佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

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2009/10/13 秋美遊② 必見!特別展「皇室の名宝-日本美の華」は驚き、感動の連続でした

 美術鑑賞が趣味で多くの美術館・博物館を訪れる私にとっても、十年に一度味わう驚き、感動の連続でした。日本美のすばらしさと創作した作家への賛嘆の気持ちが高揚して収まらず、しばし呆然(ぼうぜん)として佇んでいました。世界に誇る日本美術・工芸を持つ日本への誇りをこれ程強く感じたことはなかったと思います。

 天皇陛下御即位二十年を記念する特別展 東京国立博物館特別展「皇室の名宝-日本美の華」(一期10/6~11/3:永徳、若沖から大観、松園まで)は、一日居たいと思う程日本美の名宝に満ちていました。第一章 近世絵画の名品と第二章 近代の宮殿装飾と帝室技芸員 のテーマ構成です。狩野永徳や伊藤若沖らの代表作、帝室技芸員となった横山大観、海野勝珉らの絵画や工芸作品を展示しています。皆様は、もうご覧になりましたか? 是非観てほしいと思います。大変混雑していましたので、早めの期日に、朝一番での入場をお勧めします。

 主催者によると、二期(11/12~11/29)は、「正倉院宝物と書・絵巻の名品」と題して、東京で久々の公開となる正倉院宝物や考古遺物に始まり、小野道風、藤原定家らの名筆や絵巻の競演、天皇の書から皇室に伝わる名刀まで、古代から江戸時代にいたる日本美の精華を展示すると案内されています。

(1)「彩色鮮麗」な圧倒的生命力に溢れる伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)『動植綵絵』全30幅一堂の特別空間

参考書籍1表紙 参考書籍1裏表紙 参考書籍2・3
↑参考文献1表紙・裏表紙、参考文献2表紙、参考文献3表紙

参考文献1:図録裏表紙がその一幅「群鶏図」である。参考文献2:表紙は「紫陽花双鶏図」である。

 これは、現実だろうか、幻想だろうか。若冲の「動植綵絵(どうしょくさいえ)」は二百年以上経っているにもかかわらず、まるで現実の世界に居るように、その描きあげたばかりのような絵の鮮やかさに圧倒され、私は無言で賛嘆の声を上げ続けていた。会場にいる皆様の静かなどよめきが伝わってくる。明治17年刊行の竹本正興著『石亭画談』は、「彩色鮮麗」と述べたという。
 
 動物、植物の生命力が躍動している。孔雀、鳳凰、鶴、鶏、鸚鵡、蝶、魚、虫、貝、芍薬、薔薇、向日葵、紫陽花、牡丹、梅、菊、桃、紅葉。

 同時に一部の研究者が指摘するように、若冲の描く動植物の精緻な実在感には妖しさの漂う美しさがある。私にも、人の意表をつくそのリアリズムの向こうに何かエロティズムが感じられてならないのである。

 一人の芸術家がその一生涯で遺した最高傑作のことを“畢生(ひっせい)の大作”という。「伊藤若冲(正徳六-寛政十二、1716-1800)による「動植綵絵」全三十幅(宮内庁三の丸尚蔵館)もまた、その質・量ともに、若冲の畢生の大作に呼ぶにふさわしい。フランスの美術批評家のエルネスト・シュノーが雑紙『ガゼット・デ・ボザール』1878年9月号で述べた「日本美術の五つの特性」すなわち*思いがけない構図 *巧妙な形態 *豊かな色彩 *絵画的効果の独創性 *絵画的手段の単純さ これらすべての特性が「動植綵絵」には備わっている。」(参考文献2:4ページ)
 
 今回私たちが、「動植綵絵」を一堂に見られるのは、明治の廃仏毀釈で困窮を極めた相国寺が海外への売却を断固として拒否し、皇室が譲り受けたからであった。また、三の丸尚蔵館が平成から始めた保存修理事業の大きな成果であることも忘れてはならない。

(2)近世の名画に出会う:狩野永徳・狩野常信『唐獅子図屏風』、円山応挙『旭日猛虎図』、岩佐又兵衛『小栗判官絵巻』、谷文晁『虎図』、酒井抱一『花鳥十二ケ月図』、葛飾北斎『西瓜図』

 「今回の展覧会は、御物および正倉院や三の丸尚蔵院など宮内庁が所蔵する作品」(参考文献1:3ページ)の中から、近世の名画が多く展示されています。その一部を紹介します。

<狩野永徳・狩野常信『唐獅子図屏風』>
 図録表紙の絵である。雌雄の唐獅子が威風堂々ゆったりと歩む様子を描いた巨大な屏風である。永徳の大画面表現の絵は織田信長や豊臣秀吉の気風に合致していたという。(参考文献3:11ページ)毛利家に伝来し、明治天皇に献上された。

<円山応挙『旭日猛虎図』『牡丹孔雀図』『源氏四季図屏風』>
 応挙が得意とした虎や孔雀の描写は精緻で美しい。写生に習熟し、独自の写生画様式を確立して、円山派と呼ばれる画派を生んだとされる。「若冲が奇想の画家であるなら、応挙は正統派の画家であろう。」(参考文献1:180ページ)

<岩佐又兵衛『小栗判官絵巻』>
全15巻、全長約324メートルの金銀泥と鮮やかな色彩による絵巻である。私も数回訪れたMOA美術館鑑賞をされた方はご存知かもしれない。

<谷文晁『虎図』>
渓流に水を飲みに来た虎を描いた大きな絵で、水面に虎の顔が写っている。独自の画風を確立し、門下に渡辺崋山などを輩出し、江戸画壇の大御所としてその後の文人画壇に大きな影響を与えたとされる。

<酒井抱一『花鳥十二ヶ月図』十二幅>
自由に花と鳥や虫を組み合わせて十二ヶ月図を描いて一組とし、晩年注文が多かったという。尾形光琳に私淑し、江戸琳派と呼ばれた。

<葛飾北斎『西瓜図』>
 珍しい北斎作品を見た。青い広い背景に静物画のような西瓜と包丁が描かれている。細密な描写は晩年にみられるという。北斎80歳の作とされる。

(3)初めて知った明治以降の日本美術・工芸を支えた帝室技芸員制度

 帝室技芸員でもあった作家の名品が多く展示されている。図録掲載の五味聖氏(三の丸尚蔵館学芸室研究員)論文「帝室技芸員たちと宮殿を彩った近代の美術品」に出会って良かった。教わったのかもしれないが、近代日本史で帝室技芸員制度の記憶はなかった。近代美術史ではあるが、日本文化史上も大きな意味があったと思われるので記したいと思った。

「帝室技芸員制度とは、帝室(皇室)の保護のもとに美術奨励を目的として優れた美術家に、終身制の栄誉職としての地位を与えたものである。この保護、奨励、名誉を与えるという制度は、帝室技芸員の任命が行われなくなった戦後、日本芸術院会員や重要無形文化財保護者の認定制度へ引き継がれていくことになる。・・(略)・・明治23年に10名の美術家たちが任命されてから、昭和19年(1944年)まで13回に及ぶ任命があり、総勢79名が帝室技芸員に任命された。」(参考文献1:17ページ)

 当初は、絵画、彫刻、刀剣含む工芸の分野、建築、図案など幅広かったが、後には日本画、洋画、彫刻、工芸という「美術」の枠組みに収まる作家中心になったという。

 展示の一部には、明治宮殿の装飾に使用されたものもある。1873年に建築され戦災で焼失したが、その一部は日本近代の宮殿装飾の調査研究に貴重であるという。

(4)近代の名宝に出会う:橋本雅邦『夏冬山水図』、横山大観『朝陽霊峰』、下村観山『光明皇后』、川合玉堂『雨後』、高村光雲『倭鶏置物』、海野勝珉『蘭陵王置物』、河井寬次郎『紫紅壺』

<橋本雅邦『夏冬山水図』>
江戸狩野派の絵師。明治23年に帝室技芸員。「明治に入り、狩野芳崖とともにフェノロサや岡倉天心のもので新日本画の創造を追求。明治21年(1888年)より東京美術学校で教鞭を執り、横山大観や下村観山、川合玉堂をはじめ多くの俊英を育て教育者としての評価も高い。」(参考文献1:187ページ)

<横山大観『朝陽霊峰』>
大観が生涯描き続けた富士図のなかの屈指の名作とされる。明治宮殿の調度として依頼されたもの。大観は、昭和6年(1931年)帝室技芸員に任命された。島根県足立美術館の横山大観作品群を思い出した。

<下村観山『光明皇后』>
若年期の大作といわれる。狩野派、大和絵などから創造した温雅な画風で活躍。大正6年(1917年)に帝室技芸員。

<川合玉堂『雨後』>
日本画の描線と西洋画の陰影表現が融合した作品とされる。詩情豊かな風景画で有名な玉堂の代表作の一つ。大正6年に帝室技芸員。

<高村光雲『倭鶏置物』>
桜材を用いた作品。「羽の一枚一枚を丁寧に彫り上げ、鶏冠や足の質感の違いまでを彫りで表しており、非常に完成度が高く、近代彫刻に大きな足跡を残した高村光雲の代表作の一つである。」(参考文献1:189ページ)帝室技芸員。

<海野勝珉『蘭陵王置物』>
制作に3年かけた彫金技術の結晶と評される。水戸金工の出身。明治29年に帝室技芸員。

<河井寬次郎『紫紅壺』>
民芸を代表する陶芸家の一人である。中国古陶磁の多彩な技術を再現することに情熱をもっていたといわれる。大原美術館の民芸作品群で河井寬次郎の存在感を知った記憶がある。

文化遺産への庶民の愛着は根強い。鑑定のTV番組人気も続いており、私もよく見る。当然のこととは思いますが、「皇室の名宝」公開企画の英断に拍手を送ります。
以上

(参考文献)
1.東京国立博物館、宮内庁、NHK、NHKプロモーション篇図録『御即位二十年記念特別展 皇室の名宝-日本美の華 一期:永徳、若沖から大観、松園まで』(NHK、NHKプロモーション、読売新聞社、日本経済新聞社 2009年10月)
2.狩野博幸『目をみはる伊藤若沖の「動植綵絵」』(小学館 2000年8月)
3.安村敏信『もっと知りたい狩野派-探幽と江戸狩野派』(東京美術 2006年12月)

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