佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

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2009/09/07 読書の秋② “ビットの時代・インターネットの時代”予言から15年。“デジタルネイティブの時代”を読み解く。

 デジタルネイティブとは、ネット世代という意味です。インターネットとモバイルが自明の自然環境であった世代がマスになり、ライフスタイル・価値観・経済そして政治を変えつつあるのではないか?その変化を探る研究に出会った。両書を契機に冷静に急いで深めるべきテーマである。BIPは、毎月自社でMBB(モバイルブロードバンド)研究会を開催している。

 前職ネットワンシステムズ(株)で、ネットワーク協議会やインターネット協会を中心に産学公の多くの方々とインターネット普及の活動をご一緒させて頂いた1990年代。インターネット・モバイルの普及などデジタル化と人間の未来を予言する好著が、1995年同時に発売された。

 村井純著『インターネット』とニコラス・ネグロポンテ著『ビーイング・デジタル(ビットの時代)』である。

 それから約15年、今年2009年5月同時期に、ドン・タプスコット『デジタルネイティブが世界を変える』、木下晃伸『デジタルネイティブの時代』が出版された。いわゆるデジタルネイティブ=ネット世代の増加による社会の深層からの変化を読み解く著作である。皆様も、お読みになったかもしれません。

(1)村井純氏『インターネット』・ニコラス・ネグロポンテ氏『ビットの時代』の予言から15年

参考書籍

 10数年前の両書は、もちろん技術の変化の意味を理解するための英国ポップサイエンス的ジャンルの役割もありますが、いわゆる純粋技術書ではありません。デジタル・テクノロジーがもたらす変化が、ライフスタイル、社会論、文明論、哲学・思想まで広がる人間の未来への影響を探る試みです。そういう意味では、誰にでも読める、誰でも読むべき価値のある本だと思いました。

「日本のミスターインターネット」と称される皆様よくご存知の慶應義塾大学教授村井純氏(出版時は、助教授)の著書『インターネット』(参考文献3)は、多くの方がお読みになったと思います。今日のインターネットに発展する技術的基盤や変遷物語が語りかけるようにわかりやすく説明しています。当時、先進者の困難を引き受け、インターネットを推進した人々の勇気ある熱情の交流を知る良書でもあります。私もささやかながらインターネット仲間の一人として『インターネットⅡ』(参考文献4)・『インターネット「宣言」』(参考文献5)と共に大切にしている本である。

 本書で、インターネットの未来を一緒に考えようと語る次の言葉は忘れられない。人間活動の新しいインフラがもたらす人間世界のデザインへの眼である。技術のデザインと人間世界のデザインの両方の視点をもったハイブリッドな慧眼に敬服する。

「デジタル・テクノロジーが人間のいろいろな知的活動を支えることになった現代に、デジタル・テクノロジーの上で、人間や世界がどのように変わっていくかということを考えるための体験の場というわけです。インターネットが持っている意味のうち、もっとも大きいのはそのようなことではないかと、私は思っています。」(参考文献3:3~4ページ)
 
 MIT(マサチュ-セッ工科大学)Media Lab所長でメデイア・テクノロジー教授ニコラス・ネグロポンテの著書『ビーイング・デジタル-ビットの時代』に、強い刺激を受けた思い出が強い。ビーイング・デジタルとは、デジタルであるこという意味である。

 『WIRED』誌のコラムニストでもあった同氏は、読者が求めているのは技術理論や装置についての情報だけでなく、デジタルなライフスタイルやデジタル・ピープルに関する情報を手に入れたいと思っているのに気づいて、本書をまとめたという。

「アトムからビットへという変化に後戻りはない。もう止めることはできない。しかし、なぜいまこれほど広がっているのか?それはこの変化が、指数関数的な性格をもっているからだ。つまり、昨日のちょっとした間違いが、明日には突如として衝撃的な結果を生み出すことになるのだ。・・(略)・・コンピューティングはもはやコンピュータを扱うことを意味するだけでなく、人と生きることと関わりを持つようになった。」(参考文献6:14~16ページ)

 デジタルの光と影の両面を語る同氏が、楽観主義である根拠をこう述べている。

「ほかの何にも増してわたしの楽観主義の源泉となっているのは、デジタル化が人に力を与えるということだ。アクセスの可能性や移動の自由さ、そして変化を作り出す能力のおかげで、現在とは大きく違う未来像を思い描けるのである。・・(略)・・いま、デジタルな未来のためのコントロール・ビットは、かってないほど大幅に若い世代の手に委ねられている。そのことをわたしは、何よりも嬉しく思う。」(参考文献6:319ページ)
 それから約15年。デジタルネイティブ(ネット世代)の時代となった。
 

(2)世界的調査でネット世代のライフスタイルと可能性探るドン・タプスコット『デジタルネイティブが世界を変える』

参考書籍
 著者ドン・タプスコット氏は、シンクタンク兼戦略コンサルタント会社エンジェネラの会長で、トロント大学で非常勤教授として教鞭も執る。情報通信技術の進展とビジネス・経済社会・文化の関わりを調査し続けている。直近の著書『ウィキノミクス』(日経BP社、2007年)でご存知の方もいるでしょう。

 本書は、2007年に日本を含む12ケ国約1万人に実施したインタビューの報告書40本以上をもとに作成したものである。目次を記す。(参考文献1)
 
第1部 ネット世代登場
  第1章 成人になったネット世代 第2章 ビット漬けの世代
  第3章 世代の特性       第4章 ネット世代の頭脳
第2部 既成制度を変革する
  第5章 教育を再考する     第6章 人材管理を再考する
  第7章 Nフルエンスネットワークとプロシューマー革命
  第8章 新しい家に勝る場所はない
第3部 社会を変革する
  第9章 オバマ、ソーショルネットワーク・市民参加
  第10章 世界を根本的に良い場所に 第11章 未来を守る

 ネット世代は、1977年から1997年の21年間に誕生した世代。ジェネレーションYあるいは新世紀(ミレニアル)世代とも呼ばれる。ベビーブーム世代(1946~196年)23%を超え、27%と米国で最大割合を占める。ベビーブーム世代の子供たちである。ネット世代は、デジタル・テクノロジー、ビット漬けで育った最初の世代である。

ネット世代には、八つの特徴的な行動基準があるという。
① 何をする場合も自由を好む。選択の自由や表現の自由
② カスタマイズ、パーソナライズを好む。
③ 情報の調査に長けている
④ 商品を購入したり、就職先を決めたりする際に、企業の誠実性とオープンを好む
⑤ 職場、学校、そして、社会生活において、娯楽を求める
⑥ オンラインのコラボレーションとリレーションを行う
⑦ スピードを求めている
⑧ イノベーターである

 タプスコット氏は、これが現実であり、真実であり、従って既成の教育、人材管理、購買行動、家族意識、政治、市民活動に大きな変革が起きていると述べている。教育や法令ではなく、デジタル・テクノロジーがもたらした変化である。もちろん、ネット世代の情報のオープン化の暗黒の面として、ソーシャルネットワークによるプライバシーの公開に強く警告を発している。長期的影響を理解していないと。

(3)日本のネット世代が変えるビジネス探る木下晃伸『デジタルネイティブの時代』

参考書籍
 木下晃伸(きのした・てるのぶ)氏は、三井信託銀行、三菱UFJ投信等でアナリスト・ファンドマネジャーを経て独立。現在は経営コンサルタントである。

 同氏の定義する日本のデジタルネイティブは、平成元年(1989年)生まれ以降で約2,082万を超えたという。私は、デジタル・テクノロジーの影響を考えると、中学生以降の体験が大きいのでタプスコット氏と同様に30歳前後までを含めてネット世代として問題ないと思う。

 木下氏は、デジタルネイティブに関する執筆の動機をこう語る。

『私は本書で「今の若者を知る」ことから、今まさに起きているビジネスの地殻変動について、できる限り詳細にお伝えしていきたいと考えています。なぜ、そんなことをわざわざお伝えしなければならないのか。それは、デジタルネイティブが、従来の価値観や考え方とはまったく異なる行動様式、思考様式を持っているからです。インターネットの出現はやはり「革命」でした。特に、私は、「コミュニケーション」の面で革命を引き起こしたと考えています。』(参考文献2:2ページ)

『革命に必ず関係する大事なキーワードが「インフラ」です。産業革命は蒸気機関というインフラが登場したこと、活版印刷技術が生まれたことで起こりました。・・・ではネットはどうか。ネットの登場が革命であるなら、やはり「インフラ」に革命と呼べるものがなければならない。実はあります。それは「伝送路」と呼ばれるものです。』(参考文献2:76ページ)

 日本は、ADSL・光の固定系ブロードバンインターネット伝送路、モバイルインターネットの無線基地局伝送路と定額制料金体系が世界で一番進んでいます。その意味では、日本の産学公によるE-JAPAN戦略の第1段階は大成功であった。そのビジネスの最前線にいた私には感無量のものがあります。

特に、これからはケータイ動画の時代を迎えます。3.9世代、第4世代の技術、インフラは日本がリードしています。(BIエッセイ2009/06/22 『2009年は、モバイルブロードバンド爆発元年!1999年固定系ブロードバンド爆発から10年』詳細はこちら>>

第5章「ネットでビジネスを劇的に変える」で、「デジタルネイティブ時代」の事例を紹介しています。大事なことは、ネットを活用することは新しいがビジネスの基本は変わらないと指摘していることです。
 ◆「楽天市場」という仮想商店街で成功した“楽天”
 ◆占い成功サイトで成功している“ザッパラス”
 ◆「モバゲータウン」で知られる“DeNA”
 ◆飲食店情報で有名な“ぐるなび”
 ◆コミュニケーションで人を集める“ミクシー”

しかし、「ネット活用はまだまだ黎明期である。」(参考文献2:210ページ) 
以上

(参考文献)
1.ドン・タプスコット『デジタルネイティブが世界を変える』(翔泳社 2009年5月)
2.木下晃伸『デジタルネイティブの時代』(東洋経済新報社 2009年5月)
3.村井純『インターネット』(岩波新書 1995年11月)
4.村井純『インターネットⅡ-次世代への扉』(岩波新書 1998年7月)
5.村井純『インターネット「宣言」』(講談社 1995年2月)
6.ニコラス・ネグロポンテ『ビーイング・デジタル-ビットの時代』(アスキー 1995年11月)

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