佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

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2011/02/21 政治経済書を読む-第2回-私たち納税者、必読の一冊!経済学者4名が経済財政を縦横に語る『日本経済「余命3年」』。

 正しい経済財政政策で日本は甦ると述べています。池田信夫上武大学教授が司会をつとめ、財政学の専門家である土居丈朗慶應大学教授と社会保障の専門家である鈴木亘学習院大学教授、経済学者で元経済財政担当大臣である竹中平蔵慶應大学教授が日本の財政危機を縦横に議論した『日本経済「余命3年」 <徹底討論>財政危機をどう乗り越えるか』を読みました。

 私たち納税者にとって関心が高く、日本の将来と私たちの人生を左右する経済と財政の論点を経済学
の知見と世界の情勢から率直に議論していて大変参考になりました。

 私たち納税者にとって、必読の一冊だと思います。対談形式で読みやすく、是非ご購読をお薦めします。

 司会の池田教授が、まえがきで書名の意味を誤解しないように以下注意しています。私もこの本を紹介するにあたって、言葉による誤解を避けるために引用させていただきます。経済政策はある程度安全運転が必要であり、その時間を含めて警告を発する必要があるのですね。

 「なお、書名に「余命三年」と入れたのは、61ページで竹中氏が「全治三年」という楽観論に対する皮肉としておっしゃったものです。これは、あと三年で日本経済が絶命するという意味ではなく、いまのような奇妙に安定した状態はあと三年しか続かず、それまでに何もしないと、それ以降はそういう不測の事態が起こるかわからないという意味です。」
参考資料

(1)忙しい方は、まず目次を一読下さい。

 4人の経済学者が議論したテーマが目次で概要を知ることができます。お忙しい方のために目次を紹介します。

第1章 「国家破綻」に至るシナリオ
 政府債務はどれだけか、それをファイナンスする家計貯蓄はいつから不足するのか、財政の危機的状況を具体的数字でシュミレーションしています。

第2章 税と世代間の負担をどうするか
 一つは、歳入面から財政を検討。成長率を上げて所得を増やす条件を議論しています。
 もう一つは、税や年金などの負担が高齢者では大幅な受益超過、勤労世代では大幅な負担超過となっている世代間格差が極めて大きい実態と改善策を論議しています。

第3章 社会保障をどうすべきか
 民主党政府の2011年度予算では、社会保障費がシーリングの別枠になりましたが、財政再建ではこの社会保障費の実態と歳出の合理化の必要性が議論されています。

第4章 経済成長の鍵になる考え方
 財政の基礎になる経済成長率をどうやって上げるかという問題を考えています。労働市場のゆがみと法律の問題も取り上げています。

第5章 真の「政治主導」の実現を
 経済学者ではコンセンサスの政策が、なぜ政治で実現しないのか、という政治経済的な問題を率直に議論しています。日本の行政機構の制度設計や政治家の資質の問題も論議しています。

(2)今日の論点を「見える化」してくれます。私自身、経済財政への理解が進展しました。

 この本の書評的紹介は私には荷が重過ぎるので、新たに知ったこと、自分なりに整理できた点を中心に3点取り上げてみます。

【1.政府の債務残高は、本当はいくらなのか】

①政府の純債務はいくらかと色々議論はあるが、総じて1,000兆円前後となる。ファイアンスする家計の純資産は資産1,400兆円から債務400兆円を相殺してネット1000兆円。ところが所得よりも消費が上回り純資産は減少中であり、あと2~3年で政府債務が家計純資産を上回ると思われる傾向である。「年金不安」による消費停滞はなく、「所得不安」つまり「成長不安」が閉塞感を生んでいる。

②年金、医療、介護の資産と債務の実態がわかってビックリしました。鈴木教授の予測では厚生年金の積立金は2055年、国民年金の積立金は2060年に枯渇するという。医療保険と介護保険は積立金制度でなく、医療保険の場合は単年度主義、介護保険は3年毎に財政均衡をすることになっています。高齢化で支出が増えれば、保険料引き上げか、国庫投入増に伴う税引き上げか、或いはその両方が必要になる。おそらく相当の財源が必要で、実質的債務といえます。現在の制度設計が少子高齢化、グローバル競争経済の実態に合っていないが、改革の先送りや間違った批判をしてきたツケが大きい。

③小泉内閣の2002年から2006年までの6年間でプライマリーバランス赤字は28兆円が6兆円に縮小した。消費税9%に当たる改善です。その間、経済は成長し、格差を示すジニ指数は改善したのが事実であった。経済をよくすることこそ、財政再建の基本である。「小泉格差」なるウソで政治をねじ曲げた自民党、民主党等の政治家、メデア、学者の責任は重い。

【2.消費税は早期に上げるべきか】

①内閣府の出しているプライマリーバランス対GDP比の中長期シナリオは、現状レベルの成長のもとで、子ども手当や高速道路無料化を行わず、社会保障もとくに充実させない場合でも、プライマリーバランスの黒字化には消費税10%引き上げが必要となっている。さらに子ども手当や高速道路無料化を加え、社会保障も少し充実させて、管総理がいうようなもう少し大きな政府をつくるなら、消費税率は20~25%になるという。

②結局、最終的にどのくらいの大きさの政府にするかの提示と議論が進んでいない中で、消費税の引き上げは政治的リスクが大きい。増税は不可避であるが、その規模、経済と財政の兼ね合い、順番、タイミングが重要となる。「早期の増税は失敗する」という世界事例研究したアレシナ教授の提言があることを知った。

③経済成長と財政再建を一体で実現する政策を考える。高い法人税が日本を空洞化させている点を早急に改善する。所得税の高額者税率上げても税収増加にならずむしろ海外脱出を促進するよりは、手順として、まず納税者背番号制を導入して、きちんと納税させる。その財源で法人税を引き下げる。更に歳出削減する。こども手当5.6兆円を廃止すれば、地方税含む法人税9.6兆円しかないので香港並みの17%も可能であるという。少なくともアジア各国20%台はすぐできる。資産課税という方法も検討すべきである。

④大きな年金等の世代間格差を消費税で解消するという意味は一定あるが、現実にいまの政治家が言っているのは、むしろ逆で「消費税を下さい。それで年金と医療を充実させます」というもので、つまりは高齢者に使うということを言っているという指摘は鋭い視点です。ヨーロッパと比較して、年金、医療は似ており、少ないのは子育て支援、家族対策など年金、医療以外だそうです。先進工業国で、日本はアメリカに次ぐ人口である。ヨーロッパの人口少ない国のやり方の模倣でないしくみが必要である。

【3.日本は経済成長をどうしたらできるのか】

①現在は、トーマス・フリードマンのいう「フラットな時代」です。同時に都市経済学者トロント大学教授リチャード・フロリダは「スパイキーな(尖った)社会」と述べているそうです。光の集中から世界のメガリージョン(広域経済圏)の塊をみると、東京中心の関東圏が世界最大のメガリージョンなそうです。非常にクリエイティブな人たちが経済を成長させ、所得をたくさん稼ぐ時代という認識です。「フラットな世界」においては、同じことをやっていたら所得は下がっていく。日本人は「スパイキーな世界」に挑まねばならず、日本政府はそれができる政策を取る必要がある。

②麻生政権や鳩山政権が行ったのは、全員がフラットな世界にいる、落ち込んだのは救いましょう、という政策であった。自民党が政権を失ったのは、改革したからでなく逆の方向に舵を切ったからだという。投票行動を分析した菅原琢『世論の曲解-なぜ自民党は大敗したのか』(光文社新書)によると改革したから自民党が負けたというのは全く逆であると述べているそうです。私も読んでみたいと思います。マスメデアが言う「民意」と本当の民意をよく調査検証する必要がありそうです。

③民主党政府が言う「強い社会保障」で強い経済を目指すのは順序が逆で、成長して強い経済にならない限り社会保障の財源も出てこない。

④格差に対する情緒的な議論を解消するためには、貧困調査をして、貧困対策を国の責任で行うことをはっきりと言う。経済成長の政策とセーフテイネットをセットで推進する。

⑤日本は同質社会でなくなっており、より多くの行政サービスを望む人と、それほど要らない人に分かれ始めているようだ。グローバル化して20年。その変化に社会システムが対応できていないが、日本人は非常に順応性が高いので、あるとき突然急変して変化する力をもっている。これは、海に囲まれているイギリスでも同じらしい。ヨーロッパでは、そういうイギリスを「シンデレラの国」と言うらしい。

日本は、「新サムライの国」でどうだろうか。私は、日本は世界の「未来島」であり、新たな挑戦が責務の民族であり、新サムライ人への変貌を新年にBIエッセイで呼びかけた。(詳細はこちら>>
「新サムライ 複眼二刀流で 未来拓く」

以上

(参考文献)
1.竹中平蔵・池田信夫・鈴木亘・土居丈朗『日本経済「余命3年」 <徹底討論>財政危機をどう乗り越えるか』(PHP研究所 2010年12月 第1版第1刷)
2.佐々木昭美 BIエッセイ2011年1月4号『2011年新春にあたり “新サムライ 複眼二刀流で 未来拓く”

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