佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

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2012/07/23 佐々木流 BI経営進化論 第11回 成功した職業人の向上心とリアリズムを知る①北川智子『ハーバード白熱日本史教室』

BI経営進化論
 今秋第5回となる『BIP事業リーダー実践塾』の企画会議を重ねていて、カリキュラム(教科内容)と共に講師・教授方法が話題となりました。その触発のせいでしょうか、今回は、企業人ではなく大学の先生で、既存のアカデミズムを超えて成功する職業人の向上心とリアリズムを生き生きと伝えてくれる若い女性をご紹介します。

20代でハーバード大学日本史講師となり、不人気の日本史講座を一躍ハーバード大学学生の熱狂する講義に変革した北川智子氏(以後、さんと呼称)。5月に出版された北川智子『ハーバード白熱日本史教室』を一気に読んだ。ある意味新鮮な衝撃であったが、納得できる「成功する職業人の法則」が満ちていると実感しました。「ティーチング・アワード」3年連続受賞、「思い出に残る教授」選出等毎年快挙を続けています。

 熱い夏に、涼しい空調で、たまにはゆったりした気分で「成功する職業人の法則」を味わってみるのも爽快ですね。

(1)初めての職業GET。何故20歳台の若い女性がハーバード大学日本史先生になれたのか?

参考資料
 そもそも、何故20歳台の若い日本人女性がハーバード大学日本史先生になれたのか?と驚くことでしょう。しかも、北川さんはカナダUBC(ブリティッシュ・コロンビア)大学で数学と生命科学専攻の学生でしたから尚更です。そのいきさつ自体がミラクルですが事実なのです。そのリアリズムは鮮烈です。

【カナダUBC大学の数学と生命科学学生が、修士は同大学大学院日本史専攻に】
偶然1-数学の学生が日本史教授のアシスタントアルバイトをしたことが物語の始まりでした。
偶然2-日本史の資料を読んでいく中で感じた疑問と意見を日本史教授と学部長に伝えてみた。
偶然3-両教授が大学院は文系で日本史研究をと誘ってくれ、推薦状書いてくれ合格してしまった。
偶然4-夏休みにハーバート大学に単科留学した日本史講座「ザ・サムライ」に疑問を抱いた。
偶然5-「Lady Samurai」が絶対いたと思うとの言葉に、クラスメートの目が好奇心で輝いた。

【カナダUBC大学日本史修士からニューヨークに近いプリンストン大学日本史博士課程へ】
偶然6-「Lady Samurai」修士論文を読んで、担当教官2名がアメリカの大学博士課程を勧めた。
偶然7-担当教官は、コロンビア大学とプリンストン大学の出身だった。
偶然8-ハーバード大学以外の4大学に合格し、プリンンストン大学博士課程を選んだ。

【プリンストン大学博士課程からハーバード大学「日本史講座」講師へ】
偶然9-普通5年の博士課程を3年で終了するメドが立った。
偶然10-ハーバード大学「カレッジ・フェロー」という大学院出の新米が教えられる制度が新設され、幸いにもその年に日本史講座募集があり、応募し合格した。
 
 私は北川さんの語る真実の物語を敢えて10の偶然で表現した。偶然1から偶然10を見ると、一般的にはヒマラヤの頂上に登るように本当に険しい道ではあろう。だが、一つ一つの偶然からの成功物語には、北川さんの高い志と好奇心、向上心による膨大な努力、そして勇気がはっきりと見えてきます。

 セレンデプティとは、偶然を現実のものとして掴みとった北川さんのためにある言葉だと賞賛したくなる快挙です。職業をGETする物語から学ぶものは大きいですね。

(2)初めての職業での大成功。初年度16人の受講生だったが、3年で251人履修する人気講座に変貌した白熱の授業とは?

参考資料
 北川さんの職業はハーバード大学東アジア学部レクチャラー。北川さんは、本書の中で「ハーバード大学日本史講義1 LADY SAMURAI」と「ハーバード大学日本史講義2 KYOTO」を詳細に紹介しています。

このシンプルなタイトルの白熱した講義に人気の秘密が仕掛けられていますが、単なる一時的イベント志向ではありません。しっかりと世界の最高エリート養成への学問的意味と有効な教授方法を研究し、創造し、開発しています。

 ハーバード大学では過去全く不人気だった日本史講座。北川さんの初年度16名受講から始まった日本史講座は、3年で251名が履修する人気講座に変貌した。「ティーチング・アワード」を3年連続で受賞し、全教授2100名から50名程度を4年生の学生の投票で選ぶ「思い出に残る教授」にも選出され、本物の先生と評価されました。

【教科内容の研究と創造~「SAMURAI」から「LADY SAMURAI」への再考】
「「Lady Samurai」では、武士道を批判するのではなく、まずは武士の陰に隠れてきた武士階級の女性の生き方にスポットライトを当ててみます。・・・最終的には、フェミストのように男女同権的な立場をとるのではなく、どのようにサムライとLady Samuraiが日本の歴史をつくっていったのか、サムライで完結した日本史を超える日本史概論、専門用語でいうと「大きな物語(grand narrative)」を描き出すことが目的です。」(参考文献1)

 私自身、本書を読んで海外での新渡戸稲造『Bushido:The Soul of Japan』出版が日本史認識に与えた影響の大きさに率直に驚いた次第です。20世紀はそれで良い面があったが、以後進歩がなく、今や国際的に遅れており、21世紀らしい日本史が必要という北川さんの気づきとチャレンジ精神に感服しました。 

【教授方法の開発~専門研究者でない全学部学生が日本史講座で何を学ぶのか再考】
 ハーバード大学東アジア学部は弱小ですが、全学部合計の学生数は多く、世界からエリートめざす優秀な学生が集まって来ています。しかし、特に文系の講座は通常の講義スタイルが多く、苦痛で役立たないことに気づく。

北川さんは、「アクティブ・ラーニング」をふんだんに採り入れた日本史特別講座「KYOTO」を開発。それが人気と評価を爆発的に上げたのです。大学の歴史授業としては珍しい「場所を主体とした授業」を採り入れた。

まずは、地図を書くというフィールド・トリップ。京都駅で配布する無料の英語版地図「KYOTOWALK」とハーバード図書館の地図を活用して、学生各自がオリジナルの地図を作成する授業を始めた。

 次に、京都1000年の歴史的変化を理解する授業として、大学では珍しいグループプレゼン。1542年のポルトガル人の種子島漂着から1642年江戸幕府までに限定。宣教師などヨーロッパ育ちの人間が見た日本を書いた英語版を読んでその内容をプレゼンする。もちろん、5つのカテゴリー毎の歴史資料は用意します。
①京都の街について ②3人の覇者について ③天皇や貴族の文化について
④食べ物、飲み物、日常のマナーについて ⑤仏教や神道などの宗教について

 中間試験は、3日以内に短いエッセイを書くこと。この方法はよく練られている。楽しみながら、しかし正確な知識を間違わないで使って、京都や歴史との疑似体験をするという教育方法なのです。
 “100年の中のある期間を選んで「タイムトラベル」した経験を書きなさい”
 会ってくる相手は次の5つから1つ選ぶ。
①天皇と貴族②ヨーロッパ人③3人の覇者④京都の庶民⑤宗教関係者(禅僧または神主)。

 その他、たくさんの「アクティブ・ラーニング」を創造しています。 

 昨日の讀賣新聞記事によると北川さんは本書刊行記念の講演で6月来日。7月からは数学史研究のために英国に滞在中とのことです。「レディーサムライ」の論文も近く出すそうです。

 若き日本人女性の海外でのプロの職業人としての大活躍を知って、「なでしこプロフェショナル」の広がりを実感しました。同時に、経営論がややもすると職業人の主体問題を軽視する場合がある中、現職中の成功した職業人の事例研究となる出版が増えつつあることは大変有用であると思った次第です。

(参考文献)
1.北川智子『ハーバード白熱日本史教室』(新潮新書 2012年5月)
2.讀賣新聞2012年7月22日号「本よみうり堂」

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thumbnail_sasaki佐々木 昭美(ささき あきよし)

取締役会長 総合研究所所長

経営コンサルタント(経営改善、事業開発、ビジネスモデル、 人事戦略、IPO、M&A、社外取締役)

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