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2022/03/16 企業グループと事業ポートフォリオのマネジメント(2)~ROICを活用してグループ内の各事業を評価し、変革を促す

前回より「事業ポートフォリオマネジメント」をテーマに解説しています。事業ポートフォリオマネジメントとは、企業が営む複数の事業を管理することです。

<< 前回コラム「企業グループと事業ポートフォリオのマネジメント(1)」

今回は、事業ポートフォリオマネジメントの入口で必要になる「グループ内の各事業を評価し、変革を促す仕組み」と、その際に役立つ指標「ROIC」について詳しくお話しします。

目 次

総合商社業界を大変身させた事業構造大転換の成功事例

商社は事業内容が非常に多岐にわたる業界なのですが、バブル崩壊に前後して、総合商社界は冬の時代と言われる状態に陥っていました。それが2000年頃を境に大変身を遂げ、今やW.バフェット氏も投資をする優良業種に変貌したのです。なぜ、こんなことができたのでしょうか?

この大変身を可能にしたのは、本社機能の変革とビジネスモデルの変革だと言われています。言い換えれば、本社が個々の事業を管理する仕組みと、各事業がお金を稼ぐ仕組みの変革、つまり事業ポートフォリオマネジメントの導入そのものです。

彼らは多角化している各事業を同じ尺度で定量的に評価できる新しい仕組みを構築し、さらにそれぞれのリスクを本社で管理できるようにしました。

本社と事業部門の責任と権限が明確になり、事業ごとに投資の加速や事業撤退などの判断を迅速にできるようになりました。

事業評価は、従来の規模偏重の評価から、利益と投資効率を組み合わせた評価に移行しました。この新しい事業評価は、その頃から世界の主流となっていく企業価値の評価の基本に通じるものでした。

最近では、商社に限らずいくつかの先進的企業で、売上・利益と投資効率をグループ内の事業評価の中心とするところが多くなってきているようです。

事業ポートフォリオマネジメント変革の入口で役立つROIC

総合商社のように、経営の多角化により経営資源が分散していて、それが企業グループ全体の成長を阻んでいると考えられる時、どうすれば改善できるでしょうか?

そのような場合は、グループ内の<各事業に分配された資源>が<効率的に成果を出しているか>を評価して、資源配分を見直します。これが事業ポートフォリオマネジメント変革の入口となります。

その評価と見直しの際に役立つ指標がROIC(投下資本利益率)です。ROICは長期的企業価値向上を求める投資家に有効な評価の考え方として浸透しています。

では、ROICとはどんな指標で、どう役立てればいいのでしょうか?以下で詳しく説明していきます。

ROICは事業体が投下資金に見合う利益を上げているかを測る指標

ROICReturn On Invested Capitalの略で、投下資本利益率と訳されています。

Return”は戻り、つまり効率の指標であることを意味します。“Invested Capital”は投資した資本です。事業に投下した資本がどれほどの成果(税引後営業利益)に結びついたか、その投資効率を測るための指標がROICです

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ここでは、グループ内の事業体やグループ企業のことを引っくるめて「事業体等」と呼ぶことにしましょう。 さて、企業グループの本社は、事業体等に対して資金を提供し、リターンとして利益を得ています。その資金には利子や配当などの資本コストがかかっていますし、グループの持つ資金の総量は有限です。そのため、本社としてはグループ全体の利益の総和が最大になるように、投資効率の高い事業と、成長させたい事業に資金を集中して配分しなければなりません。そこでROICが重要な指標となるわけです。

売上を増やしてコストを下げるための資金の活用戦略

事業体等の経営者は、事業の運営と将来の成長に必要な資金を、本社から獲得しなければなりません。 そのため彼らは本社との資金獲得交渉において、売上を拡大し、コストを低減するための戦略を立て、投入する資金が他の事業より効率的に活用できること、つまりROICの高さを本社に示さなければ、他の事業体との資金獲得競争に不利になります。 したがってROICの導入をテコにして、資金配分を巡って本社と事業体等の経営者間の戦略的対話が促されます。

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ROICは事業体の中の日常管理に役立つのか?

ROICの数字そのものは抽象的で、日々の現場の活動には馴染みません。 しかし、以下のようにROICを売上利益率と投下資本回転率の積に分解して、さらに、これまで現場でバラバラに語られてきた管理指標にまで展開していくと、ひとつひとつがROICというひとつの指標につながって見えてきます。(分解してツリー上にしたものをROICツリーと言います。)

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営業利益率はこれまで事業体等でメインに使われてきた指標で、原価率や固定費率・販管費率などの管理に展開されます。

投下資本回転率はバランスシートに関連した指標で、在庫の管理、債権の回収、設備の活用度(回転率)などの管理に展開することができます。

このようにしてROICは事業体等の統合管理指標として利用することができます。

事業体等のROIC目標値の決め方には工夫が必要

企業グループの本社は、グループ全体の収益性が投資家に返すべきリターンを上回るように資本効率の目標値を設定・配分します。つまり、ROICがその資本コストを上回るようにROIC目標値を設定・配分します。

企業の投下資本の定義は借入金と株主資本の合計です。分母は、有利子負債と純資産の合計にすればよいので分かりやすいですね。
一方で、個々の事業体等の投下資本はこれまであまり明確に定義されてきませんでした。独立した企業と、内部の事業体等とではこの点が違ってきます。

このため、まずグループ本社と各事業体等の間で<投下資本をどのように定義するか?>を決めてから、その上で事業体等ごとの事業効率の目標値をROICとして設定します。そして、その成果を事業体等の評価と、次年度の資源配分の判断材料として使います。
こうしてROICが事業ポートフォリオマネジメントのツールとなるのです。

ROICの数値は事業の属性に配慮して設定されます。投資のフェーズや収穫のフェーズなどの事業のライフサイクルや、事業のビジネスモデルや業種などによって一様ではないためです。

国内の先進的な企業の開示データを見ると、事業体等のROICの目標値は5%10%程度になっているようです。

ROICと売上高成長率で事業の今後の打ち手を判断できる

このROICと事業の売上高成長率とを組み合わせたマトリックスを利用することで、事業の特性を表現することができ、それぞれの事業に対する打ち手を類型化して考えることができます。

①ROICも売上高成長率も低ければ、収益構造改革が必要

②ROICが高く、売上高成長率が低ければ、売上高成長に向けたテコ入れが必要

③ROICが低くても、売上高成長率が高ければ、成長事業として育成の価値があるだろう

④ROICも売上高成長率も高ければ、さらなる成長を目指して投資を続けていくだろう 

このマトリックスによる考え方は、社内の経営の議論の共通言語として活用できるだけでなく、ステークホルダーとの対話においても説得力のあるツールとして利用できます。

企業グループ全体として“攻めのガバナンス“を考える時、事業の多角化のせいで限られた資源(資金)の配分を薄く広く硬直化してしまっていて、グループ全体の成長を抑え込んでいないかを分析することが、変革を促す仕組みとなります。

このマトリックスは、多角化してしまった事業のそれぞれを維持することの妥当性を判断するのに役立ちますし、10年以上過去にさかのぼって分析することで事業の趨勢も見ることができます。

ただ、ROICの値が事業評価と資源配分に大きな影響を持つ仕組みにするには、ROIC導入時点で本社と事業体等の経営者の双方が、投下資本の定義や、ROIC目標値の設定方法、評価の仕組みなどを納得しておく必要があります。このため、企業グループの取締役会には相応の決断と、この仕組みを持続的に改善していく決意が必要になります。

 

次回は、企業グループの企業ポートフォリオマネジメントにおける、事業評価と評価結果の活用について考えます。

以上

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『企業グループと事業ポートフォリオのマネジメント(1)~企業の成長と変革のために事業の構成を変革する 』
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企業グループと事業ポートフォリオのマネジメント(3)~事業評価の6つの仕組み

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コンサルタント(経営戦略策定と実行支援、経営管理の企画と実行支援)

私は、上場企業役員及び子会社2社の社長を務めた後、国立大学法人の監事として働きました。その間組織のガバナンスのあり方を考え、今はBIPの中で「社外取締役・コーポレートガバナンス」研究開発部会を主査しております。このミニ講座では「攻めのガバナンス」を話題の中心に据え、企業経営者自らの大胆な決断に結びつけるお手伝いができることを目指し、コーポレートガバナンス・グループガバナンスについての情報を発信していきます。

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