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 国内最大の携帯電話産業展示会「ワイヤレスジャパン2009」((株)リックテレコム主催7月22~24日開催)を見学した。
 携帯・PHSの契約数が1億件を突破し、既存のサービスは成熟化しているが、新たな高速無線サービス、放送・動画・コンテンツ配信などのサービス、検査機器など関連機器など次世代、近未来への新技術・新サービス展開への胎動を予感させている。

 今後大きく成長するワイヤレス市場への関心はあるが、思った程その内容が知られていない。

 先般、6月22日に掲載したBIエッセイ『2009年はブロードバンド爆発元年!1999年固定系ブロードバンド爆発から10年』が多くのアクセスを頂いた。MBB(モバイルブロードバンド)時代の展望がまとめられている。TOPICSに再掲するのでご参考にして頂きたい。

 また、TOPICS『政府の電波新産業50兆円創出戦略』(詳細はこちら>>)も合わせてご覧願いたい。
ワイヤレスジャパンにて

<再掲載>BIエッセイ2009/06/22号
『2009年は、モバイルブロードバンド爆発元年!1999年固定系ブロードバンド爆発から10年』

 2009年は、「ケイタイ」がモバイルブロードバンド(MBBと略称する)に進化し、爆発普及する元年の予感がする。MBBビジネス市場の幕開けである。BIPビーアイピーは6月、「第1回モバイルブロードバンド(以下、MBBと略称)研究会」を開催した。毎月研究と実践を進める計画である。6月の新聞・雑誌報道を要約し、MBBについてのビジネスエッセイを書いてみました。技術目線と産業史目線の複眼で考えたいと思いました。

 私は、1999年固定系ブロードバンド(以下、FBBと略称)の爆発元年からダイナミックなキャリアビジネス創造の最前線を経験した。ADSL、続く光ブロードバンド等で、日本は10年で99%の地域にFBBインターネットが普及した。産学官連携のE-JAPAN推進によって、日本はインターネットブロードバンド先進国家になった。

 来月7月1日、UQコミュニケーションズ(UQコム)はモバイルWiMAXサービスを開始する。MVNO各社(ISPのビッグローブ、ニフテー、家電のヨドバシカメラ、ビッグカメラ、ヤマダ電機等)もサービス販売を開始する。

 総務省は6月11日、3.9世代無線システム基地局の認可を発表した。2010年7月には、NTTドコモがサービス開始する。各社も順次予定している。

 国際標準化の指針を示す国連機関の国際電気通信連合(ITU)は、6月にスイスで会合を開き、第4世代(4G)携帯電話に対する無線方式の討議をしている。4Gは、20015年に運用開始予定である。

 モバイル端末の新たな進化も始まった。パソコンに似た機能を持つスマートフォンの日本での販売が開始された。日本の情報通信環境は“ガラパゴス島”ではない。FBBとIモードが切り開いた高度モバイル情報流通社会であり、世界のプロの常識は“日本は、未来島(フューチャーアイランド)”になりつつあると思う。
MBBモバイル関連イメージ図 参考文献
(1)2009年7月、次世代高速無線WiMAX(ワイマックス)サービス開始
 UQコミュニケーションズ株式会社(UQコム)は、6月8日に以下の発表をした。『本年2月26日より世界基準のフューチャー・ブロードバンド「UQ WiMAX」を開始し、6月末までを「お試し期間」として基本使用料、登録料とも無料でお客様にご提供してまいりました。このたび、当初計画どおり7月1日より、サービスエリアを首都圏、京阪神、名古屋の各地域に広げ、有料サービスを開始いたします。これに先立ち、お客様がUQ WiMAXを手軽にお申し込みいただけるよう、UQホームページ(http://www.uqwimax.jp)からの受付を本日(6月8日)より開始いたします。また、これまでオープンなネットワーク利用環境の実現に向けて、積極的に取り組んできた結果、本年7月よりメーカー各社からリテールデバイス(メーカーブランドの市販WiMAX製品)が発売されるとともに、MVNO各社のサービスも順次開始されることとなりました。」高速モバイルデータ通信を完全定額料金(月4,480円)、ご利用期間拘束なしで提供する。通信速度は、最大毎秒40メガビットとなる。
 
 UQコムと協力するインテルは、無線LANとWiMAXの両方をサポートする通信モジュールの提供を開始。東芝、パナソニック、オンキュー等が同通信モジュールを内蔵したノートブックPCなどを発売する。

 7月からビッグローブ、ニフティーのISP2社もMVNOサービスを開始する。家電のヤマダ電機とビッグカメラは月額4,480円でMVNOサービスを開始する。

 ヨドバシカメラは、7月に商用化される次世代高速無線「WiMAX」と既存の公衆無線LAN(構内情報通信網)を組み合わせた通信サービスを始める。新サービスでは、移動中はWiMAX、マクドナルドや空港では無線LANという使い方になる。利用料は月額4,480円。

 日本と台湾が、モバイルWiMAXの先進島となる。

(2)2010年7月、3.9世代携帯電話通信システム(LTE)サービス開始
 総務省は6月11日、3.9世代無線システム基地局の認可を発表した。イー・モバイル・NTTドコモ ・ソフトバンクモバイル・KDDI・沖縄セルラーの5社である。各社は3.9世代無線システム基地局の設備投資を開始する。製品、設計、施工する情報通信エンジニアリング各社の株価は、先取りして上昇しつつある。

 報道によると、NTTドコモが2010年7月、イー・モバイルが2010年9月、ソフトバンクが2011年7月、KDDIが2012年12月サービスを開始予定である。
 
 LTE(ロング・ターム・エボリューション)は、現在普及しているW-CDMAやCDMA2000といった第3世代携帯電話(3G)とその先の第4世代携帯電話(4G)との間の通信技術であるため、第3.9世代携帯電話(3.9G)とも呼ばれている。最高速度は、下り方向100Mbps以上、上り方向は50Mbps以上となる。
 
(3)日本の技術で、2015年頃に第4世代携帯電話サービス開始予定
 国際標準化の指針を示す国連機関の国際電気通信連合(ITU)は、6月10日からスイスで会合を開き、第4世代(4G)携帯電話に対する無線方式の討議をしている。4Gは、20015年頃に運用開始予定であるという。

 ITUが、2008年11月に4Gシステムの開発用件を発表した。欧・米・アジア主要国の標準化団体で構成する次世代移動体通信の検討組織「3GPP」は、日本企業の技術を積極採用して、第4世代(4G)携帯電話に対応する無線方式「LTE―Advanced」を開発し、ITUに提案している。日本からは、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、イー・モバイルの通信事業5社、NEC、富士通、日立製作所などメーカー9社の合計14社が参加し352件の技術提案を行ったという。日本の技術が世界標準にイニシアティブを発揮している。

 携帯電話の世代別ダウンロード時間を映画DVD(約2時間)で比較してみる。現在の第3世代が21時間、3.9世代は4.8分、第4世代では30秒と予測されている。映像が戸外のどこでもモバイル端末でスムーズに流通できる時代が来る。

(4)アップル、グーグル等スマートフォンは衝撃?モバイルSaasの幕開け!
 iPhoneのように、携帯端末がPC(パソコン)に似た機能もつ製品は「スマートフォン」と呼ばれる。

 米アップルの高性能携帯電話「iPhone(アイフォーン)」の新モデル「iPhone 3G S」が6月26日に日本でも発売される。通信速度は現行モデルの2倍の最大7.2メガビット(メガは100万)である。音声操作やビデオ撮影機能も加わったという。

 グーグルも黙ってはいない。6月にNTTドコモは、スマートフォン「HT―03A」を今年夏に発売すると発表した。NTTドコモの通信カード(SIMカード)を差し込むとすぐ使える。グーグルのOS「アンドロイド」を搭載している。

 何故、スマートフォン発売が大きな話題になるのか。実は、電話機能ではなくて、その情報流通のアプリ(アプリケーション)にある。

 iPhone(アイフォーン)の最新OS(基本ソフト)の「OS3.0」。今やアプリの種類は5万本以上、ダウンロード回数は10億を突破したという。このアプリは、これまで「売り切り」しかできなかったが、OS3.0では「アプリ内課金」という仕組みでコンテンツ開発提供者70%、アップル30%の配分を継続することを可能にし、課金主導権をコンテンツ側にする革新を行った。メディア、コンテンツの個人、企業が喜んで参入するビジネスモデルに変貌する。

 グーグルのスマートフォン「HT―03A」は、グーグルが開発するOS「アンドロイド」が無償で提供される。携帯OSを無償にして通信事業者やコンテンツ事業者の開発コストを下げ、携帯の標準OSを獲得して、広告収入のビジネスモデルを30億台の携帯端末に拡大する戦略と思われる。

 そのアプリを最も早く全国民が使う可能性があるのが、日本である。私は、3つの要素が、日本に揃っているからだと思う。「天地人」(天の時、地の利、人の和)である。

 第1は、FBB環境が完了し、MBB環境が2009年から開始され、2010年には3.9G携帯通信環境という膨大な設備投資が必要なICTインフラが整備される。FMBC(固定とモバイルのブロードバンド統合)の時代である。天の時である。

 第2は、日本の携帯電話は、電話機能だけでなくiモードが切り開いたモバイル情報流通市場が出来ている。欧米の携帯電話は文字通りほとんど電話用途中心で低額利用である。日本は、電話代と情報流通代で欧米の数倍のお金を使うニッチな高額市場である。1億台の携帯市場は世界的にも大きい。キャリアは、Suicaなど非通信サービスも進めており、社会システム産業になりつつある。“日本は未来島(フューチャーアイランド)である。”地の利である。

 第3は、技術の国際標準化による国際協調と日本のイニシアティブの発揮という産学官の方向が一致してきている。インターネット20年の成功と失敗の教訓を学びつつある世代が各分野のリーダーに成長しつつある。人の和である。

 スマートフォンの衝撃と話題になる大きな要素は、関連産業のパラダイムシフトを内包しているとの予感が強いからであろう。そのためには、一定の専門的知識が必要である。
 
 『モバイルSaaS スマートフォンの衝撃』(参考文献1)は、的確なガイドである。関連ビジネスに関わる方は、初歩的知識として大変役立つ1冊である。

 スマートフォンは、多くの新しい個人ニーズと法人ニーズを可能とする。結果として、個人市場と共に、法人市場も塗り変わる。ビジネスプレイヤーを、モバイルSaasプラットフォームとモバイル端末プラットフォームの2つに区分して関連する技術とビジネスを論じている。著者の資料をBIPで整理編集して、イメージ図を作成してみた。各業界の期待と不安の衝撃はわかる。落ち着いて、同時に速やかに正確な理解から始めることをお勧めしたい。

 また、『世界を制した「日本的技術発想」』(参考文献2)は、携帯電話事業を産業史的視点で論じた好著である。第1章が、「日本的技術発想の突破力~携帯電話の事例研究」である。

 『独自の「ケータイ文化」を構築するまでに成長した日本の携帯電話の最大の特徴は、「多機能化」と「複合機器化」である。』(参考文献2:23ページ)と本質を指摘している。この文化の原点には、1979年夏にソニーが発売した携帯型カセットプレーヤー「ウォークマン」があると語る。そして、1999年2月に始まったNTTドコムのiモードサービスは、今や世界の携帯電話市場を情報サービス市場に塗り替えつつある。2000年11月にカメラ付き携帯が発売され、今や60%以上の搭載率である。薄型へのデザイン力と部品開発力も日本が強い。スマートフォンのビジネスモデルの未来島(フューチャーアイランド)は日本である。志村氏は、現在は第3のジャポニズム時代と述べる。技術力によるクールジャパンである。日本の「ケイタイ文化」はその一つである。

 MBB時代に合わせて、BIPビイアイピーは講演テキストを改訂した。『NGN・MBB時代におけるハイブリッドSI・SEの黄金時代』である。一緒に研究し、行動しながら成功に向かいたい。詳細はこちら>>
以上

(参考文献)
1.津田邦和・徳納尚成・辻 康博・中山五輪男・齋藤壽勝『モバイルSaaS スマートフォンの衝撃』(リックテレコム 2009年3月)
2.志村幸雄『世界を制した「日本的技術発想」』(講談社 2008年11月)
3.『日経産業新聞2009年6月1日』(日本経済新聞社)
4.『日刊工業新聞2009年6月5日14版』(日刊工業新聞社)
5.『電経新聞2009年6月15日』(電経新聞社)
6.『日経新聞2009年6月20日12版』(日本経済新聞社)
7.『産経新聞2009年6月21日12版』(産経新聞社)
8.『日経ビジネス2009.6.22』(日経BP社)

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