佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

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2011/11/14 危機と戦う信越化学の経営。「失われた20年」の間、13期連続最高益更新続けた国際企業

 信越化学工業は、1996年3月期から2008年3月期まで13期連続で最高益を更新続けました。リーマンショック、東日本大震災は信越化学に甚大な影響を与えましたが、利益を出し続けました。

 私は、元信越化学常務であった金児昭氏の著作を通じ、信越化学への興味を抱き続けて来ました。

この度、2010年に信越化学工業会長に就任した金川千尋氏が『危機にこそ、経営者は戦わねばならない』を刊行され、早速読みました。信越化学の経営内容を驚くほど率直に多くの言葉で語っています。

 企業経営者はもとより、広くビジネスマンの方々に興味を持って頂ける本だと思いました。是非、お読み頂ければと思い、簡単にご紹介します。
参考資料

(1)東日本大震災へ立ち向かう――国と社会があっての企業

【大震災で奏功したリスク分散】
 2011年3月11日の東日本大震災で、鹿島工場(茨城)と信越半導体白河工場(福島県)が甚大な被害を受けましたが、会社全体で見ると被害を最小限に抑えられたそうです。

 シリコンウエハーの製造は、福島のほかSEHアメリカ、福井、群馬、長野などに分散していました。
 塩ビは鹿島が年産50万トンに対し、アメリカの子会社シンテックが260万トンとほぼ5倍ありフル生産で対応できた。

 これは、2004年12月と2006年9月に1000億円を超える大型投資を発表し、実施していたことによるものでした。

【目先の仕事で復興に貢献する】
民間企業の経営の意味を改めて考えさせられる言葉があります。

 「震災で失われた住宅の復興には塩ビが必要ですから、復興に備え、早い段階からきちんと供給できる体制にしています。住宅には、窓枠、上下水道用のパイプ、電線の被覆など、塩ビが多く使われるからです。
 また、高速道路の水ハケ用のパイプは塩ビ製で、道路というのは非常に長いですから、ここにも大きな塩ビの需要があります。・・・

 大震災という危機の巨大さに目を奪われ、足下の仕事をおろそかにしてはなりません。目先の仕事に全力を注ぐことが大切で、その積み重ねが、社会の復興にもつながります。」

【民間企業は自分の持ち場で働き、利益を出してこそ復興の役に立てる】
信越化学は、3月11日に震災を受けましたが、2011年3月期決算で予定通り1600億円の経常利益を出しました。企業の社会貢献の確固とした哲学と具体的実践力の凄さを感じます。

「企業の社会的貢献は、利益を出して納税することから始まると私は考えています。大震災という危機にある大変な時期こそ、この原則が大切になってきます。・・・
利益を出さなければ、まず税金が払えません。国としても税収がなければ何も出来ません。震災復興の財源にしても。まずは税金です。・・・復興債を買うことも出来る。民生援助も出来る。新しい投資をして間接的に生活に困っている人を助けることが出来る、そのように色々な形で復興を手助け出来るのも、利益があってこそです。・・・それには自分の持ち場において全力で働き、目先の具体的問題を解決していくことです。」

(2)13期連続最高益を実現した経営――世界一の高利益シンテックの手法を全事業部門へ

 金川会長が理想とする合理的経営がなされていると言われるのは米国子会社シンテックです。信条である少数精鋭主義の見本といっても良いと思います。13期連続最高益更新は、シンテックの優れた経営手法を全事業部門に浸透させ、成長力と収益力を向上させてきた成果です。

 シンテックはアメリカのテキサス州に本社を置く、世界一の塩ビメーカーです。2011年時点の生産能力は260万トンで、日本全体の塩ビ需要100万トンの2.6倍です。社員は460名しかおらず、2億ドル近い利益をあげて、文字通り少数精鋭です。

 もちろん、シンテックの生産設備は最新鋭で、高品質を確保しながら少人数で運営されています。営業は6名で世界中を駆けめぐる。間接部門もムダな人員は置かない。資金回収は秘書が兼務で立派に行う。借金のない経営を目指し、財務担当も不要で、本社財務と社長が短時間見るだけで済む。

 ただ、工場などの場合、安全性や環境などを絶対に守るためには一定の労働力は必要であり、部門毎の役割や機能をよく考えて決定しているそうです。

(3)信越化学の経営哲学と経営手法――日本発独自の経営で世界企業になる

 信越化学の経営手法事例を多く紹介していますが、その一部を取り上げてみます。

【オールドエコノミーを切り捨てない】
古い事業でも、利益が出る間は継続する。新規事業で利益がでるまでには相当の苦労がかかります。肥料事業は利益が出ている間は継続しました。塩ビは古い事業ですが、依然として収益事業の根幹です。

【長期的視点は目先の事業の「朝令暮改」から生まれる】
これはちょっと説明がいります。もちろん、未来の予測はするが、それに基づく計画は立てない。そんなものは間違うものだと考えておく。目先のことをしっかりしておかないと、当初立てた計画に縛られて先入観を持ってしまい、結果として長期的な計画も達成できないのが現実だと冷静にみている。

【経営指標の考え方】
経営の指標としては、配当性向やROEより当期純利益でみる。毎期の純利益が最も簡単明瞭である。
成功の高い案件に投資するために現金を貯めておく。長期的に株主の期待に報いるにはそれが必要である。

【世界に通用する経営を正々堂々と行う】
企業経営は合理的でなければならない。日本的な手法の内、合理的でない年功序列やセクショナリズム、横並び主義から不要な部署や役職をつくることは排除する。

 しかし、経営には温かいものがなければ、お客様も社員も寄ってこない。顧客が苦しいときに助けたことがシンテックの成功に繋がっていると言います。

 私は仕事柄、「会社の改革」について大変興味を持っています。金川会長がその点について述べていることを最後に取り上げて本書の紹介と致します。

 「経営者が戦わなければ、会社はかわりません。経営者が強力な指導力を発揮しなければ、会社の改革など出来るはずがないからです。
 では、会社を改革するために、経営者はどのような能力を要求されるのでしょうか。
 私の見るところ、会社を変えられる人の条件として大切なことが二つあります。それは、まず会社をどう変えるのかという目標をはっきりと持っていること、そして現状を正確に判断できるということ、この二つです。」

 金川会長は、総括的に経営者に必要な資質として、「判断力」「先見性」「決断力」「執行能力」に加えて人格的要素として「誠実さと温かさ」を強調しています。理論からではなく実践から学ぶことを基本とする金川会長の実践経営学の結果としての洞察として深く学びたいと思いました。

以上
(参考文献)
1.金川千尋『危機にこそ、経営者は戦わねばならない』(東洋経済新報社 2011年8月)
2.金児昭『「利益力世界一」をつくったM&A』(日本経済新聞出版社 2007年9月)

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thumbnail_sasaki佐々木 昭美(ささき あきよし)

取締役会長 総合研究所所長

経営コンサルタント(経営改善、事業開発、ビジネスモデル、 人事戦略、IPO、M&A、社外取締役)

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