佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

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2010/02/22 未来拓く「経営力」教育(社員・部長・役員)に良質な副読本:経営力リテラシーは全社員必須な「知識労働者の時代」

 厳しい経済環境への自覚と未来を拓く人材育成の重要性の認識の高まりでしょうか? 最近、幹部対象及び中堅社員対象の両方に対して、「事業とは」「経営とは」を原点から学び直す教育研修やワークショップ依頼が増えてきました。

 もちろん、本格的にMBA(経営学修士)、MOT(技術経営学修士)等への企業派遣や自費で入学する方もいます。一方で、時間的・費用的に困難な中堅企業が多い中での自社での前向きな人材育成計画として期待に応える役割と責任を感じている昨今です。

 短時間で実践的で尚かつ学問的にもMBA(経営学修士)、MOT(技術経営学修士)レベルの内容を分かり易く伝えることは思った以上に難しいことです。多くのアカデミックな文献の中から下記の参考文献のよう専門書を再読し研究もしました。基本の論理的枠組みの理解にはもちろん大変役立ちますが、実践にはもの足りないものを感じたのも事実です。

 名経営者であった松下幸之助氏の名著はベストセラーとして既に有名ですが、現在の経営者で真正面から「事業」や「経営」を論じた分かり易い副読本を探した中で、大変役立つと思ったすばらしい本2冊が最近発売されました。

 ・NHK「仕事学のすすめ」製作班・編『柳井正 わがドラッカー流経営論』
 ・北尾吉孝『逆境を生き抜く 名経営者、先哲の箴言』
参考書籍 参考書籍 3つのリテラシー

(1)NHK教育テレビでファーストリテイリング会長兼社長柳井正氏が語った「わがドラッカー流経営論」

 NHK「仕事学のすすめ」製作班・編『柳井正 わがドラッカー流経営論』は、NHK教育テレビで2009年6月に放送された「仕事のすすめ わがドラッカー流経営論」から生まれた本です。私は、その放送自体は知りませんでしたが、この本はすばらしいと思います。ファーストリテイリング会長兼社長柳井正氏がドラッカーに学んだユニクロの事業経営を語った内容をまとめたものです。

 最近、中堅社員研修を実施した数社で副読本として読書レポートを求めていた所、その結果に驚きました。受講生が、新たにわかったこと、深く考え直した内容として以下取りあげています。若い方が事業経営の基本項目を的確に理解していると感心しました。

「企業の目的として有効な定義は一つしかない。すなわち、顧客の創造である。」(ドラッカー『現代の経営』(参考文献1:12ページ)

「顧客の創造とは、お客様の潜在意識のなかには需要があるのに、まだ商品化されていないものを提供すること」(参考文献1:19ページ)

「知識労働者は、すべて企業家として行動しなければならない。知識が中心の資源となった今日においては、トップだけで成功をもたらすことはできない」(ドラッカー『創造する経営者』(参考文献1:88ページ)

「本部=考える人、店舗=実行する人という図式が今までは当たり前でしたが、本来は逆であるべきです。店舗=考える人であり、本部=よりよいサービスができるように実行する人、というのでなければ組織は停滞してしまうんです。」(参考文献1:99ページ)

 柳井正氏が、経営の原点にドラッカーがあったことを自分の経験によって説明していますが、同時に社内外の若い人にドラッカーを読むことを進めている趣旨にも研修参加者は共感しています。

 「ドラッカーの生き方や考え方を早く知って、社会や企業のしくみや、なぜ私たちは働くのかをきちんと理解しておけば、おのずと仕事や人生に対するモチベーションは高まってくるはずなんです。」(参考文献1:76ページ)

 何よりもこの本は、事業経営の基本をユニクロの身近な事例と一体で語ることによって伝える効果は抜群だと思いました。

(2) 古典、人物史に詳しいSBIホールディングス代表取締役CEO北尾吉孝氏が厳選した先人、名経営者の箴言集

 北尾吉孝『逆境を生き抜く 名経営者、先哲の箴言』は、新書で薄い本ですが一語一語噛みしめて読みました。数回読んで役立つと思って3~4色ボールペンで多くの線を引いた本の一つです。

 初めに、北尾氏が小さい頃から古典や人物史に親しんで読んだ経緯が述べられています。そうした長年の古典への深い洞察と経営実践の結果があるからこそでしょうか、その厳選された先哲や名経営者の言葉が心に強く迫ってきます。


【1章 逆境を生き抜いてきた名経営者の知恵と胆力】

近代以降の経営者等12名を取りあげています。松下幸之助、伊藤雅俊、鈴木敏文、佐伯勇、林原健、本田宗一郎、小林一三、八尋俊邦、稲盛和夫、松永安左エ門、孫正義、ピーター・ドラッカー。

近代以降の人物史を読む意味をこう語っています。

「私は中国の古典にも親近感をもってきたが、近代以降の人物史はそうした中国古典にある歴史書とは意味が異なる。たとえば、中国の各王朝で編纂(へんさん)された国史などは皇帝が代わり、時代が変わると、のちの皇帝が昔の歴史を全部書き直していたりする。中国ではそうしたことは決して珍しくない。
 
ところが近代以降の人物史は客観的な事実も多数記(しる)されているため、一度出た書が書き直されることはまずない。たとえば日本経済新聞で長く連載している「私の履歴書」でも、当然ながらあとから書き直すなんてことはない。
 
 ただし、こうした回顧録では、それまでの歴史で語られていなかった部分にはじめて言及することがある。ある人物が自身の体験をもとに、記憶を語る。その中に本人しか知り得なかった固有の事実があり、その人しか味わえなかった体験への思いや見方がある。つまり、人物史とはその人物を通した歴史的事実の発見でもあり、かつ、その人物の歴史の追体験でもある。そこに人物史のおもしろさがある。

 そうした本との出会いは私の人生において非常に勉強になってきたと思う。」(参考文献2:4ページ)


【2章 歴史と先人の哲学が教える、危機への対処法】

日本、中国、西洋の先哲の言葉を紹介している。ヘーゲル、曾国藩、孔子、洪自誠、孫子、佐藤一斎。

北尾氏の祖先には、江戸時代後期に大きな本屋を経営しながら儒学者であった北尾墨香(ぼっこう)がいた関係もあり、子供の頃から古典に親しんで育った。特に父親から頻繁に古典の箴言を聞かされたという。

 「古典に親しむことは、復古主義でも教養主義でもない。現代を生き抜く叡智見つける行為なのだ。」(参考文献2:101ページ)


【3章 資本主義の危機に、一個人としてどう備えるか】

 この本の特色の一つは、今回の大不況に対して金融事業を営む現職経営者としての分析と対処法を具体的に言及していることです。
(1)今回の金融危機の原因と、「100年に一度の不況」は本当か
(2)現代の資本主義が抱える問題
(3)日本の抱える問題、及び世界の覇権の行方
(4)一個人として、どのように危機に備えておくべきか

 私には、一部意見の異なる部分もありますが、経営者が自分の深い定見を持って経営していることに尊敬の念を覚えます。

変化の中で不変の原則は何なのか。不変の哲学を得る道は「事上磨練(じじょうまれん)」しかないと述べる。日頃の錬磨なくして、突然なんとかなることはないと強調する。同感である。

 「人はすべからく事上に在って磨練し、功夫をなすべし。乃ち益あり。」『伝習録』

「学ぶ3大リテラシー」を2月BIエッセイで3回連続して書いてきました。2010年は「国民読書年」です。ショートシリーズは一旦終了しますが、これからも、皆様と一緒に人間力・社会力・経営力のリテラシーを学び続けたいと思います。
(BIエッセイ2010/01/12『2010年初夢(個人編):「働く喜び、学ぶ喜び、遊ぶ喜び」の生きる喜び「三喜計画」を描く-2010年は「再スタート元年」-』詳細はこちら>>
以上

(参考文献)
1.NHK「仕事学のすすめ」製作班・編『柳井正 わがドラッカー流経営論』
 (NHK出版 2010年1月25日 第1刷)
2.北尾吉孝『逆境を生き抜く 名経営者、先哲の箴言』
 (朝日新書  2009年12月30日 第1刷)
3.伊丹敬之・加護野忠男『ゼミナール経営学入門』
 (日本経済新聞出版社 2009年8月19日 3版16刷)
4.グロービス経営大学院『グロービスMBAマネジメント・ブック[改訂3版]』
 (ダイヤモンド社 2008年8月28日 改訂3版第1刷)
5.根本孝・茂垣広志監修『マネジメント基本全集1 経営入門(ビジネス・マネジメント』
 (学文社 2006年1月30日 第1版第1刷)
6.土方千代子・椎野裕美子『「経営学の基本」がすべてわかる本』
 (秀和システム 2009年1月27日 第1版第1刷)

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