佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

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2009/09/01 読書の秋① 写真と言葉の融合:小説家森村誠一“写真俳句”と写真家石川文洋“カメラ紀行”

 本日9月1日は秋のはじまり。BIエッセイは読書の秋シリーズ①を始めたいと思います。

 昨年は、リーマンショック後の激動の中で「読書の秋 日本を元気にする100年の視野と智慧、勇気を求めて」と題して、7回エッセイを執筆しました。激変時にリーダー(国の指導者、企業のトップ、家族の長)はどう考え・行動すべきなのか。100年視野の生きた知恵に学びたいと思いました。

 今年は、特にテーマを決めないで書いてみたいと思います。皆さんは、読書の秋をどう過ごしますか?

 私の最近のライフワークの一つは、モバイルブロードバンド時代のSNS・コンテンツ・メディアの行方です。特に、映像(写真・TV)と言葉の融合の未来をウォッチしています。

 アナログ時代からの「写真とことば」の融合と進化についても調べている中で、言葉のプロ小説家森村誠一氏『森村誠一の写真俳句のすすめ』と、プロカメラマン石川文洋氏『てくてくカメラ紀行』に出会いました。写真評論家の飯沢耕太郎氏は、タイトルずばり『写真とことば-写真家二十五人、かく語りき』を執筆しています。

参考書籍 参考書籍

(1)昨年の「読書の秋 日本を元気にする100年の視野と智慧、勇気を求めて」

 昨年は、「読書の秋 日本を元気にする100年の視野と智慧、勇気を求めて」のテーマで以下7回のBIエッセイを執筆しました。
・2008/09/17 吉田庄一郎『超精密マシンに挑む ステッパー開発物語』と原丈人『21世紀の国富論』(詳細はこちら>>
・2008/09/22 トヨタ発展の根源的意味に挑む著書2冊(詳細はこちら>>
・2008/10/01 世界企業へと発展する武田薬品工業、日本板硝子の改革(詳細はこちら>>
・2008/10/06 シャープ町田会長が語る液晶TV、携帯電話、太陽電池への連続改革(詳細はこちら>>
・2008/10/14 TV『篤姫』が“尚五郎さん”と呼んだ、『龍馬を超えた男 小松帯刀』(詳細はこちら>>
・2008/10/20 明るく元気な家庭を築く家長(かちょう)必携の家計学指南(詳細はこちら>>
・2008/10/27 エコノミストランキング6年連続第1位の著書が語る経済の真実(詳細はこちら>>

“100年に1度の不況”と言われる程不安が広がる雰囲気の時期。確固とした姿勢と円熟した知性を持って困難に立ち向かっていくべく、100年視野での知恵に学びたいと思いました。私自身、100年次元で試され済みの智慧に大きく励まされました。

(2)言葉のプロ推理小説家 森村誠一氏『森村誠一の写真俳句のすすめ』

  森村氏は2005年、著作『森村誠一の写真俳句のすすめ』でこう呼びかけている。
「私はデジカメを手に俳句をひねりながら、人生の大きな表現の楽しみを発見したと思っている。今すぐデジカメ片手に散歩に出よう。退屈な毎日から、人生を彩る日常へ。まったく新しい創造世界へようこそ!」(参考文献1:表紙帯)

森村誠一氏公式サイトには、「写真俳句館」コミュニティが開設され、多くの方が投稿していて「写真俳句」を愉しめます。自分だけで楽しむのではなく、多くの方に楽しみを広げています。

この本の中で、私が一番気に入った写真俳句を紹介します。

<“俳句 客去りて 花びらのある 席を取り”~写真 カフェの席に鮮やかな花びら>
「行きつけのカフェでうまいコーヒーを一喫する。人生の至福の瞬間である。・・(略)・・早速座ろうとして、私はおもわず目を見張った。私の指定席に一ひらの桜の花びらが落ちていた。先客が身につけて、その席に運んで来たらしい。満開の桜の下、花吹雪を浴びて歩いて来た女性の姿を想像した。女性客が立って行ったばかりの席には、彼女の温もりが残っていた。
 客去りて 花びらのある 席を取り
咄嗟に一句、口から出た。だが、「温もり」よりは「花びら」の方が勝っているような気がした。」(参考文献1:花/15)

 もともと歌人か詩人を志望していた森村氏であったが、小説家になってから角川春樹氏や横山白虹(はっこう)氏の影響を受けて俳句を詠むようになったという。では、写真と俳句はどのようにして濃厚な出会いとなったのだろうか。

『「俳句前には見過ごしていたような風景や出逢いに、これは俳句になるという予感を持つようになる。・・(略)・・私は散歩の都度持ち歩いているデジタルカメラで、予感が走った光景を撮影するようになった。後で撮影した影像をじっくりと観察していつ間に俳句が生まれる。時には俳句が閃いてから撮影することもある。いつの間にか私の俳句と写真はセットのようになってしまった。趣味で詠んでいた俳句を、ホームページに写真と共に掲載してみた。すると、なんということのない句が写真とワンセットになると、意外に面白いことを発見した。同時に凡写が俳句に侍ると、これまた精彩を帯びる。写真と俳句がそれぞれ相補い、一体となって独特の写真俳句世界を表現した。・・(略)・・「歳時記」や俳句誌に写真が挿入されていることがあるが、あくまで俳句主、写真従である。私は、俳写同格、一句ワンショットに対置した。』(参考文献1:誰にでもできる写真俳句/6)

 森村氏は、カメラ自体は19歳から活用していた。カメラ性能の向上が、映像の人間味が希薄になる印象があり、写真と俳句の合体は映像の人間味を補いたいと思ったからかもしれないとも述べている。

(3)写真評論家飯沢耕太郎氏『写真とことば-写真家二十五人、かく語りき』とプロカメラマン石川文洋氏『てくてくカメラ紀行』

 写真家からみた写真とことばについて、写真評論家飯沢耕太郎氏『写真とことば-写真家二十五人、かく語りき』とプロ写真家石川文洋氏『てくてくカメラ紀行』を紹介します。

写真評論家の飯沢耕太郎氏は、タイトルずばり「写真とことば」をずっと考えてきたそうです。本書では大正から昭和初期に活躍した野島康三から現代の星野道夫まで写真家25名を取り上げています。

「写真とことば」を明快に語ったのは、報道写真家で、名編集者の名取洋之助(1910~62)だと讃えながら、自分の見方も追加している。写真の網羅性とことばの断片性である。

『名取は遺著となった『写真の読み方』(岩波新書 1963)で、「記号としての文字と、記号としての写真との大きな違い」とは、「文字は実物と関係ないが、写真は実物とひじょうに密接な関係があるということ」だと述べている。・・(略)・・もう一つ、写真とことばには大きな違いがある。それは、写真は画面全体を一度に把握できるのに対して、ことばは断片的、かつ継続的にした記述することができないことだ。』(参考文献3:3~4ページ)

 その上で、写真とことばを同時に、しかも両方とも習熟した写真家に気がついたという。
もちろん、写真家の中には、撮影と制作に専念して文章をほとんど発表しない方もいるが、写真を撮影し、発表することを業としている写真家は優れた文章の書き手でもあると言う。何故だろうかと自問し、その答を偉大なドイツの写真家アウグスト・ザンダー(1876-1964)の座右の銘“見ること、観察すること、そして考えること”の言葉にヒントがあると説く。

『この簡潔な三つの動詞は、そのまま写真家にとっての写真とことばの、緊密な関係を読み解く鍵になるだろう。「見る」だけでは身体的反応に過ぎない。それは「観察すること」と「考えること」、すなわちことばに結びつけられることで、さらに鍛えられていく。そして、それがもう一度「見ること」に回帰していくことはいうまでもない。ザンダーの座右の銘は、直線的ではなく、いわば循環的な構造になっているのだ。』(参考文献3:7ページ)

 プロカメラマン石川文洋氏『てくてくカメラ紀行』は、まさに写真とことば両方の天才と思える著書です。表紙の石川氏の笑顔が良いですね。

 長年の夢であった徒歩での日本縦断旅行を65歳で実現した。北海道から沖縄までの全149日、3,300㎞の紀行である。カラー・モノクロの写真が多くあり、歩いた都道府県毎に素晴らしい文章が載っています。

 報道カメラメン石川文洋公式サイトでは、46冊の著書が紹介されている。

 一言でいうと、デジタル技術、インターネット環境によって、言葉主・写真従、あるいは写真主・言葉従という時代から、益々写真・言葉両建て作品が急速に進んでいるということでしょう。プロだけでなくアマチアもその主体になっています。その本質をデジタル技術の面からはもちろん、人間の表現活動から探っていくことの大切を改めて感じました。

(追記)
飯沢耕太郎『写真を愉しむ』(参考文献4)は、写真のさまざまな愉しみを教えてくれる好著である。目次をご覧ください。
Ⅰ 見る愉しみ
1.写真展に行ってみよう 2.写真ギャラリーを回る 3.美術館と写真
4.インターネットという新しい場 5.「見る」から「見える」へ
Ⅱ 読む愉しみ-写真集を読み解く
Ⅲ 撮る愉しみ-写真を使って表現する
Ⅳ 集める愉しみ-写真コレクションを作る
以上

(参考文献)
1.森村誠一『森村誠一の写真俳句のすすめ』((株)スパイス 2005年12月)
2.石川文洋『てくてくカメラ紀行』(偀出版社 2004年10月)
3.飯沢耕太郎『写真とことば-写真家二十五人、かく語りき』(集英社新書 2003年1月)
4.飯沢耕太郎『写真を愉しむ』(岩波新書 2007年11月)

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