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2010/06/28 政治経済を読むシリーズ4~民主党ブレーン榊原英資氏と小泉内閣の経済財政大臣竹中平蔵氏の対談“絶対こうなる!日本経済”

 6月24日公示、7月11日投票で参議院議員選挙が始まったこの時期に、民主党ブレーン元大蔵省財務官榊原英資氏と小泉内閣の経済財政大臣竹中平蔵氏の対談本『絶対こうなる!日本経済』(田原総一朗責任編集)が6月30日付で発売され、早速読みました

 テレビによく登場する元大蔵省財務官・現青山学院大学教授榊原英資氏が与党民主党のブレーンだと初めて知り、是非読んでみたいと思いました。

 榊原氏は、フランス型の大きな政府を目指すべきとはっきりと述べています。税金・社会保険で60%レベルの国民負担率まで上げて、その財源で福祉社会にする。消費税は20%程度必要という。民主党政権はそう公には述べていないようですが、そのブレーンである榊原氏によると民主党はその腹を固めたのではないかと述べています。

 竹中氏は、アメリカ型でもヨーロッパ型でもない新しい日本型をめざすべきと述べています。その実現のためには、現民主党でもなく現自民党でもなく、政界再編の必要性を述べています。

 立場や考え方の違いを超えて、この本は将来日本のマクロ経済・財政、国の行方を率直に議論しており、大変参考になる本だと思います。ジャーナリスト田原総一朗氏による絶妙のタイミングでの企画です。今回はその読書メモです。
参考資料

(1)今がわかる!先がみえる!日本経済の入門書

榊原・竹中両氏の「激しい論争で日本経済の多くの問題点がクリアになり、結果として極めてわかりやすい日本経済の入門書にもなっている。」(田原総一朗)

 本書の目次で全体構成をみて頂くと総合的に議論しているのがわかると思います。

第1章 アメリカ、中国はこれからどうなる?
     -「坂の上の雲」の先に何が見えるか?
第2章 日本経済のここが大問題
     -日本企業のビジネスモデルをこう変革しよう!
第3章 技術で勝って商売で負ける日本
     -勝つために何をすべきか?
第4章 これから儲かる、成長するビジネスとは?
     -製造業から本格的なサービス業の時代に
第5章 日本は破産なんかしない!?
     -目指すはアメリカ型競争社会か、ヨーロッパ型福祉社会か?
第6章 絶対こうなる!日本の政治
     -民主党の“脱官僚”は大間違いだ!
第7章 絶対こうなる!10年後の日本
     -日本を明るくするために

(2)日本がめざす社会で激突する榊原氏と竹中氏

 私は、結局日本がめざす社会の議論が政党もメディアも国民の間でも率直にされていない中で政治が行われている気がします。その点では、本書はその論議に貢献すると思いました。私が勝手な解釈して誤解を与えることがないように、引用が多くなりますが、議論の再現手法で両氏の論点を紹介したいと思います。

 【榊原氏のめざす社会モデルは、フランス型大きな政府】

 榊原「フランス型の大きな政府です。子ども手当なんかをもっと拡充する。今の日本の社会福祉は基本的には年金と医療で、基本的に老人向けですね。フランス・ドイツ型というのは雇用と育児に社会福祉を拡大している。つまり、福祉を老人から若者や子どもにまで広げていく。フランスの人口は6300万人だから結構、大きな社会福祉国家になる。日本はこれを手本にすべきだと。・・(略)・・税金と社会保障負担を合わせると・・(略)・・フランスは60%くらい。いずれにせよ、かなり大きな政府になって、税金や社会保険料が上がります。」

 田原「当然、消費税は上げる。フランスは何%ですか?」

 榊原「約20%です。ですから消費税を、そのくらいまでは上げるということです。これは国家的な一つの選択です。小さな政府でいくという選択肢も、もちろんあるわけだけど、民主党はもう踏み込んだと僕は思います。」(参考文献1:P119~120)

 【竹中氏は、榊原氏の「フランス型大きな政府」について3つの問題点で反論】

 竹中「第一に、日本のような“お上主導”の国でお上を大きくすることは、非常に怖い。“官主導”“官尊民卑”のところで官をさらに強くするんだから、社会保険庁みたいなものがいっぱいできて、コントロールできなくなる。
 第二に、日本は人口が大きすぎる。フランスはちょっと違うけど、スウェーデンがうまくやっていけるのは、民主主義の土壌に加えて、900万強という人口規模なんです。人口規模が大きい国の大きな政府というのは怖い。アメリカは人口規模が大きいから小さな政府なんだと思いますね。
 第三に、人口の変化です。高齢者が多く若者が少ない逆ピラミッド型の人口構成とも言える。日本では税金を払う労働人口が減り、若者や子どもの数も減る一方、医療費や年金が必要な高齢者が急増していく。この状況で「大きな政府です。すべて面倒見てあげましょう」とやったら、特定世代の税負担が過大になってしまう。」(参考文献1:P126~128)

 【竹中型は、供給政策はスウェーデン型に近い】

 田原「竹中さんが目指すべき国のかたちは何型なんですか?」

 竹中「私は「ナントカ型」という説明は、非常に不十分だと思う。アメリカとスウェーデンはすごく似ている面があると申し上げたでしょう。・・(略)・・たとえば、民主党の子ども手当は、何のためにやるのかまったくわからない。子ども手当で出生率を上げたフランスは。第三子を徹底的に重視したんです。」

 田原「全員にばらまいたってダメなんだ。」

 竹中「とくに民主党系の人たちは、大きな政府がおカネを集めて、手厚く所得再配分すれば、消費が増えて、経済が成長すると考えている。でも、スウェーデンを見れば、それは根本的な誤解だとわかる。スウェーデンは集めたおカネを供給サイドの強化に使っているんです。スウェーデンでも日本でも「社会保障費」というけど、医療と年金とその他のうち、似ているのは医療と年金だけ。その他、たとえば女性が働けるシステムや徹底的に教育するシステムの部分が、まったく違う。」

 田原「別に「竹中型」を目指したっていいんですがね。」

 竹中「法人税率がヨーロッパで最低、所得税がそれほど累進構造ではない。消費税が比較的低い。・・(略)・・だから竹中型というのは、供給政策に関してはスウェーデン型かもしれません。」(参考文献1:P135~137)

(3)榊原氏も、竹中氏も、民主党にはマクロ経済政策がないで一致

 国民の政治への要望への上位は、「景気」「雇用」であるとする世論調査がほとんどの現状であるが、民主党政治で経済は大丈夫かという田原氏の問いに、「民主党には経済政策はない」と民主党ブレーンとされる榊原氏も含めて両氏の答えは不思議なことに一致した。

 竹中「いや、本当に予想どおりのことが起こっている。民主党の最大の問題は何かというと、マクロ・エコノミック・マネジメント、つまりマクロ経済管理という枠組みがまるで存在しないことなんですよ。もうそれに尽きるんです。」

 榊原「官僚を使っていないこと。経済人を使っていないこと。経済の専門家が政権内にあまりいないわけです。素人たちが、よってたかって事業仕分けだなんだと、バカなことをやっている。・・(略)・・だから成長戦略もへったくれもないし、ようするに、経済政策そのものがない。ほとんどないんだ。」

 田原「マクロの経済政策がない先進国って、世界中にありますか?」

 榊原・竹中「ない」(参考文献1:P154~157)

(4)10年後の日本を明るくする処方箋は何か

 10年後の日本をめぐる議論は、歴史認識と政策論両面から味わい深い議論ですが、すべて紹介できないのが残念です。

 榊原「このままでは暗い。明るくするには、ビジョンを掲げ、目標を設定しなければ。自民党政権が設定した成長はという目標はもう終わりで、いまは目標がないわけです。僕のビジョンは、フランス型の大きな政府によるヨーロッパ型福祉社会の建設ですね。」

 竹中「日本が復活することは、基本的には可能だと思います。どうすれば復活できるかは、私は本当に簡単な話だと思う。たとえば法人税を下げて、ハブ空港を造って、オランダのように雇用に関する法律制度を整え、制度的な格差をなくし必要なセーフテイーネットを整備する。普通の国がやっていることを普通にやれば、十分に復活しますよ。」

 榊原「アジアで重要なのは中国、インド、日本です。もちろん日米同盟は良好に維持しなければならないけれども、アメリカの関係とは別にアジア共同体をつくる。」

 竹中「これ一つだけという国際関係はダメです。日米同盟やAPECを大事にしながら、マルチな枠組みが必要です。」

 上記のように田原氏の問いに、榊原・竹中両氏が答えるかたちで、大変読みやすい本です。この本の意義を認めた上で、尚本の広がりの限界を超える以下の発想が浮かびました。

 英国の議員内閣制の国会では、党首討論が日常的といわれています。日本の議員内閣制の国会は、各議員と政府の質疑中心です。日本ではたまにしか国会党首討論が行われないし、テレビでも短時間の討論会を少し行うだけですが、通年国会で通年テレビ・インターネット全中継の政党間討論も活発にやってほしいと思います。テレビの素人コメンテーターを通じた論議だけでなく、専門家の公聴会も含めて直接すべて国民が見られる、聞ける環境は簡単にできると思います。

 民主主義を標榜する政党が国会も開かずに、国民に本心を隠して選挙をやる姿勢そのものが国民を愚弄するものだと我々国民はしっかり成熟した判断をもつべき時代だと痛感しました。インターネット中継はやろうと思えば簡単にできますね。政治・経済を勉強したこともないにわか立候補の利権・世襲・タレント・スポーツ議員も本当に必要なのかの判断材料も提供できると思います。『デジタルネイティブ』時代は、国家社会最大のインフラである政治も、インターネットインフラの有効な利用活用が役立つかもしれないと思った次第です。思わず『インターネット新世代』という言葉が改めて浮かびました。

以上

(参考文献)
1.著者 榊原英資・竹中平蔵 責任編集 田原総一朗『田原総一朗責任編集 2時間でいまがわかる! 絶対こうなる!日本経済 この国は破産なんかしない!?』(アスコム 2010年6月30日 第一版)
2.BIエッセイ2009/09/07 読書の秋② “ビットの時代・インターネットの時代”予言から15年。“デジタルネイティブの時代”を読み解く。
3.BIエッセイ2010/03/01 “日本のインターネットの父”村井純慶應大学教授の新著『インターネット新世代』をもう読みましたか?

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