があります。

グループガイドラインでは、「グループ設計の在り方」「事業ポートフォリオマネジメントの在り方」「子会社経営陣の指名・報酬の在り方」などとして示されています。

視点4:情報開示と対話

第4の視点は「情報開示と対話が企業の変革を生む」でした。(前回の視点4

グループガバナンスに関連した情報開示と対話には、いくつかの重要な場面が想定されます。

一つは、投資家への情報開示です。
子会社を含めた企業グループ内組織のそれぞれの事業価値に関する情報や、企業グループの再編・売買などグループ経営に関する情報などが対象です。これらの情報、事業ポートフォリオは、投資家が非常に重視するものであり、投資家との対話で適切な情報を開示できていれば、新たな投資への入口にも、企業の変革への後押しにもつながります。

二つ目は、子会社の海外進出や地方進出に伴う情報開示です。
進出先の地元の社会・政府・地元企業・人材・消費者などこそ信頼関係を築くべきステークホルダーです。彼らから適切な支援、「資源」の提供を得るには、グループ本社と進出部門の戦略が明確に情報開示されるべきです。

そして三つ目は、事業や子会社のM&Aを成功させるための情報開示です。
M&A対象になっている事業や子会社についての、グループの中での位置づけや役割・事業価値などに関する情報の適切な開示は、M&Aの相手企業との交渉やPMIM&Aの後の統合プロセス)の重要な鍵となります。

いずれも、グループ本社が子会社に関して正確な情報を把握しておくことが重要です。

国内の先進的な企業はすでにグループガバナンスの改革を進めている

以上、コーポレートガバナンス・コードと同じ4つの視点で、グループガバナンスのポイントを解説しました。

グループガバナンスという視点で、企業内のグループ設計、グループの各組織の評価とポートフォリオ管理、人的投資と人材の獲得・育成、経営人材の育成の仕組み、そして最近話題に上るサステナビリティへの対応などを、グループ内で統一的に見直す機会を作ることが、「攻めのガバナンス」の入口になると思います。

そして、国内の先進的な企業ではこのようなグループガバナンスの改革が進んでいます。

 

次回からは、このような先進的な企業の実績を参考に企業のガバナンスに関連する具体的な話題をテーマとして取り上げてまいります。

以上

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『企業グループと事業ポートフォリオのマネジメント(1)~企業の成長と変革のために事業の構成を変革する』

thumbnail_asai浅井 裕(あさい ゆたか)

コンサルタント(経営戦略策定と実行支援、経営管理の企画と実行支援)

私は、上場企業役員及び子会社2社の社長を務めた後、国立大学法人の監事として働きました。その間組織のガバナンスのあり方を考え、今はBIPの中で「社外取締役・コーポレートガバナンス」研究開発部会を主査しております。このミニ講座では「攻めのガバナンス」を話題の中心に据え、企業経営者自らの大胆な決断に結びつけるお手伝いができることを目指し、コーポレートガバナンス・グループガバナンスについての情報を発信していきます。

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