佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

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2009/08/03 夏美遊①隈研吾氏設計サントリー美術館「美しきアジアの玉手箱」鑑賞&リッツ・カールトンホテルの夕べを楽しむ

 2009年夏本番の8月。仕事のONとOFFを上手にスイッチする季節です。夏美遊(びゆう)というタイトルで、私のOFFを何回か書いてみます。皆様はどんな夏をお過ごしでしょうか。

 「また来てみたい!」と、心が静かに、しかし決然とリピートを命令している。この種のことでは珍しいことである。

 私と同様に美術鑑賞趣味の仲間と急に夕方から会うことになった。赤坂の弊社事務所から近い東京ミッドタウンに出かけた。隈研吾氏建築設計のサントリー美術館で『美しきアジアの玉手箱-シアトル美術館所蔵 日本・東洋美術名品展(7/25~9/6)』を鑑賞した後、リッツカールトンホテル45階で夕食を堪能しながら美術の話が弾んだ。

「そうなのだ。確かに社交の場面で、美術の話は共通言語である。」(参考文献7:37ページ)と西洋美術史家・木村泰司氏は述べている。

 美術好き同士の酒の肴は、やはりシアトル美術館所蔵の日本・東洋美術品である。私は、本阿弥光悦・俵屋宗達『鹿下絵和歌絵巻』。友人は、狩野派の不詳絵師作『烏図屏風』。共通して印象的だったのは、深い深紅の景徳鎮窯『紅釉瓶』であった。前宣伝の通り、名品揃いの美術展である。サントリー美術館は、数回来ているがいつも大満足をくれる。

 また、サントリー美術館の隈研吾氏建築設計にも強く惹かれた。概観の白磁の縦格子が外の空間と繋ぐ、木と和紙の意匠を眺めながら館内を移動する。酒樽材を再生活用した木目の床を歩く。和風が自然に全体建築環境にマッチしている。建築家・隈研吾氏に興味を持ち、著書『自然の建築』(参考文献5)を読んだ。20世紀の潮流モダニズムを受け止め、自己革新に挑戦し続ける謙虚な建築家だと思った。

 おもてなしNO.1ホテルといわれるリッツカールトンホテルの夜の眺望は、「素晴らしい」の一語に尽きる。東京の夜景が一望できる。美味しい和風料理と、きめ細かなサービスに友人は喜んでくれて嬉しかった。一緒に出てきた言葉が「また来てみたい!」である。

(1)平日に気軽で嬉しい東京美遊:サントリー美術館&リッツカールトンホテル

 サントリー美術館にて
 2009年夏、東京ミッドタウンは平日でも気軽で素敵な東京美遊空間だと思う。

 皆様ご存知のように、サントリー美術館は2007年3月30日に六本木東京ミッドタウンに新築され再スタートして2年である。日・月曜・祝日は10~18時開館、火曜休館、水~土曜は10~20時開館。平日の18~20時はペア割引もある。20時まで開館の日が、水・木・金と平日に3日間あるのが嬉しい。午後休暇或いは仕事帰りの夕方からでも多様なプログラムが企画できる。

 今回、私と同様に地方出身で美術鑑賞趣味の仲間と仕事後に夕方から会うことになった。赤坂のBIPビーアイピー事務所から近い東京ミッドタウンへ、都営バスで六本木まで出かけた。隈研吾氏建築設計したサントリー美術館で『美しきアジアの玉手箱-シアトル美術館所蔵 日本・東洋美術名品展(7/25~9/6)』を鑑賞した後、リッツカールトンホテル45階で夕食を堪能することができた。それぞれが自分なりの美術鑑賞をし、その後の愛好家同士の食事しながらの語らいは楽しいものだった。

 ラグジュアリー即ちおもてなしサービスNO.1ホテルといわれるリッツカールトンホテル。ホテル45階からの眺望は、本当に「素晴らしい」。時刻と共に、夏の明るい夕方の眺めと光の輝く夜の夜景が広範囲に一望できる。今回は日本料理を味わったが、四季の素材を生かした多彩なメニューとその美味しさは格別である。ワインも、日本産を所望したが、海外産に負けない味わいのセレクションが嬉しい。きめ細かなサービスは流石である。友人は大変喜んでくれた。
 
 東京ミッドタウンは、魅力に溢れた都市空間である。散歩、ショッピング、美術鑑賞、食事、宿泊。和を生かしたユニバーサルな雰囲気が心地良い。東京ミッドタウンプロジェクトの中心であった三井不動産社長岩沙弘道(いわさひろみち)氏は、こう語っている。
「私は東京ミッドタウンで21世紀の都市再生プロジェクトのモデルを世に問うたつもりです。この事業では新しい街をクリエイティブに造りましたが、既存市街地の再生も普遍的にやらねければならない。それが、私たちの地元、日本橋の再生です。」また楽しみである。(参考文献8) 

(2)「宝石」揃い『美しきアジアの玉手箱-シアトル美術館所蔵 日本・東洋美術名品展』

参考文献
 アメリカ西北部にあるシアトル美術館の東洋美術コレクションは、「光輝く宝石の数々」「宝石箱」と呼ばれるという。リチャード・フラー氏の創立になる個人の美術館である。アメリカにはたくさんの個人美術館があり、私も、ハワイ、ボストン、ニューヨークの一流個人美術館を訪ねたことがあった。
 
 シアトルは、ご存知のようにイチロー所属の野球球団マリナーズ、コーヒーチェーンのスターバックス、ウインドウズソフトのマイクロソフト、航空機ボーイングの各本社がある。歴史的には、明治以来日本からの移民が多い地域である。

 数年前にアメリカのボストン美術館、メトロポリタン美術館を訪問して、所蔵する日本・東洋美術コレクションの素晴らしさを体験し、今回のシアトル美術館企画展は是非観たかった。

<図録表紙にも取り上げられた『烏図屏風(からすずびょうぶ)』>

烏図 (左隻)六曲一双 江戸時代 17世紀前半 シアトル美術館蔵 烏図 (右隻)六曲一双 江戸時代 17世紀前半 シアトル美術館蔵
※左:烏図 (左隻)六曲一双 江戸時代 17世紀前半 シアトル美術館蔵(無断転載禁止)
※右:烏図 (右隻)六曲一双 江戸時代 17世紀前半 シアトル美術館蔵(無断転載禁止)

 友人は、図録表紙に取り上げたこの絵の躍動感に感動したと言った。この屏風の一部を使ってデザインされた6枚のバナーが、シアトル美術館の正面を飾っているそうです。

「漆黒の烏が総金地の画面に数十羽(右隻に43羽、左隻に47羽)、空を舞い、地に舞い降りて翼を休め、あるいは餌を啄(ついば)み、また声をあげてけたたましく鳴き騒ぐさまを描いた六曲一双の屏風」(参考文献1:29ページ)で、「飛鳴宿食(ひみょうしゅくしき)」の四つの姿態に描く桃山時代以降の作品と言われる。

<日本文化のロマンに満ちた本阿弥光悦書・俵屋宗達画『鹿下絵和歌巻(しかしたえわかかん)』

鹿下絵和歌巻 本阿弥光悦書 俵屋宗達画 一巻 桃山時代~江戸時代 1610年代 シアトル美術館蔵
※鹿下絵和歌巻 本阿弥光悦書 俵屋宗達画 一巻 桃山時代~江戸時代 1610年代 シアトル美術館蔵(無断転載禁止)

 私は、光悦の和歌の書と宗達の多彩な鹿の動きに見入った。眼や口はやさしい表情で、華奢(きゃしゃ)な足は軽やかである。鹿は和歌の世界では秋のモチーフである。『新古今集』巻四の秋歌28首を本阿弥光悦が書写し、俵屋宗達が下絵の鹿を描き、秋の季節感を醸成している。実業家・収集家益田孝(純翁)所有であった22メートルに及ぶこの作品の変遷とデジタル修復事業も新しい発見であった。

 白原由起子氏(前シアトル美術館東洋美術部長/根津美術館学芸課長)の解釈はロマンチックである。
「秋は、鹿にとって恋の季節である。この季節、宵闇の向こうから聞こえてくる鹿の呼び声を、歌人は恋人を思う心に重ねた。宗達はその声の主たちの群れ遊ぶ姿を軽やかに描くことで、見るものに鹿の声を聞かせてくれるのである。和歌巻にみられるこうした書と画の融合、そこから広がる想像の世界をつくることに、アート・ディレクター光悦の意図はあったのではないだろうか。これは筆者の気ままな解釈であるが、そのようなことを思わせるほどに、この和歌巻は見る者を飽きさせない魅力にあふれている。」(参考文献1:28ページ)

<心引き込まれる深い深紅の景徳鎮窯『紅釉瓶』>

 友人と私が一致して印象深いと感じた作品が、景徳鎮窯『紅釉瓶』である。底にゆくにしたがって重く垂れる深紅の紅釉は、西洋では「牛血紅(ぎゅうけつこう)」と呼ばれるという。じっと見ていると心が引き込まれるように深紅である。
「牛血紅釉は釉薬に微量の銅を加えて還元炎で焼成し、窯を冷やす最終段階で酸化させて創り出す。」(参考文献1:220ページ)

 衰退する清朝後期から中華帝国において、西洋への威信である陶磁器が急騰した。西洋人は紅釉を重んずるが青磁は退ける風潮の影響を受け、紅釉が優位となったとされる。陶磁器も歴史に翻弄されながら生き続けている。

(3)隈研吾氏建築設計の『自然な建築』サントリー美術館:白磁の縦格子、木と和紙の意匠、酒樽材を再生活用

参考文献 サントリー美術館(c)木奥恵三
※サントリー美術館内画像(右)©木奥恵三(無断転載禁止)

 サントリー美術館の設計を手がけたのは建築家・隈研吾(くまけんご)氏である。数ケ月前にその隈氏の講演を聞く機会があった。その作品と偶然の出会いである。

『めざしたのは「都市の居間」としての居心地の良い美術館です。日本の伝統と現代を融合させた「和のモダン」を基調に、安らぎと優しさに溢れた空間が実現しました。外観は白磁のルーバー(縦格子)に覆われ、透明感すら感じさせます。館内には、木と和紙を意匠に用い、和の素材ならではの自然のぬくもりと、柔らかい光を表現しています。また、館内の随所で床材にウイスキーの樽材を再生利用しています。』(参考文献2)

 隈研吾氏は、著書『自然の建築』でサントリー美術館の和紙技術の背景を紹介している。

『江戸時代までの日本の家にはもともとガラスがなくて、和紙で内と外を仕切っていたということに気づいた時は、衝撃を受けたといっていいほどにびっくりした。なにしろ日本で最初に板ガラスの生産を始めたのは1907年という「最近」なのである。あの薄っぺらな紙と板で内と外を仕切るという繊細な文明に、もう一度たちかえれないだろうか。台風も地震も雷も大雪もある国で、一枚の和紙が、建築の内と外とを仕切っていたのである。自然という相手とそのようにつきあっていたのである。その驚くべき事実に気づいたあと、コンクリート、鉄、ガラスといった武骨な素材で自然から身を守る時代の前の、しなやかな建築、しなやかな文明をもう一度作れないだろうかと、ずっと考え、試し続けている。』(参考文献5:178ページ)

 和紙を強化する日本の技術は今も実在した。第2次大戦終盤、米国では報道管制で知らされなかったが、日本の米国への風船爆弾に使用され驚くべき効果を発揮した。この技術は、和紙を柿渋とコンニャクで強化する完璧なものである。私も初めて知り、驚いた。日本人の先輩の知恵に脱帽する。

 隈研吾氏との講演・作品そして著書との偶然の連続した出会いに触発され、建築の美遊探索の思いを抱いた。出会いを導いた神様に感謝である。

(追記)
『美しきアジアの玉手箱-シアトル美術館所蔵 日本・東洋美術名品展』は、この後下記会場で巡回展示されます。
 ・神戸市立博物館2009年9月19日-12月6日
 ・山梨県立美術館2009年12月23日-2010年2月28日
 ・MOA美術館2010年3月13日-5月9日
 ・福岡市美術館2010年5月23日-7月19日

(開催基本情報)
 「美しきアジアの玉手箱―シアトル美術館所蔵 日本・東洋美術名品展」 

 会場:
 サントリー美術館
 東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア3階

 会期:
  2009年7月25日(土)~9月6日(日)
 ※会期中、展示替えを行います。

 開館時間:
 〔日・月〕10:00~18:00 〔水~土〕10:00~20:00
 ※いずれも最終入館は閉館30分前まで

 休館日:
 毎週火曜日

 入館料:
 当日 一般1,300円、大学・高校生1,000円、中学生以下無料

(参考文献)
1.河合正朝・西岡康宏・白原由起子・読売新聞社編図録『美しきアジアの玉手箱-シアトル美術館所蔵 日本・東洋美術名品展』(読売新聞社 2009年7月)
2.サントリー美術館 ウェブサイト:http://suntory.jp/SMA/
3.東京ミッドタウン ウェブサイト:http://www.tokyo-midtown.com/jp/
4.ザ・リッツ・カールトン ウェブサイト:http://www.ritzcarlton.com/ja/Properties/Tokyo/Default.htm
5.隈研吾『自然な建築』(岩波新書 2008年11月)
6.企画 二川幸夫『隈研吾 最新プロジェクト』(エーディーエー・エディタ・トーキョー 2009年5月)
7.木村泰司『西洋美術史から日本が見える』(PHP研究所 2009年7月)
8.読売新聞 2009年8月3日号 24面

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