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2022/06/17 「経済安全保障」第5回 骨太の方針と経済安保法(第4章)特定重要技術の開発支援

こんにちは。BIP株式会社・経済安全保障コンサルタントの児嶋秀平です。

私は現在、知的財産の専門家である弁理士として特許事務所を経営しています。弁理士になる前は、国家公務員として経済産業省、中小企業庁、資源エネルギー庁、警察庁、外務省、内閣官房等で30年間勤務しました。

この講座では、現内閣の最重要政策の一つである「経済安全保障」を巡る動向と、それが企業に与えるであろうインパクト等について、元国家官僚としての私見を交えつつご説明したいと思います。

今回は、先日閣議決定された来年度予算編成の基本方針「骨太の方針」にも照らし合わせながら、経済安全保障法第4章を解説します。

目 次

■来年度予算に「骨太の方針」が反映されるかどうかが経済安保法の実効性を左右する

去る6月7日、政府は「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針)を閣議決定しました。骨太の方針は、年末にかけて政府内で行われる来年度予算編成の基本方針を定めるものです。全体で40ページにわたるこの文書においては、人への投資、スタートアップへの投資、GX/DXへの投資などの「新しい資本主義」の推進と並んで、ロシアによるウクライナ侵略を背景とした「経済安全保障の徹底」についても主要な位置付けが与えられています

以下に、その一部を抜粋します。

  • ・経済安全保障推進法を着実に施行すべく、速やかに基本方針を策定し、サプライチェーン及び官民技術協力に関する施策については、先行して可能な限り早期に実施する。
  • ・半導体、レアアースを含む重要鉱物、電池、医薬品等を始めとする重要な物資について、供給途絶リスクを将来も見据えて分析し、物資の特性に応じて、基金等の枠組みも含め、金融支援や助成などの必要な支援措置を整備することで、政府として安定供給を早急に確保する。
  • ・基幹インフラの事前審査制度について、各省における事業者からの相談窓口の設置を含め円滑な施行に向けた取組を進める。
  • ・シンクタンクを立ち上げるとともに、先端的な重要技術の育成を進めるプロジェクトを早急に強化し、速やかに5,000億円規模とすることを目指して、実用化に向けた強力な支援を行う。
  • ・特許出願の非公開制度について、必要なシステム整備を含め円滑な施行に向けた取組を進める。
  • ・外為法上の投資審査について、地方支分部局も含めた情報収集・分析・モニタリング等の強化を図るとともに、指定業種の在り方について検討を行う。
  • ・国際共同研究等における具体的事例の検証等を踏まえつつ、重要情報を取り扱う者への資格付与について制度整備を含めた所要の措置を講ずるべく検討を進める。
  • ・徹底した省エネルギーを進めるとともに、再生可能エネルギー、原子力などエネルギー安全保障に寄与し、脱炭素効果の高い電源を最大限活用する。
  • ・メタンハイドレート、海底熱水鉱床、レアアース泥等の国産海洋資源の確保に加え、金属鉱物資源等の安定確保に向けた資源循環の促進に取り組む。

経済安全保障法の実効ある施行は、十分な財政措置の裏付けがあってこそ実現するものです。骨太の方針に上記のような文言が記載されたことは、当然とはいえ歓迎すべきことです。なお、エネルギーと金属鉱物資源に関する上記の記載は、手前味噌ですが第2回の本ミニ講座(3月30日)における筆者の主張と軌を一にするものです。いずれにせよ我々国民としては、この骨太の方針が令和5年度国家予算に着実に反映されるよう、政府の動きを引き続き監視していくべきでしょう

骨太の方針の全文は、内閣府のウェブサイトに公開されています。
骨太の方針2022(PDF)https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2022/2022_basicpolicies_ja.pdf

■日本の安全に関わる重要技術に懸念?なぜか努力規定の第4章「特定重要技術の開発支援」

このような政府の動きも踏まえつつ、今回も経済安全保障法の内容を条文ベースで見ていきましょう。

前々回は、経済安全保障法が創設する4つの制度のうち、第一の柱である第2章「特定重要物資の安定的な供給の確保」について、また前回は、第二の柱である第3章「特定社会基盤役務の安定的な提供の確保」について説明しました。

今回は、第三の柱である第4章「特定重要技術の開発支援」(第60条〜第64条)について説明します。
なお、本ミニ講座における説明のうち、意見、推測、主張、感想などに係る部分は筆者の個人的見解であり、BIP株式会社の公式見解を示すものでないことはこれまでと同様です。

経済安全保障法の全条文は、内閣官房のウェブサイトに公開されています。
経済安全保障法(PDF)https://www.cas.go.jp/jp/houan/220225/siryou3.pdf
第4章の内容は75ページ以降に記載されています。

経済安全保障法案
第一章「総則」(第1~5条)
第二章「特定重要物資の安定的な供給の確保」(第6~48条)
第三章「特定社会基盤役務の安定的な提供の確保」(第49~59条)
第四章「特定重要技術の開発支援」(第60~64条)
第60条:特定重要技術研究開発基本指針
第61条:国の施策
第62条:協議会
第63条:指定基金
第64条:調査研究
第五章「特許出願の非公開」(第65~85条)
第六章「雑則」(第86~91条)
第七章「罰則」(第92~99条)
附則(第1条~11条)

■第4章「特定重要技術の開発支援」の趣旨

第4章の趣旨は、政府資料によれば、「政府インフラ、テロ・サイバー攻撃対策、安全保障等の様々な分野で今後利用可能性がある先端的な重要技術の研究開発の促進とその成果の適切な活用は、中長期的に我が国が国際社会における確固たる地位を確保し続ける上で不可欠である。このため、特定重要技術研究開発基本指針を策定するとともに、資金支援、官民伴走支援のための協議会設置、調査研究業務の委託等を措置する。」というものです。

■第4章:第60条(特定重要技術研究開発基本指針)

このため、まず第60条は、政府が「特定重要技術研究開発基本指針」を定めることを規定しています。これは、第2章及び第3章と同じ構造です。この基本指針には、後述する「協議会」(第62条)の組織、「指定基金」(第63条)の指定及び「調査研究」(第64条)の実施に関する基本的な事項が定められます。基本指針は閣議決定を経て公表されます。

■第4章:第61条(国の施策)

第61条は、国が、特定重要技術の研究開発の促進と、その成果の適切な活用を図るため、基本指針に基づいて、必要な情報提供、資金確保、人材養成等の措置を講ずるよう努めることを規定しています。

条文の末尾が「講ずるよう努めるものとする」なので、本条は努力規定です。したがって、国に対してなんら法的義務を課すものではありません。強気のはずの政府が、なぜ「講じなければならない」とせず、このような腰の引けた条文にしてしまったのかは不明ですが、研究開発予算の増大を恐れた財務省の反発によるものであることは想像に難くありません。本条からは、経済安全保障に関して必ずしも政府内が一枚岩ではないことが垣間見えます。

前述の通り、骨太の方針には、「シンクタンクを立ち上げるとともに、先端的な重要技術の育成を進めるプロジェクトを早急に強化し、速やかに5,000億円規模とすることを目指して、実用化に向けた強力な支援を行う。」との文言が記載されています。ここには「5000億円規模」という具体的な金額まで挙げられていますが、「速やかに」及び「目指して」という曖昧な言葉によって、この骨太の方針がいつのまにか骨抜きにされないかが、若干懸念されるところです。

なお、本条において、「特定重要技術」は、「先端的技術のうち、当該技術若しくは当該技術の研究開発に用いられる情報が外部に不当に利用された場合又は当該技術を用いた物資若しくは役務を外部に依存することで外部から行われる行為によってこれらを安定的に利用できなくなった場合において、国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれがあるもの」と定義されています。

また、「先端的技術」は、「将来の国民生活及び経済活動の維持にとって重要なものとなりうる先端的な技術」と定義されています。

このような特定重要技術として具体的に想定されるのは、政府資料によれば、宇宙、海洋、量子、AI等の分野における先端的な重要技術です。

上述した特定重要技術の定義規定からわかることは、第4章も第2章及び第3章と同じく、外部による不当利用や妨害行為を明確に想定しているということです。「外部」とはすなわち仮想敵国を意味し、すなわち現時点においては日本の隣国である中国・ロシア・北朝鮮の三国であることは明らかです。

■第4章:第62条(協議会)

第62条は、国の資金により行われる特定重要技術の研究開発について、その資金を交付する大臣が、「協議会」を組織することを規定しています。この協議会は、個別の研究開発プロジェクトごとに、当該プロジェクトのリーダーと当該大臣によって構成されます。また、大臣が必要と認める者、例えば国の関係行政機関の長、リーダー以外の研究開発従事者、後述するシンクタンクである特定重要技術調査研究機関(第64条)等が構成員として追加されうることが規定されています。

また、協議会の協議事項は、当該特定重要技術の研究開発に係る情報収集分析、促進方策、研究成果の取扱い、情報管理等、とだけ規定されています。協議会ができるだけ様々な事項を議論できるように、ここはあえて抽象的な規定にしたものと思われます。
この部分について、政府資料は協議会を「官民パートナーシップ」と称し、その機能を「研究開発の推進に有用なシーズ・ニーズ情報の共有や、社会実装に向けた制度面での協力など、政府が積極的な伴走支援を実施」と説明しています。この趣旨を条文にもう少し反映しても特に支障はなかったのに、と個人的には思います。

さらに、本条は、「協議会の事務に従事する者又は従事していた者は、正当な理由なく当該事務に関して知り得た秘密を漏らし、又は盗用してはならない」と規定し、協議会関係者に対して国家公務員と同等の厳格な守秘義務を課しています。国の資金すなわち国民の税金を用いて行われる研究開発の成果は公開されるのが原則ですが、本条は特定重要技術の機微な性質に鑑みてこの原則を曲げるものといえます。この点は次の第5章「特許出願の非公開」とも整合しています。

■第4章:第63条(指定基金)

第63条は、特定重要技術の研究開発を促進するための基金を内閣総理大臣が指定し、その基金に充てる資金を国が補助することを規定しています。この基金も、第62条と同様に個別プロジェクトごとに指定され、また、指定基金のための協議会が組織されます。協議会の主な構成員は、当該研究開発プロジェクトリーダー、基金所管大臣及び内閣総理大臣です。

このような指定基金に国の予算を投入する構造を採用することで、予算の単年度主義の弊害が回避されます。通常は複数年度にわたって行われる特定重要技術の研究開発プロジェクトへの支援が容易になるからです。基金については、骨太の方針にも次のような記載があります。「政策の長期的方向性や予見可能性を高めるよう、単年度主義の弊害を是正し、国家課題に計画的に取り組む。事業の性質に応じた基金の活用等を進める」。

なお、指定基金の協議会の関係者にも、第62条と同様の守秘義務が課せられます。

■第4章:第64条(調査研究)

第64条は、内閣総理大臣が、特定重要技術の研究開発に必要な調査研究を、一定の能力基準を満たす法人に委託することを規定しています。その基準として、先端的技術に関する内外の社会経済情勢及び研究開発の動向の専門的な調査及び研究を行う能力や、情報の安全管理のための措置を的確に実施するに足りる能力等を求めています。

この業務を受託する法人を本法においては「特定重要技術調査研究機関」といい、条文からは既存の民間のシンクタンクによる受託が想定されるところです。ただ、骨太の方針には、「シンクタンクを立ち上げる」との文言があることから、もしかしたら新たな国立の調査研究機関を設立する計画があるのかもしれません。その場合は役人の天下りだらけにならなければいいなと思うのは余計な心配でしょう。

なお、特定重要技術調査研究機関の役職員及びそのOBにも、当然、第62条と同様の守秘義務が課せられます。

■第4章の施行期日は2023年2月11日

第4章の施行期日は、「公布の日から起算して9月を超えない範囲内において政令で定める日」(附則第1条)です。これは第2章「特定重要物資の安定的な供給の確保」の施行期日と同様であり、第3章「特定社会基盤役務の安定的な提供の確保」の1年6ヶ月以内よりも短く設定されています。

骨太の方針にも、「サプライチェーン及び官民技術協力に関する施策については、先行して可能な限り早期に実施する。」との記載があります。

経済安全保障法の公布日は5月11日なので、その9か月後は来年令和5年の2月11日となります。第4章の施行が第2章と同日になるかは現時点では不明ですが、政令を何度も出すのは内閣官房としても事務や調整の作業負担が大変なので、第2章と第4章はおそらく同日施行になるのではないかと予測します。

■次回の講座について

次回(第6回)は、経済安全保障法の第5章「特許出願の非公開」について、引き続き条文ベースで解説します。また、経済安全保障を巡る国内外の情勢についても必要に応じフォローしたいと思います。

BIP株式会社は、「企業様と共に事業開発・経営改善に取り組み第2・第3の成長を創るパートナー」であることをビジョンとしています。この講座では「経済安全保障」に関して、企業経営者自らの大胆な決断に結びつけるお手伝いができることを目指して連載を進めます。

 

以上

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第6回 経済安保法(第5章)特許出願の非公開<前編>

thumbnail_kojima児嶋 秀平(こじま しゅうへい)

弁理士 経済安全保障コンサルタント

このミニ講座では、急速にクローズアップされている「経済安全保障」を巡る法律の立案と関連する動向、それが企業に与えるであろうインパクト等について、私見を交えつつご説明していきたいと思います。
私は現在、知的財産の専門家である弁理士として特許事務所を経営しています。弁理士になる前は、国家公務員として経済産業省、中小企業庁、資源エネルギー庁、警察庁、外務省、内閣官房等で30年間勤務しました。多様な経験を活かして企業の皆様に貢献したいと思っています。

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