佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

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2011/05/23 宮城県視察レポート(2)――日本未曾有の大震災であり、全国民、全産業、国・全自治体の持続的復興支援が必要です。

先週のふるさと宮城県大崎市周辺視察(詳細はこちら>>)に続き、5月19日に宮城県沿岸部、20日は仙台周辺の視察に訪れました。

3月11日地震発生から70日経った状況を「現地・現物・現認」しました。

東北地方太平洋沖大地震によって、被災地は日本未曾有の被害状況にあり、全国民、全産業、国・全自治体の持続的復興支援が必要だと痛感しました。皆様のご支援を心よりお願い申し上げます。

(1)実際に見て実感できた沿岸部の未曾有の甚大な津波被害

【① 名取市閖上地区――人の気配が全くない“津波更地”に衝撃。地域創生が必要。】
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仙台から名取川を越えて、沿岸部の名取市閖上地区に入った。警察と自衛隊の姿が目立つ。瓦礫撤去が進み、一部で瓦礫撤去作業する方以外、人の気配は全くない。21日、韓国、中国首脳もこの地を訪問しました。

瓦礫撤去が進んだ後、建物が何も残っていない事がはっきりと分かりました。公民館、学校等以外はすべて破壊され、流された。閖上小学校は3階まで浸水し、4階に避難したそうです。この地域では、多くの犠牲者が出ました。太平洋戦争時の“焼け野原”という言葉がありますが、草木さえもない一面“津波更地”を何と称すればよいのだろうか。住んでいた方々の恐怖、無念、無常を思うと言葉がみつかりません。強い衝撃を受けました。

今回、訪問できなかった石巻市、南三陸町、気仙沼市、岩手県、福島県の三陸海岸一帯は同様の被害に直面しています。今尚、多くの方々は避難所、知人宅だけでなく全国に避難し、生活されています。自治体機能自体が多くの困難に直面し、全国自治体の支援を受けております。

この地域の復興はどうすべきなのでしょうか。地震、津波への過去の予防対策の検証をしっかりとして、全く新しい地域創生が必要と思いました。全国的国土計画は主に国が権限と財源を担っていますが、地域計画はその地方の責任です。東日本沿岸広域に及ぶ被害に当たって、住民、自治体の意向をよく反映した国土創生計画が必要と思いました。

【② 流れる流木、車に囲まれた岩沼仙台空港は、米軍・自衛隊整地で再開】
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仙台空港は名取市の南の岩沼市にあります。離着陸の関係でしょうか? 東京羽田空港と同じように沿岸部にあります。当時、津波が空港2階まで浸水し、屋上に避難した方々も2日間は孤立した状態だったそうです。

米軍と自衛隊の瓦礫撤去と整地の支援もあって、既に空港は再開されています。

空港周辺は、防砂林の太い大木と流された車で依然として散乱しています。防砂林をよく見ると、細い木は残っていましたが、根も多数生えた太い大木が根こそぎ流されているのが目立ちます。自然が荒れた時の力を侮ってはいけないと痛感しました。

【③ 瓦礫一面の仙台市荒浜地区。仙台東部道路が防潮堤になった。復興計画に影響か。】
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私は、津波被害がひどい仙台市若林区の近くに学生時代に住んでいました。テレビで見ていると意外感が強く、実情を知りたいと思っていました。仙台から車で仙台東部道路を沿岸部目指して走ると、道路を挟んだ両サイドの違いに驚きました。仙台東部道路は、沿岸部から数キロ離れた所を、海岸に沿って南北へ建設され、利府町で仙台北部道路、三陸自動車道につながっています。

学生時代にキャンプしたことのある、海岸に面した仙台市荒浜地区を訪ねました。今回の大きな津波は、この仙台東部道路まで進入しました。沿岸部は津波を遮る高台がなく、津波から避難する住民はこの仙台東部道路目指し、車や走って逃げる姿をテレビで見られた方も多いと思います。道路以東の地域は、津波で無惨な姿となっていました。一面、瓦礫です。残っている家も破壊がひどく、仙台市の発表によると数千戸が全壊、半壊なそうです。この仙台東部道路は防潮堤の役割を果たし、道路以西は地震の被害はあったが、津波災害は免れました。

仙台市が5月に発表した復興ビジョン(素案)によると、この地域は海岸公園と新たな堤防を創り、仙台東部道路の防潮堤機能と合わせて「二重堤防」にしたいそうです。沿岸部住民の住む場所と生活、自営業、地元中小企業の方々の将来にとっては大きな転換となるのは不可避の動きが始まっています。

【④ 瓦礫となった車集積。キリンビール工場、トヨタ車の出荷始まった仙台港周辺】
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地震と津波で仙台港周辺も甚大な被害を受けました。現在、瓦礫の撤去は進んで仙台港は再開しています。
仙台港近くのキリンビール工場横を通りました。ビール缶が相当散乱したそうですが、今は整理され、操業再開しています。大衡町で生産するトヨタ車の仙台港出荷も再開しています。

所有権上、処分がすぐできない自動車の集積が、被災地の各所で目につきました。仙台港には、出荷用の新車も数百台浸水、流されたそうです。破損車が集積されています。地元新聞報道によると、車や全壊、半壊の家屋は、自治体が6月から撤去作業ができるようになるようです。

【⑤ SONY仙台工場、大型商業施設の復旧が進む多賀城市】
多賀城市は、仙台への通勤住民が多く、大型商業施設が集積しています。相当被害が大きいようですが、ほとんどの大型商業施設は営業再開しています。

また、約1500名の従業員を持つソニー仙台工場が多賀城市にあります。甚大な被害ですが、相当部分の操業を開始したそうです。グローバルな大企業の動向は、地域の産業と雇用に大きな影響を与えることがよくわかります。同時に、東北は、自動車、電気、電子、材料の製造、部品工場が多く、世界的サプライチェーンにも大きな影響を与えていることが今回世界に認識されつつあります。日本の国際競争力にとっても、東北復興を急ぐ必要を強く感じました。

【⑥ 多数の島が津波の影響を軽減した松島湾だが、観光客減少の2次被害で閑散】
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大きな桂島はじめ大中小の多数の島が松島湾に浮かぶ観光地松島。多くの方が一度は訪ねたことがある松島は、観光と養殖カキの地域です。

松島は、多数の島のお陰で、津波によるライフラインの被害は軽減されましたが、養殖ガキは甚大な被害を受けています。

松島湾をまわる観光汽船は4月末に再開しました。水族館も4月に全国水族館の支援で再開しました。瑞巌寺、五大堂を訪ねましたが平日とはいえ、観光客は閑散としています。

東北新幹線再開が4月29日と、今回のような大地震で世界的にみても驚異的に早い復旧とは思いますが、ライフラインの影響と自粛の影響もあって、東北の観光地は観光客が激減して深刻です。観光は即時的経済効果もあり、日本成長の柱でもありますので、全国民、全産業あげて支援すべきと思いました。

(2) 耐震建築で表面に見えない以上の仙台周辺の被害実相

【① 3月11日と4月7日の2回地震による仙台周辺の地震被害】
仙台北部の民間企業東北支店を訪ねました。3月11日地震後、電気、ガス、水道、通信、ガソリン不足が複合的で発生し、一部が早期復旧しても全体の営業には苦労が多かったようです。この会社は3月末まで休業し、4月から営業再開したそうです。

電気、通信、水道の復旧は早かった。都市ガスは復旧が遅かったがプロパンガス使っていたので早く使えた。ガソリン不足で車両を使えないことの影響大きかったそうです。東北の石油精製工場、給油所の被災が直接的影響ですが、緊急時に全国からの優先供給を政府で強制執行しないことがどれだけ生活や復旧に障害となったかを実感しました。

4月7日に再び起きた大きな地震では、建物への影響が大きく、建物内壁等が一部破損したそうです。棚の商品はほとんど落ちて、整理し直したそうです。テレビでよく報道される津波被害地や原発地域だけでなく、2度の大地震で宮城県内の建物の被害も多数あった様です。耐震建築に切り替わった仙台周辺の企業は、表面的被害はあまり見えませんでしたが、内部の亀裂、破損、製品、機械設備破損の影響は相当大きいと推察しました。

【②東北大学は建物と研究設備で770億円の被害】
母校東北大学は、仙台市内に5つのキャンパスがあります。今回は訪問しませんでしたが、3月16日の東北大調査によると、全キャンパス600棟の内、「危険」な建物は28棟、「要注意」は48棟。施設の復旧費だけでも約450億円。実験装置などの設備の被害は約700件、約324億円。総額774億円にのぼる甚大な被害です。(5/22日経)4月7日地震の影響で増えているかもしれません。

【③都市ガス復旧に時間。全国都市ガスから支援】
仙台市内の民間企業幹部を訪ねました。仙台市内のライフラインは、比較的早く復旧したそうですが、遅かったのが都市ガスだそうです。全国の都市ガス会社から、仙台市内を地域毎に担当を割り振り、出張で支援にきていたそうです。

災害時に同じセクター、同業者の全国的連携支援は、専門技術力、資格保持人材供給力からみても不可欠で有効なことが分かります。東北全域の都市ガスは約2ケ月でほぼ全面復旧しました。

【④中小企業、自営業への支援が重要だが、課題が多い】
宮城県と東北の経済に詳しい知人と会い、経済の状況について意見交換ができました。

世界企業のサプライチェーンである東北の製造業は、5~6月までには大企業の工場はすべて操業再開のようです。大企業との繋がりの強い中小企業も、復旧のスピードが早い傾向があるようです。

内陸部の中小企業は復旧に懸命であるが、地震被害で建物、設備の再投資が必要である。民間銀行、政府金融の貸し付け支援制度はあるが、過去債務に加えて、新規設備投資による新規債務を抱える「二重債務」への改善措置の要望が強い。また、企業復興のために、研究開発、設備等への直接的助成制度を求める声が強まっているそうです。

震災による経済不振に加えて、原発「風評被害」による販売不振が地元中小企業に困難をもたらしていました。福島だけでなく、東北一体が同じようにみられているようです。

一番深刻なのは、自営業かもしれないと思いました。個人への生活支援制度はあるが、個人事業への支援は法律上書かれてはあるが実行されたことがない状況なようです。地元河北新報でも大きく取り上げられていました。

沿岸部の地震と津波によって壊滅した水産加工業や臨海工業団地は、別途大きなインフラ創生、産業復興政策を求められています。

(3)「複眼二刀流」で明るい未来を――宮城県訪問で思ったこと

2回4日間にわたる宮城県訪問で強く感じたことを3点述べて報告にしたいと思います。今は大変だが、自立力と全国の支援によって明るい未来をつくる魂が立ち上がっているのを感じました。

【①自分の眼、勉強で自立した現状の正しい認識を持つこと】
情報リテラシーを研ぎ澄ますことが大事だと思いました。自分の人生を左右する事態では、信じるにたる情報や本当に信頼できる人を見つけるのは大変ですが、やはり調査研究や勉強して、努力して自分なりの見識を持って生きることが大切だと痛感しました。地元の方々は思った以上に、メディアを盲信しないで現地をよく見て、したたかに生きようと必死でした。

大災害時は、特にテレビ、新聞等メディアの報道に頼ることが多くなりますが、事実の報道は活用しながらも、日本のメディアに登場する「キャスター」「専門家」「素人コメンテーター」の発言を無造作に信用しないことが大切だと感じています。私も毎日ツイートしているソーシャルメディアも大事な役割ですが、内容は偏ったものも多くあります。場合によっては、政府、企業の発表もよく吟味して判断する必要があります。

私は、「複眼二刀流」と言っていますが、現在と未来、国内と海外、節電と発電、倫理と経済、私と公、自然科学と社会科学など複眼から物事を分析し、実践も震災時で言えば、緊急復旧対策と中期復興政策を同時に整合性持つ必要があります。

数年前から、米国では博士号を二つ持っている人の意見は聞くが、一つではダメという時代なのだそうです。まして、日本のテレビは何故か「素人コメンテーター」を多く登場させていますが、私は盲信しないことにしています。事実と評論は分けて、吟味が大事です。事実自体の自らの調査が必要な場合も多い。

【②民間の技術力、復興力、経済力は強く、特に日本企業は必ず復興する】
韓国、中国などから追いつかれている分野もありますが、日本経済を支えている大企業、中小企業の多くは技術力、財務力をもっており、3月決算で震災の特別損失を計上しましたが、6月までには操業は正常化する見込みです。自動車、電気、通信、運輸、電力、化学、流通などの復旧は素早いと思います。

今、最大の経済制約要因は電力供給不足と原発風評被害ですが、それに対しても、自前の自家発電を一層強化し、電力会社と価格競争するほどの自力能力を備えていくと思われます。節電と同時に自前発電です。海外へのメッセージも政府の限界を痛感しており、自前でやる必要性を感じ、実行していくと思います。

東北の被災地の中小企業も、グローバル企業と提携或いは自前で競争力ある技術力持つ企業は早く復旧し発展していくと思われます。順次、多くの企業が追随すると思います。

個人事業主も、現実を冷静に分析し、賢明な判断をするしなやかな日本人が多いと信じています。日本は、職業選択と居住・移動の自由が世界一保障されている国です。

【③今回の大震災は未曾有であり、自然災害に強い自助、共助、公助ネットワークを強化する】
個人も企業も、災害にもっと強くなるためには、自助、共助、公助の3つをそれぞれに強化する必要があります。特に自然災害は、個人では限界があり、共助、公助のネットワークが必須です。

自助は考えることが一杯あります。耐震建築に住むことはもちろん、住む立地も大事なことを学びました。自家発電は基本機能を維持するためだけでなく、経済的にも電力ネットワークの将来を考える必要があります。スマートグリッド構想につながるPHV(プラグインハイブリッド)自動車が一気に広がるかもしれません。1週間分の水、食料、簡易燃料等の準備は安いコストで可能です。震災に耐える経済力を持てるような職業人になることも大切でしょう。エコなライフスタイル、就業スタイルも工夫余地がありそうです。

共助の大切さも実感しました。家族、親戚、友人の大事さ、絆や共同体という言葉も若者にも復活しました。当然ながら、経済的共助である保険の重要性は身に染みて感じた方が多いと思います。競争を超えて、業界復旧への支援も中越地震から一層各業界に広がりつつあります。ボランティアも阪神淡路震災以降に広がりつつあります。各界での義援金キャンペーンが実施されています。

公助は、国・自治体が国民の税金で行います。自衛隊、消防、警察、医者等専門家派遣の活躍が重要なことは再認識されたと思います。自治体職員の全国的連携が効果を発揮しています。自然災害は、国家安全保障でもあり、法律によって制度がありますが、執行の検証や法律自体の不備は修正が必要です。例えば、沿岸部では、堤防への投資が良いのか、高台に住む投資が良いのかを選択する必要があります。政治は、人生のインフラであることを痛感している方が多いと思います。経済人も企業というミクロ経済だけでなく、政治というマクロ経済へのステーツマンの役割が大切だと思いました。

がんばろう 東北! がんばろう 日本!

以上

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thumbnail_sasaki佐々木 昭美(ささき あきよし)

取締役会長 総合研究所所長

経営コンサルタント(経営改善、事業開発、ビジネスモデル、 人事戦略、IPO、M&A、社外取締役)

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