佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

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2011/02/07 政治経済書を読む-第1回―経済と情報通信のグローバル化20年。大前研一『お金の流れが変わった』

 2011年政治経済書を読むシリーズ第1回は、大前研一氏の著書『お金の流れが変わった-新興国が動かす世界経済の新ルール』です。新書判243ページ(本体724円税別)で読みやすく、内容が具体的で読み始めると一気に引き込まれます。

 メディアがあまり伝えない21世紀世界経済の最前線がわかります。また、日本経済への率直な見解と日本の大発展戦略も提案しています。今回はそのポイントを紹介します。

 2011年は、1991年末ソビエト連邦が崩壊して東西に分裂していた経済圏時代が終り、経済のグローバル化が始まって20年目ですね。

 またLAN(ローカルネットワーク)からWAN(ワイドエリアネットワーク)というネットワークコンピューティングへと移行し始め、情報通信のグローバル化が本格的スタートした時期です。偶然にも私がインターネットビジネスの世界に入った時期でもあり、それからちょうど20年目となります。

 世界人口は、1961年30億人だったが、2010年69億人と2倍以上になった。その69億人の人類は、情報通信で世界は瞬時につながるようになった。世界のお金の流れも瞬時につながるようになった。
参考資料

(1)お金の流れが変わった!「ホームレスマネー」が「BRICS」だけでなく「VITAMIN」へ

 21世紀にお金の流れが変わったというのが大前氏の主題です。アメリカ、EU、中国経済については省略します。
参考資料
 【ホームレスマネーが変える世界経済】
 大前氏は、世界の余剰資金は現在8000兆円あるが、21世紀に過剰流動性(市場のカネ余り現象)として国境を越えて世界を動くカネを「ホームレスマネー」と称し、その動向の重要性を指摘する。約6000兆円もあったが、リーマンショックで半減したとはいえ、現在4000兆円まで回復しているという。その出所は三つある。

 第1は、ノルウェー、スウェーデン、カナダ、オーストラリア、アメリカ、ドイツ、イギリスなど古くからOECD(経済協力開発機構)に加盟している国々の余剰資金(年金、貯金、保険等)。第2は、中東産油国、ロシアのオイルマネー。第3は、中国マネー(外貨準備等)である。

 大事なことは、この「ホームレスマネー」は短期的な投機(エマージングマーケット、商品市況、不動産など)もあるが、新興国民間経済への直接的で長期的な投資となり、その国々の経済成長を促し、投資リターンも得る好循環モデルを生み出しているということを指摘していることである。

 【新興国――21世紀世界経済の寵児】
 人口5000万人以上、国民の平均年齢が25歳から30歳前半、教育水準が比較的高いといった国の重要性に注目すべきと5年程前から強く指摘しているそうです。

大前氏は、その国々を「VITAMIN」(ベトナム、インドネシア、タイ、トルコ、アルゼンチン、南アフリカ、メキシコ、イラン、イラク、ナイジェリア)と親しみやすい総称をつけて説明している。

「非常に長期的な視点をもち、短期的な市場動向に一喜一憂しない先進国の年金ファンドなどが含まれている。カナダやノルウェー、シンガポールなどの年金ファンドは数十兆円の規模だが、すべてを足せば1000兆円くらいになると思われ、その存在は重要だ。・・(略)・・そのお金はODAのように相手政府の手を経由せず、直接、企業の資金になる。おそらくこれは、民から民へと跨ぐ、人類はじめて経験するカネの動きだ。
 そのような資金によって新興国の企業が栄えれば、雇用が生まれ、働き口がないため外国で就業していた経営能力のあるエリートが戻ってくる。そうすれば、さらに企業業績は伸びる。そういう好調な国の通貨は強くなり、通過が強くなれば、株式市場の上昇と合わせて二重の効果をもたらす――この歯車がうまくかみ合っていることこそ、新興国が繁栄している最大の理由であり、二十一世紀経済の一大特徴といえる。」(参考文献1)

(2)21世紀の新パラダイムと日本――日本経済成長への処方箋を提案する

 21世紀の新しい現実に、日本は思慮深く、果敢な挑戦が求められているが現状はどうなのでしょうか。

 税収の倍以上の借金(次世代への負担)で国家財政を拡大する予算を提出した民主党政府。予算は通っても、3月までに関連法案が通らないとかなりの予算執行ができないのは自明なのにどうするのでしょうか?!企業経営者や家計を預かる者には“絶対にあり得ない”と思われる異常事態が目の前にある。

 【経済が何もわかっていない民主党――「政権交代は誤りだった!」】
 大前氏は、日本経済と政権交代後の内政・外交の現実を取り上げながら、現状への危機感をビックリする程鋭い言葉で警告を発している。「政権交代は誤りだった!」と、多くの方が心の中で感じていても口に出せないでいることをはっきりと述べてもいる。一般に経営コンサルタントは時の政治経済への直接的評論は控えるのが多いが、海外公的機関でのアドバイスも務める大前氏のプロフェッショナルとしての責任に伴う診断と日本への切実な気持ちが伝わってくる。

 「つまり、この政権は何も考えていないし、何も知らない。政権担当能力がないだけでなく、毎日、外交と内政で日本の財産をぶち壊しているのである。「無能なだけでなく、危険かつ破壊的な」政権である。一刻も早く「無能で有害ではあるが、ぶち壊しまではしていなかった」自民党政権に(とりあえず)戻すべきではないか、と私は思いはじめている。
 日本の政治を司る政権にたいへんなものを抱え込んでしまった。最優秀な政府をもってしても困難な状況にある日本が、想像を超える無能で幼稚な政府にハイジャックされている――このような認識をいま私たちはもつ必要がある。」(参考文献1)

 【新興国市場で成功するための発想――新興国は「むかしの芸」で十分に戦える】
 2010年11月に韓国でG20が開かれ、世界経済はG8から多極化したことを示した。このことは、日本企業には約20地域の経済圏という未曾有の機会が生まれていることになります。

 新興国で現実に成功している日本企業を見ると、ほとんどが昔日本で培ったノウハウで現地にもっていっていることでできているという。むかしの芸を知っている定年間近の人を若手とセットで派遣して80歳まで腰を据えて働いてもられえればよいと述べる。ヤマハ発動機、矢崎総業、YKKの例を挙げています。

5つの市場と攻略ポイントを説明しています。詳細は、お読み願います。
 ①公共事業(鉄道、道路、空港、港湾、ダムなど)
 ②法人需要(工作機械、印刷機械、プラスチックの射出成形機、自動化機器、ブルドーザーなど)
 ③コンシューマー需要(富裕層1.75億人)
 ④コンシューマー需要(中間所得層14億人)
 ⑤コンシューマー需要(貧困層40億人)

 【日本経済再成長の処方箋――国家の繁栄に税金はいらない】
①所得税率を下げる。

財政再建で議論となる税制について、基本的姿勢をこう述べています。

「国民の税金を経済成長の原資にするという発想。これは根本からやめるべきなのだ。そもそも世界を見渡して、自国の税金を使って繁栄を享受している国などありはしない。ましてや、自民党政権は、時代遅れのケインズ経済学を盲目的に受け入れて、いまいる国民のみならず子孫からも借金を重ね、この国を破壊してきた。この罪は万死に値するといっていい。民主党政権も結局はその路線上で、むしろ財政の悪化を加速させている。」(参考文献1)

高所得者への最高税率上げは、選挙対策に過ぎず税収効果も乏しい。むしろ、所得税は下げるべきという。

ロシアはフラットタックス13%で2年間毎年25%税収が増えた。インドネシアも同様のポリシーで地下や海外に隠していた経済を申告した場合に、過去は不問にした結果、税収を2倍にすることができた。レーガン時代のアメリカも、サッチャー時代のイギリスも所得税率を下げることで税収が増えた。

②金持ちから税金取りたいなら、固定資産と金融資産3500兆円に1%課税で35兆円の税収。

持たざる者は払わなくてよい。余分な資産を持っている人は売却する選択をすれば良い。

先進国17ケ国は相続税を免除している。移転時の課税の考え方は時代に合わない。アメリカも期間限定で相続税を2001年から下げて2010年は無税にした。2011年に再び35%に戻す。次世代への移転を促進している。若い世代の消費性向は高いので経済効果が高い。

相続する子供のいない家庭もある。贈与税を無税にして希望の個人、法人に贈与することもよい。

③減価償却期間の短縮で新規投資を促す

 民主党政権は、法人税40%を35%に下げる意向だが、研究開発投資減税を廃止することと抱き合わせといわれ、実質減税は少ないし、新規投資は抑制される。欧州平均25%で魅力はない。台湾は25%を更に17%に下げた。

 むしろ、新規投資には減価償却期間短縮の方が効果がある。日本でも事例がある。1980年代に日本で人手不足に陥った時に、それまで8年だったロボットの減価償却期間を2年にした。それから2年後、日本は世界一のロボット大国になった。

 建物の減価償却期間は鉄筋コンクリートが47年、木造が22年となっているが一律15年にする。大建設ブームが起き、世界の投資家が資金投資をするに違いない。20年間の下落で、日本の土地相場はボトムに近い。
 
④土地の規制緩和による「湾岸100万都市構想」

日本における最成長分野は都市であるという。日本と世界の国民が喜ぶ職住近接都市をつくる構想で世界から投資を呼ぶシナリオをつくる。今、中国はじめ新興国は実践中であるという。

工業化時代は一等地だった湾岸地帯はすべて工業用地にされ、住宅は多摩に追いやられた。経済産業省と国土交通省の権限争いから規制の見直しが進んでいない。権限を基礎自治体に移管して工業用地を住宅地や商業地に使いやすくする。

 容積率や建築基準法も緩和する。韓国は通貨危機の時、容積率を2倍にしてオーナーの投資が増えた。利便性の高い南東の湾岸地域は通勤が便利で大きな需要が発生する。建物部分の容積率を800%にすれば、人口は一気に3倍になる。

 資金調達は、自治体が債権を発行し、世界のホームレスマネーを呼び込むことができる。

⑤商店街を株式会社化して、駅前一等地のシャッター街を活性化する

 駅前の一等地がシャッター街化している。郊外ばかりを開発したため、駅前一等地の方の価値が低いという奇妙な現象が起きている。組合方式で商店街全体の意志決定ができないのも大きい。大前氏は
商店街を株式会社化して、株の三分の二を売り出し、それを開発事業者に買い取ってもらい、徹底的に考えて再開発することを提唱しています。

⑥外国人を感動させる「観光の目玉」をつくる(省略)

 世界で活躍する大前氏の発想は世界で試され済みの実績を基に提案しており納得感が高い。では、何故、政権側からそういう提案が出てこないのか?大前氏は、「政策が貧困である」と述べています。

私は同時に、政党、官僚、メディアという各々の「権力」に都合の良い一部学者が偏重され政策討議の場が狭いことや、アカデミズムが現実の政策研究を忌避する傾向、国民に広く真実が知らされていない要因等もあるような気がします。

 日本は、大学受験優先のために、高校で世界史・日本史、政治経済、物理・化学等の基礎教養を学ぶことを実質的にやめたに近い異常が容認されてきた社会でもあった。我々が大学時代にあった教養学部はほとんど消滅した。本当に20世紀の人類の現実、教訓を知らない世代が多数になったのだろうか。もちろん、その影響もあると思います。

 私はむしろ、正しい真実が国民に知られていないのだろうと思っています。あらゆる社会組織のリーダー層を中心に「マクロ政治経済リテラシー」をもっと勉強すべき方々さえ怠ったという面を含めてですが。私自身が昨年より政治経済書を改めて読み始め、本当にそう思います。国民自身が「マクロ政治経済リテラシー」を持つことが、日本と自分の人生を守ることだと痛感しました。引き続き今年も皆様と一緒に勉強したいと思います。

 政策にかかわる政界、官界、学界、経済界、メディア等のリーダーの方々は、大前氏より「政策が貧困である」という指摘を素直に受け止め、世界に貢献する尊敬され力強い日本に大発展する政策を研究・提案・実行してほしいと強く願っています。

以上

(参考文献)
1.大前研一『お金の流れが変わった-新興国が動かす世界経済の新ルール』(PHP研究所 2011年1月 第一版第一刷)

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