佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

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2011/09/05 「今、日本企業、経営学にとって大切なこと~「災害復興、経済復興、日本再生」の新起点に立って

――野中郁次郎・遠藤功『日本企業にいま大切なこと』に寄せて――

今、私たち日本人・日本企業は「災害復興、経済復興、日本再生」の猶予ない新たな段階に立っています。

9月11日に東日本震災6ケ月を迎えます。遅ればせながら瓦礫撤去がやっと進み始め、これから第3次補正予算編成と来年度予算編成が同時に始まります。東北・関東中心に広範な個性的地域の未来計画を決定する時期を迎えました。日本人は「未曾有」「想定外」のことは起きることを想定しなければならないことを学びました。その備えや課題解決のためには、不完全な人間は科学と感情の両面から解決方向を創造しなければならないことも学びました。

9月2日、憲法の法治主義を軽視し、誤った個人イデオロギー優先で日本破綻を進めた菅首相が総批判を受けて退陣。「脱民主マニフェスト」政策の民自公3党合意を尊重すると表明した野田新内閣が発足しました。

9月1日、野中郁次郎一橋大学名誉教授・遠藤功早稲田大学ビジネススクール教授『日本企業にいま大切なこと』が刊行されました。

猶予できない新起点を迎えて、特に日本企業の経営者・社員、経営学を研究・教育・指導する専門家の方々に基本姿勢と叡知を問い、激励する内容で、時期に合った必読書だと強く感じました。簡単に紹介しながら、私の想いもお伝えしたいと思います。
参考資料

(1)日本企業・日本国民が「働いて・成長して・稼ぐ」時代――復興資金、財政資金を生み出す

終章の遠藤功教授の単刀直入な言葉を噛みしめたいと思います。

「ふがいない政治を抱え、借金まみれのこの国が、突如として起こった戦後最大の難局を乗り切るには、屋台骨である企業が元気を取り戻し、「稼ぎまくる」しかない。マスメディアでは「集める」(徴税)、「使う」(支出)という話ばかりが議論され、「稼ぐ」ことへの意識が欠落している。しかし、「稼ぐ」ことなしに、この難局を乗り切ることは不可能だ。
誤解を恐れずに、あらためて強調したい。
もう一度、日本人は「エコノミック・アニマル」に戻るべきである。全国民が一丸となって働き、東北の復興を支えなければならない。それこそが彼の地に対して行える最大の「支援」だろう。」

民間企業が成長して経済のパイを大きくして税収を増やす。結果として雇用、設備投資増加による経済循環も増え、更に税収も増える。株式市場が上昇し、年金や生命保険の資産も増加する。消費税増税の経済環境も生まれます。

これまでの民主党政府や一部メディアが主張する経済成長抜きの「社会保障と税の一体改革」だけでは経済復興・財政再建・日本再生はなく、多くの経済学者が主張する「経済と財政の一体改革」が解決の王道だと思います。もちろん、国会議員、国家公務員・地方公務員30%削減含む行政改革は当然です。政治はその方向に立ち、リーダーシップを発揮してほしいと思います。

(2)「日本型経営」が世界先進モデルの時代――「アメリカ型経営」の限界を脱却する

この見出しに誤解を招かないためには説明が入ります。本書の全貌を先ず理解して頂くのがよいので目次を紹介します。

序章  日本の経営者は「実践知のリーダー」である ――野中郁次郎
第Ⅰ部 成功している世界企業は「アメリカ型」ではない
第1章 リーマン・ショックと大震災で何が変わったか
第2章 横文字思考の“毒”
第3章 傷ついた日本の「暗黙知」と「現場力」
第Ⅱ部 海外に売り込める日本の強み
第4章 ムダが多いはずの「総合力」が生きる時代
第5章 世界に注目される共同体経営
第6章 優秀な個を結集する「チーム力」
第Ⅲ部 ステーブ・ジョブスに学ぶ「日本型」リーダーシップ
第7章 意志決定のスピードをいかに上げるか
第8章 優秀なミドルをどう育てるか
第9章 賢慮型リーダーの条件
終章  リーダーはつねに現場とともにあれ ――遠藤功

先日、アップルCEO退任を発表したスティーブ・ジョブス氏は、「日本型」のリーダーシップであったという。生き生きした現場から「未来」を洞察する「連続の非連続」イノベーションと述べています。アップルのビジネスモデルイノベーションについては、私が2年前執筆したビジネスエッセイ『iPod・iPhoneと連続するAppleビジネスモデル創造の秘密を探る』(詳細はこちら>>)をお読み頂くとイノベーションの経緯が理解頂けると思います。現場と対話し、試行錯誤の連続から、非連続のビジネスモデルが生まれました。

最近、アメリカでも、マイケル・ポーター(ハーバード大学教授)のファイブフォース分析やバリューチェーンといった「科学的」な競争戦略からはイノベーションは生まれないと考える学者や経営者が増えているそうです。ポーター氏自身が「クリエイティング・シェアド・バリュー(CSV=共有価値の創造)を企業目的にすべき」と言い出しているそうです。日本企業には当然の「共通善」という価値観に欧米が近づいて来ているとの認識です。

世界各国や成功企業は、むしろ「日本型」経営や「通産モデル」を採り入れ発展している。日本の経営者と学者はアメリカ流の経営手法を無防備に過度に採り入れ、日本の競争力の根源であった「現場力」や「戦略的総合力」を劣化させているのではないかと指摘しています。産学官民の日本型連携も再構築すべきと述べています。

勿論、コマツなど「日本国籍のグローバル企業」が少しずつ増えていますが、日本企業は技術力はあるがビジネスモデルが弱い、変化の時代に合わせた経営スピードになっていない等の改革課題は依然として残っています。

(3)新サムライ「複眼二刀流」の時代と「賢慮型リーダーシップ」

この20年間、日本企業と日本経営学に「経営はサイエンス」なる発想が蔓延した。欧米以上に過度に入り口手順の堅牢な緻密さ優先のオーバーコンプライアンスも広がった。その有効性ももちろん一部あった。しかし、結果は論理至上の理論モデル演繹法では、経営という無限の解がある「生きている実体」に競争力と付加価値をもたらす有効な結果はなり得なかった。

これは、昨年参加した2つの学会でも「研究者は、現実の企業経営に役だったのか?と問われて、返答ができるだろうか。」と自己反省の声が公然と表明されたことにも現れています。当然、企業経営者も、米国発の経営思潮に否応なく影響されたのは事実です。

「あらためてふりかえってみると、「失われた二十年」とは日本企業が自我を失っていた二十年でした。グローバリゼーションの激流に翻弄されて欧米的な価値観を盲目的に導入した結果、日本的な価値観が消失し、去勢され、根無し草になってしまったのです。」(遠藤功)

それでは、これからの時代のリーダーはどうあるべきかについて、野中郁次郎名誉教授は「賢慮型リーダーシップ」と称し、6つの能力を提示しています。

①「よい目的」をつくる能力
②「場」をつくる能力
③現場で本質を直観する能力
④直観した本質を概念化し、表現する能力
⑤概念を実現する能力
⑥賢慮(フロネシス)を伝承、育成し、組織に埋め込む能力

私は新春に、志と実践力の両方備えた象徴的な表現として、新しい日本人像を「新サムライ」と称し、「複眼二刀流」を提唱しました。(詳細はこちら>>

二項対立に概念化して選択と集中を迫る単眼の理論モデル主義は限界があるだけでなく、過ちを生じ易い安易な議論であった。現実の社会は複雑で深く広い。「総花」とは異なる多変数の総合的複眼的解決力を求められています。実践が先で、その帰納法による理論は後で生まれます。

企業経営はサイエンスとアートの融合した経験科学として深めていくべきであるとの自信を回復した時、そして多くの日本企業や経営学に広がった時、日本は民間企業・国民の力によって再生に向かって疾走始めると確信します。日本は民の国なのである。

以上 

(参考文献)
1.野中郁次郎・遠藤功『日本企業にいま大切なこと』(PHP新書 2011年9月1日 第1版)
2.板根正弘『ダントツ経営』(日本経済新聞出版社 2011年4月8日 第1版)
3.畑村洋太郎『未曾有と想定外』(講談社現代新書 2011年7月20日 第1刷)
4.坂村健『不完全な時代-科学と感情の間で』(角川ONEテーマ21新書 2011年7月 初版 )
5.佐々木昭美『iPod・iPhoneと連続するAppleビジネスモデル創造の秘密を探る』(BIエッセイ2009年9月14号)
6.佐々木昭美『 2011年新春にあたり “新サムライ 複眼二刀流で 未来拓く”』(BIエッセイ2011年1月4号)

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thumbnail_sasaki佐々木 昭美(ささき あきよし)

取締役会長 総合研究所所長

経営コンサルタント(経営改善、事業開発、ビジネスモデル、 人事戦略、IPO、M&A、社外取締役)

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