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2023/04/20 コーポレートガバナンス・コードの効果と影響を考える

コーポレートガバナンス・コードは2015年に策定され、2018年に1回目、2021年6月に2回目の改訂がありました。

昨年6月にはこの第2回目の改訂から一会計年度以上が経過し、上場企業の「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」も出揃いました。これを期に東京証券取引所からは「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況」という資料が開示されました。
そして各方面からコーポレートガバナンス・コードの効果と成果に対する評価が開示されてきています。

このミニ講座では、コーポレートガバナンス・コードへの対応策の効果と成果に対して多様な観点があることを理解するとともに、このような環境を背景に企業経営者の立場で考えるべきことを整理していきます。
なお、ここに引用した資料にアクセスするためのURL一覧を文末に示します。

目 次

金融庁

金融庁では2022年5月に、「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(以下フォローアップ会議と呼ぶ)」をほぼ1年ぶりに開催し、コーポレートガバナンス・コード再改訂(2021年)後の中間点検を行いました。

中間点検として、コーポレートガバナンス改革の効果/影響についての実証研究を調査し、また企業インタビューを行いました。その結果を踏まえて、今後の課題として2点(持続的な成長、企業と投資家との対話)の議論がありました。
会議の結論は議事録には出てきませんが、つぎの2点は認識が共有された模様です。

・ 各企業におけるガバナンス改革は一層進展したが、形式的な充実にとどまり、実質的な成果については未だ評価が定まっていない(見方を変えれば、コードを制定した段階では成果を測る手法は固まっていなかったということだろう)

・ 日本の大企業の内部留保・現預金は積み上がってきているが、持続的成長のための投資(設備投資、研究開発・知財投資、人的投資等)は、コーポレートガバナンス・コード策定以降も小幅な伸びに留まっている

この会議には、以下に述べる国際的な投資家の機関(ICGN)や、東京証券取引所、経団連などの評価資料も提示され、全体を俯瞰した議論がなされています。

ICGN(International Corporate Governance Network:国際コーポレートガバナンスネットワーク)

ICGNは1995年に英米を中心とした機関投資家主導のもと設立され、本部をロンドンに置いています。世界最大級の投資家である米国のカリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS、カルパース)や、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)も参加しています。

資料「コーポレートガバナンス・コード再改訂(2021 年)後の中間点検へのICGN の回答」は、ICGNが上記の金融庁の会議に提出したものです。
ICGNは、東京証券取引所に上場した企業が発行した株式の約30%を保有する「グローバル投資家」の立場から、日本のコーポレートガバナンス・コードの改訂内容とその進捗状況について意見を述べています。

国内では、投資家サイドの論理を前面に打ち出した議論を目にする機会が少ないので、日本企業が世界的な資本市場の中で置かれた状況を理解するためには良い資料だと思います。

内容は、独立取締役の数と質から始まって、取締役会と就業者の多様性、委員会のありかた、資本・資源の配分のあり方、その他の情報開示のあり方などについて、コーポレートガバナンス・コードの徹底などを投資家の立場として要求しています。

・ 独立取締役は経営上の意思決定の質を評価することに投資家の期待を背負っている

・ 投資家への適切なリターンを達成することを含め、資本配分ポリシーを監督することは取締役会の責務である

・ 日本では著しくリスク回避的な資本配分アプローチを取っていて、資本収益率の向上が必要である など

コーポレートガバナンスに関わる人は一度は目を通しておくべきだと思います。

東京証券取引所

2022年8月に「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況(2022年7月14日時点)」を公表しました。その後「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」を継続的に開催して、コーポレートガバナンスに関する改善策を議論しています。
その中では、改訂コードの各原則へのコンプライ率が形式的には順調に向上していることは認めつつ、ガバナンスの質の向上が必要であると捉えています。

日本の資本市場の持続的な発展と、市場参加者の信頼を増大させる観点から、PBR(株価純資産倍率)が1に満たない企業(株価が1株当りの純資産より低く評価されている企業)や、市場区分見直し後に上場基準を満たせていない企業、コーポレートガバナンスの質の向上に意識の低い企業、英文開示が少なく遅い企業、投資者との対話の実効性の乏しい企業などを問題視して、改善を促す取り組みを検討しています。

経団連(日本経済団体連合会)

資料「再改訂コーポレートガバナンス・コードの実効性の向上」は、上記の金融庁の会議に提出した資料です。
ここでは、わが国のコーポレートガバナンス・コードが「持続的な企業価値向上に向けた企業の取組みを後押しするものである」とその意義を認めています。

しかし、コーポレートガバナンス・コードが成長戦略の一環として位置づけているにも関わらず、コードへの取組みの成果は、制定から7年(その前身となる「上場会社コーポレート・ガバナンス原則」の策定からは18年以上)経過した今も実効的な成果感・効果感に乏しく、投資家サイドも含めて形式的にコンプライすることに比重を置く傾向にあると考えています。

その上で、コードの各項目の意義・効果・課題について、具体的に検証・確認作業を継続することを、大企業の経営者の立場から求めています。

経営者の意見

上記のフォローアップ会議の議事録で日立製作所の東原会長はコーポレートガバナンスについて次のことを述べています。
ひとつに、コードやそれに基づく企業の改革の効果は、中長期的価値の向上につながったかどうか、ということで点検すべきこと。
そして、コーポレートガバナンスは企業が主体であるべきだというのが基本的な考えであり、社長、CEOの人たちが会社経営(剰余金の分配も、資本政策のことも)に対してどういうビジョンを持つかというのは非常に重要であるということです。

また、ダイキン工業の井上会長は別の場面で、「ガバナンスというものは、個々の企業文化に根ざした自発的・内発的なものであるべきだと考える。・・・(中略)・・・、企業経営のあり方にこれが正解だといった「最適解」はない。一人ひとりの経営者が自らの信じる道を従業員と一体となって進んでいくしかない。新しい「日本的経営」の形とは、そうした個々の企業のベスト・プラクティスの積み重ねの結果なのだ」と述べています。

元ソニーの出井氏は「米国のGM、欧州のネスレ、エレクトロラックスの社外取締役を務めて分かったのは、国によっても、会社によっても取締役会の在り方は違うということと、一方で、常に自社にあったCGの在り方を探求しているということでした」と述べています。

企業の変革を推進したこれらの経営者は、企業のガバナンスは個々の企業文化と企業理念、企業の抱える課題をベースに作られるものであって、企業が主体的に考えるべきものであると考えているようです。

コーポレートガバナンス・コードはあくまでも枠組みであって、個々の企業は自身の抱える課題を分析し明確に認識した上で、自身にあった解決を探って実践していかなければならないということです。
このミニ講座も次回からは、様々な企業のガバナンス改革と持続的成長に向けた取組みを具体的なプラクティスとして研究して学んでいくこととします。

引用資料にアクセスするためのURL一覧:

機関・筆者 タイトルとURL 公開日
金融庁 「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(第27回)資料
https://www.fsa.go.jp/singi/follow-up/siryou/20220516.html
同上 議事録
https://www.fsa.go.jp/singi/follow-up/gijiroku/20220516.html
2022月5月16日
ICGN * コーポレートガバナンス・コード再改訂(2021 年)後の中間点検へのICGN の回答
https://www.fsa.go.jp/singi/follow-up/siryou/20220516/06.pdf
2022年5月16日
日本証券取引所 市場区分の見直しに関するフォローアップ会議 第8回
https://www.jpx.co.jp/equities/improvements/follow-up/index.html
2023年2月15日
コーポレートガバナンス・コードへの対応状況の集計結果
https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/nlsgeu000006jzbl.pdf
2022年7月14日
経団連 「再改訂コーポレートガバナンス・コードの実効性の向上」
https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/047.html
2022年5月16日
井上礼之 コーポレートガバナンスを担保するのは経営者の高い志と倫理観
https://www.jacd.jp/news/column/column-opinion/220110_post-254.html
2022年1月10日
出井伸之 コーポレートガバナンスを考えることは、経営の基本
https://www.jacd.jp/news/column/column-opinion/210914_post-250.html
2021年9月14日

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コンサルタント(経営戦略策定と実行支援、経営管理の企画と実行支援)

私は、上場企業役員及び子会社2社の社長を務めた後、国立大学法人の監事として働きました。その間組織のガバナンスのあり方を考え、今はBIPの中で「社外取締役・コーポレートガバナンス」研究開発部会を主査しております。このミニ講座では「攻めのガバナンス」を話題の中心に据え、企業経営者自らの大胆な決断に結びつけるお手伝いができることを目指し、コーポレートガバナンス・グループガバナンスについての情報を発信していきます。

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