佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

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2010/05/17 政治経済を読むシリーズ1「3Hから2H1Lへの転換」を説く長谷川慶太郎『メガ・グループの崩壊』

BIエッセイで「政治経済を読むシリーズ」を月1~2回ペースで連載してみたいと思います。政治経済への羅針盤を求める声をいろいろな場面でよく聞くようになりました。適切な本や論文を教えてほしいと尋ねられる機会も増加しました。

経済は政治との関連が深くなり、政治経済を一体で考えるのは世界では常識でしたが、日本でも違和感がなくなってきたように思います。自分の生活がどうなるか、日本の将来がどうなるかは、現実の政治経済に大きく影響されていることを誰もが肌身で感じる昨今ですね。

学問的には、現実の政治経済学=ポリティカルエコノミーは経済学の原点であることは自明であることを最近改めて学びました。そのことを2010/02/08BIエッセイで『日経2009年エコノミストが選ぶ経済図書第1位 猪木武徳『戦後世界経済史』を読んで』で書きました。(詳細はこちら>>

今回は、日本の戦後経済を支えてきた製造業を真正面から取り上げたエコノミスト長谷川慶太郎『メガ・グループの崩壊』の読書メモです。著書を、是非読んでみて下さい。
参考書籍”

(1)経営者・事業リーダーに必須の「政治経済」認識

どんな政治経済状況でも、自立自尊を基本に個人も企業も自ら努力するのは人間の尊厳・経済ルールの基本に拘わり自明であると私は思っていたが、現実の国民意識・学者論調・メディア論調・政党マニフェストはそうとは限らないのが日本も世界も良くも悪くも現実である。もちろん、近代国家として一定のセーフティ-ネットは当然の上での議論であっても。

人間は強くもあるが弱くもあり、熱狂もするが忘れ易いという複雑で賢明な脳をもった高等動物であることを私が忘れていたのかもしれない。

私は、「政治経済」の専門家ではないが、企業経営者の一人として企業経営に直結する「政治経済」の動向も自分なりには勉強するのが当然であり、事業リーダーの義務だとさえ思っています。皆様は、どうお考えでしょうか?

今回、“政治経済を読むシリーズ゙”をBIエッセイで連載することにしましたが、特に推薦書あるいは私の定見ということではなく、参考書を一緒に勉強する現場というつもりで書いてみたいと思います。遠慮なくご批判、ご叱責、ご助言をお願いしたいと念じています。

(2)「3Hから2H1L」への戦略的転換を説く長谷川慶太郎著『メガ・グループの崩壊』

第1回は、先月4月28日に発売された長谷川慶太郎『メガ・グループの崩壊』を一緒に研究したいと思います。以下、読書メモを記します。

刺激的なタイトルは、エコノミスト長谷川慶太郎氏の“危機感と警告を受け止めてほしい”という厳しいが熱い期待のメッセージだと思います。

【1.「3Hから2H1Lへ」~第1章 戦後最大の危機を迎えた日本の製造業】

①経済の基調は、世界的なデフレの時代となった。
・先進工業国の賃金は下がり、新興国の賃金は上がる。従って、新興国は消費市場が広がり、先進国の消費市場は縮小するという。
(成長事例)カジュアルファッションSPA(製造小売業)のユニクロはバングラディッシュで製造
(減少事例)全国百貨店 2009年売上高は10.1%減少。

②何故、いまだ日本経済が大打撃を受けているのか。
・世界貿易で発展した日本製造業が、世界の消費縮小と低価格で外需が減少し、同時に国内市場もデフレで需要が縮小している。デフレは物価の低下と共に、賃金も下がらざるを得ない。

③「3H=ハイテク・ハイクオリティ・ハイプライス」から「2H=ハイテク・ハイクオリティ 1L=ロープライス」への転換が必要
・燃費が良く部品点数の少ない電気自動車の激震~日本メーカーを追う中国BYD
・鉄鋼業界の高炉方式に変わる鉄屑リサイクル技術~トヨタ田原工場近くに東京製鉄電炉建設
・液晶3Dテレビ~日本メーカーを追う世界液晶TV1・2の韓国サムスン電子・LG電子

【2.「高速鉄道・原発・環境・水ビジネス」~第2章 世界インフラで日本は生き残れるのか】

①21世紀は「高速鉄道」の時代~フランス、中国等との国家間受注競争
・米国~高速鉄道網に補助金発表 11路線で全米合計3万キロの高速鉄道ネットワーク計画
・中国~1.6万キロ「大鉄道ビジョン」 「四横四縦」路線計画
・ブラジル~2016年オリンピックまでに、リオデジャネイロ-サンパウロ-カンピース計画
・ベトナム~「南北構想鉄道計画」は、日本の新幹線方式決定

②このままでは部品の下請けになる危険の原子力発電-官民一体、電力会社進出が必要
・米国・ロシア~核軍縮と創エネで原発建設は世界的に激増する
・UAE~日米連合が韓国電力に敗退 2割安く、原発操業、訓練もセット
・ベトナム~日本とロシアが競うが敗退  原発建設と武器供与をパッケージ

③2025年に水ビジネス市場は110兆円
・水関連ビジネスの大半は、上下水道施設の建設・維持・管理である。
フランス~ヴェオリア・ウォーター、GDFスエズは、運営・管理一括運営で先頭走る。
日本~地方自治体が、建設・運営を担当し、海外進出は出遅れている。
大阪市水道局:ベトナムのホーチミン市水道事業改善調査に採用された

【3.「ユーロ消滅?」~第3章 復活に本気の米国、ユーロ崩壊へ向かうEU諸国】

①ギリシャ危機が、ユーロ崩壊の第一歩となるのか?
・ユ-ロが世界通貨という可能性はありえない。ドル基軸体制が続く。

②南北格差で「PIGS」の4ケ国はユーロを離脱するか?
・連鎖すればEC崩壊の危機となるため、ギリシャを支援する可能性高い。

③ユーロ経済の中核はドイツである。

【4.「中国景気、インド・ロシア」~第4章 成長する新興国は日本再生の鍵となるか】

①中国の経済の実態は?
景気は外需でなく国内投資で持続する。
・世界一の自動車市場は、農村で爆発している
・2009年農村部への大規模の消費者ローンの提供開始~社会暴動が頻発する背景である都市と農村の格差是正政策の実行である。

②複雑なインドの慣行
・低価格を実現した自動車50%シュア持つスズキの功績

③ヨーロッパの次ぎに、アジアでの資源輸出ねらうロシア
・天文学的インフラ構築と北方領土の交換も考える可能性さえあるプーチン大統領復帰か?

【5.「民主党分裂?」~第5章 鳩山政権に、このまま日本を任せられるのか】

民主党が政権与党となったので、政権の政策実績への評価を提起している。
①内需振興だけを追うのは民主党の幻想
・構造的に資源少ない国が工業製品を海外に売る外需依存を無視しているのは間違いだと指摘する。

②「高校無償化」は、日本の教育危機を生み出す
・高校の無償化は、政府がお金を出して、今入学していない学ぶ意欲のない層の入学を促し、一層高校の質を下げる政策だと高校の現実を指摘している。むしろ勉学意欲あって困窮する生徒への返済義務のない奨学金(アルバイト給与扱い)に使うべきだと提案している

③ゆうちょ銀行の預入限度額引き上げで「農協」が潰れる?
・地方の信用金庫、信用組合はもとより農協が一層苦しくなる。農協はいまや日本一の大地主であるが、ほとんどの土地は地方の過疎地帯の山林や放棄された農地だという。

長谷川慶太郎氏の博識な情報と問題をズバリ斬り込む鋭さは相変わらずだと大いに刺激となりました。

以上

(参考文献)
1.長谷川慶太郎『メガ・グループの崩壊』(李白社 2010年4月28日)
2.佐々木昭美 2010/02/08BIエッセイ 『日経2009年エコノミストが選ぶ経済図書第1位 猪木武徳『戦後世界経済史』を読んで』

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