佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

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2008/09/17 吉田庄一郎『超精密マシンに挑む ステッパー開発物語』と原丈人『21世紀の国富論』

―読書の秋 日本を元気にする100年の視野と智慧、勇気を求めて(1)―

 昨年、2007年9月13日BIエッセイで私は「経済は変調か?」を書いた。世界経済に劇的変化の予兆があり、注意の必要性を述べた。日本人は、金融市場と世界経済への視野と智慧の重要性を認識する必要性を強調した。この1年間で世界の誰もが予想した以上に世界経済の後退が起きつつある。アメリカや新興国含めた経済後退によって、貿易と設備投資という2大エンジンが失速し、日本の4-6月GNP(物価調整後)は、年率換算マイナス3%となった。“デカップリング”から“リカップリング”への転換である。

もちろん、日本固有の変化もあります。昨年日銀による金融の量的緩和廃止以降の信用収縮、建築基準法改正対応遅れによる建築投資減少、時限立法の定率減税廃止、ねじれ国会による政治の不透明感等様々だと思う。

今年の読書の秋は、どうしても世界・日本の激変の深層と未来への智慧に関心が向く。現在の世界・日本経済の現状、日本の未来への智慧を主眼に、100年の長期的視野で学びたいと思った。最近の読書で、気軽に読めて、大変参考になると思った本2冊を紹介したい。

(1)「ステッパーの生みの親」が語るこれからの製造業と日本

 (吉田庄一郎『超精密マシンに挑む ステッパー開発物語』日本経済新聞出版社)

先週、社会経済生産性本部の研究会で著者のニコン相談役吉田氏のお話を伺い、早速頂いた本を読んだ。本書は、「私の履歴書」(日本経済新聞に2007年6月1日から30日まで連載)に加筆したものです。

大学で精密工学を勉強し、1956年に日本光学工業(現ニコン)に入社された。天体望遠鏡、分光器などの設計に従事した後に、ステッパー(半導体製造用縮小投影型露光装置)を開発。精機事業部長等を経て1997年社長、2001年会長兼CEOに就任。現在は相談役として、国内外で活躍を続けている。

半導体抜きに、我々の生活と産業は語れない。ステッパー抜きに半導体製造はできない。吉田氏の人生の履歴書は、戦後日本の製造業の履歴書、世界的成長産業となった20世紀後半の産業の米である“集積回路(IC)”を生み出す半導体産業の履歴書とも一体の面が多い。これからの製造業と日本を考える上で、戦後60数年の生き証人(技術者、経営者、研究者)としての智慧と未来への熱い情熱が感じられる。吉田氏の本を読みながら、すべてのビジネスマンと日本人が学ぶことが多いと思った。 

私が詳細説明するより、まず手にとってみて頂きたい。吉田氏の分身となってあっという間に読んでしまいますよ。

(2)シリコンバレーの日本人ベンチャーキャピタリトが語るアメリカと日本

 (原丈夫(はらじょうじ)『21世紀の国富論』平凡社)

 この本を読むと、真のベンチャーキャピタリストがほとんどいない日本では、多くの日本人が“ベンチャーキャピタリスト”という言葉のもつ固定観念が間違っているということが“そうなのか”と誰でもわかり、原氏の繰り出す整理されたアイデアに引き込まれる。

 原氏の個性と考えを理解する良いブログは、「ほぼ日刊イトイ新聞」である。2007年11月に行われた糸井重里氏と原丈夫氏との対談が写真付きで10回連載されている。考古学研究の資金を得るためにスタンフォード大学工学部大学院を修了し、29才で光ファイバーのディスプレーメーカーを創業し、その売却資金でベンチャーキャピタリトになった。その後の活躍は多彩であり、詳細な経歴はブログや本を読んでほしい。

アメリカと日本の経済の深層分析とアイデアが極めて説得力がある。

1980年代から世界をリードしたアメリカの新興企業はどうして、生まれたのか。
ちょっと長くなるが、引用します。国家戦略という人もいますが違うと述べている。

「1970年代の終わりから80年代にかけて、アメリカの優秀な人材の養成校であるMIT(マサチューセッツ工科大学)やスタンフォード大学の工学部、さらにスタンフォード大学やハーバード大学などのビジネススクール(経営学大学院)を卒業した学生の就職先が、大きく変化しました。彼らはソフトウエア、通信技術、バイオテクノロジーという三つの新しい業種にこぞって就職しました。そして反対に自動車や鉄鋼といった既存の主要産業には人材が集まらない、という現象がおきたのです。
また、ロックフェラー財閥をはじめとする資本家たちは、ロックフェラーセンターのような不動産を売却する一方、ベンチャーキャピタルのファンドを増強しました。彼らが集中的に資本を提供していったのも、エレクトロニクスやハードウエアでなく、やはり三つの新しい産業分野でした。資本家もまた、より付加価値の高い分野に飛び込んでいったのです。」

◇第1章 新しい資本主義のルールをつくる。

原氏は「成功したシリコンバレーのベンチャーキャピタルは死んだ」という。いまや安全志向が投資基準になった。行き過ぎた時価会計の影響もあり、長期にわたるリスク資本が困難になった。“ROEを重視した経営”は、利益率100%に近い「知的工業製品」産業が生まれた時代の経営の流行の産物であり、いずれ修正されるだろうと観察している。関連して、「公開企業には短期的業績に連動するストックオプションは不要である」とも述べている。

◇第2章 新しい技術がつくる新しい産業
 
パソコン版「三種の神器」の衰退を予測する。「三種の神器」とは、「インテルに代表されるマイクロプロセッサー、マイクロソフトに代表されるオペレーテイングシステム、そしてオラクルに代表されるクラアント・サーバー型リレーショナルデータベースです。」と述べている。

機械が人間に合わせる時代、計算機能中心でなくコミュニケーション機能重視の時代を予測する。原氏は、PUC(パーベイシブ・ユビキタス・コミュニケーションズ)という独自の概念を提唱しています。2015年頃を境にPUCを中心にしたハードとソフト一体のコミュニケーション産業への変化です。日本はその主役のチャンスであるという。

以降、「第3章 会社の新しいガバナンスとは?」「第4章 社会を支える新しい価値観」「第5章 これからの日本への提言」は、具体的で重要な提案が一杯です。

 原氏への意外感のある広い視野と提言に、業種を問わずに関心が湧いたのではないでしょうか。この本の帯で、伊藤忠商事取締役会長である丹羽宇一郎氏は「日本の成長戦略をこれほど明確に描き出した本はない。企業経営者、政府関係者のみならず、すべてのビジネスパーソン必読の書」と推薦しています。骨太な内容ですが、本当にわかりやすい本ですよ。

以上

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