佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

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2012/08/27 夏休みの読書-塩野七生『ローマから日本が見える』を読み、“ヨーロッパから日本を見る”

皆様、夏期休暇をいかがお過ごしでしたか?これからという方もおられるかもしれませんね。私は8月中旬に読書とフランス旅行の夏休みでした。BIエッセイも休ませて頂きましたが、今回から再開します。

前回の8月6日付BIエッセイ『夏休みに「おすすめの本20冊<ツイッター風140文字コメント付き>」』に対して多くの方から、“私もこの本を読んだよ”或いは“数冊の本読むよ”という趣旨のメールやフェイスブックへのメッセージを頂戴しました。大変有り難うございました。

私自身の夏休み読書は、仕事を離れて広い視野での本を選びました。その数冊の中で特に印象に残った一冊が塩野七生『ローマから日本が見える』です。フランス旅行の機内で読み終えました。2005年初版本出版時も読みましたが、EUは現在世界の焦点であり、同時にフランスのノルマンディとパリを訪ねる旅に歴史の必要性を感じたからかもしれません。今は文庫で手軽でもあり、機内で再読した次第です。
参考資料

(1)ローマ帝国を学ぶ現代的意味~「人間とは何か」を知る

塩野七生『ローマから日本が見える』のローマとはローマ帝国のことで、現在の南部ヨーロッパ、英国、中東、北アフリカ一帯の広大な地域を指します。論点を簡略化するためにローマ帝国をヨーロッパと読み替えて考えてよいと思います。

EUが再び世界の「火薬庫」である。経済低迷、国家財政破綻の影響は、貿易や金融・通貨を通じて、今や中国、北米、南米そして日本に波及していますね。

EUは、第1次大戦、第2次大戦の教訓から発足した。正確にはそれ以前の戦争の歴史も踏まえた理想への挑戦である。政治統合としてのEU、通貨統合としてのユーロの試みは順調に見えたが、現在苦境に直面している。「火薬庫」が戦争しないでどう解決するのか?その本質と将来への道を、世界は固唾を飲んで注視しています。

意外かもしれませんが、ヨーロッパには日本と同規模の人口や経済規模の大国は存在しません。英独仏が人口6000万人前後で大国です。ヨーロッパは多民族が欧州大陸で境界を接し、紀元前以来国境線が常に変わる戦争の歴史の地域であるのがわかります。

21世紀の現代においても尚、1000年続いたローマ帝国に学べと改めて強調する塩野七生氏の視点は本質的で極めて鋭い。

「人類は、はたして二千年昔ローマ帝国からこのかた、少しでも進歩したか――そのことは単に個人レベルの問題だけでなく、国家のあり方という集団レベルで比べてみても、同じ答えが出てくると思われます。私がそう考えるのは、ローマ帝国以後、二度と「普遍帝国」を人類は作り出してこなかったことによります。」(参考文献1)

中世キリスト文明時代を経たルネサンス時代に、ローマ帝国に同じ問題意識をもったマキアヴェッリの洞察に満ちた認識をこう紹介します。

「すなわち、キリスト教は千年もの間、ヨーロッパ人の精神を支配してきた。だが、それにもかかわらず、我々ヨーロッパ人の人間性は向上したとは思えない。これは結局、人間の存在自体がもともと、宗教によってさえ変えようがないほど「悪」に対する抵抗力がないからではないか。だとすれば、そうした人間世界を変えていこうとすれば、まずこうした人間性の現実を冷徹に直視する必要がある・・・。
・・・彼らローマ人たちはキリスト教会のように、宗教によって人間性が改善できるとは考えませんでした。また、ローマ人は古代ギリシア人とも違って、哲学によって人間が向上するとも思わなかったのです。
しかし、それでいて彼らはけっして人間に絶望していたわけではない。人間の中には善なるものもあれば、悪もある。善悪ともに同居しているのが人間ならば、その善を少しでも伸ばし、悪を少しでも減らす努力をしていくべきではないか・・・このようにリアリズムに徹して人間を考えたのがローマ人であり、そのローマ人のリアリズムをふたたび復興させようとしたのが、マキアヴェッリもその一人だったルネサンス時代の人々だったというわけです。」(参考文献1)

更にその後の思想と歴史についても冷静な眼差しからの評価を怠らない。

「ルターのプロテスタンティズムののちも、人間性を改善するためにさまざまな思想が現れました。啓蒙主義思想、フランス革命をもたらした自由・平等・博愛の思想、さらには共産主義思想・・・人間を「進歩」させると称した思想は数々現れたけれども、それによって人間社会は改善されたでしょうか。・・・となれば、やはり現代に生きる我々にとっても、マキアヴェッリと同じように、古代ローマの人々の生き方を知ることは大いに参考になるのではないか。私はそう考えます。」(参考文献1)

(2)歴史とは人間がつくるもの~「リーダー」の資質とは何か

ローマ全史が面白いのは、上記マクロの部分と同時に、リーダーたちが次ぎ次ぎと現れてくる波瀾万丈の物語だからだと塩野氏が述べるが、彼女の著作『ローマ人の物語 全15巻』がそれを物語る。歴史は人間がつくる。誤解を恐れずに更に踏み込んで言えば、「任せられた」指導者が歴史をつくる。

本書には、「第9章ローマから日本がみえる」に続いて、ビジネスパーソンや各界リーダーにも大変興味を引く特別付録「英雄たちの通信簿」が収録されています。これがまた面白い。塩野氏の指導者評価です。私も含め人間は、他人の評価を聞くことに関心が高いですよね。他人事と考えてしまうからでしょうか。

私が驚いたのは、その通信簿の指導者基準は王道であり、これがイタリアの普通高校で使われている歴史教科書に書かれていることです。イタリアの高校生は高いレベルの一般教養を学んでいますね。

「指導者に求められている資質は、次の五つである。知力。説得力。肉体上の耐久力。自己制御の能力。持続する意志。カエサルだけが、このすべてを持っていた。」

塩野氏の「古代ローマ 指導者通信簿」の一部を紹介します。
参考資料

古代地中海世界ですべて百点満点は、カエサルとギリシアのペリクレスだけです。

皆さんよくご存じのブルータスの評価は激辛です。

「現代の日本人に分かりやすく言えば、この人は要するに左派インテリなのです。つまり自分には確たるビジョンがないのに、他人のやっていることには一人前の批判をする。・・・リーダーの資質としての「知力」と、学問をして得られる「知識」とはまったく別物です。ブルータスは知性ならばあったと思うけど、知力はなかった。」(参考文献1)

女性の眼から見た女性指導者クレオパトラへの評価がなかなか面白い。魅力的女性と認めながらも、リーダーという視点からは当然かもしれないが厳しい。

「クレオパトラの場合、リーダーに不可欠な知力はなくても教養ならばあった。だから、機知に富んだ会話もできる、女としてはまれな一人であったのでしょう。当時の地中海世界ではやはり群を抜いて、魅力的な女性であったと思います。・・・たしかに一人の女性として見るならば、同情できないわけではありません。しかし、彼女は一国の女王であり、その行動はエジプトの人民すべての生活に影響を与える存在だった。その意味で、私はやはり彼女を評価することはできませんね。」(参考文献1)

帝政を確立したアウグストゥスや「五賢帝の時代」のハドリアヌスを高く評価しています。

書名に係る「第9章 ローマから日本がみえる」の詳細は省略します。改革とは「過去」の否定ではない。歴史と伝統を無視した改革は失敗する。「五五年体制」を評価する等々。結論はシンプルですが私の説明では読者の皆様が納得しないと思うからです。肝腎要のところは、塩野氏の洞察に富んだ真意を直接読んで頂くのが良いと思います。

「古代ローマの人々と付き合ってきて私が何よりも感心するのは、どんな苦境にあっても彼らがけっして挫けなかったという事実です。」(参考文献1)

塩野七生『ローマから日本が見える』は、素敵なお酒のように少々辛いが美味しい味わいでした。そして、21世紀を生きる日本人として元気をもらいました。個人の生き方として、リーダーとして、日本国民として等々、人間に関わる多様な叡智を醸成してくれています。一杯飲んでみてはいかがですか?

以上

(参考文献)
1.塩野七生『ローマから日本が見える』
(集英社文庫 2008年9月25日 第1刷  本書は2005年6月集英社より初版)

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thumbnail_sasaki佐々木 昭美(ささき あきよし)

取締役会長 総合研究所所長

経営コンサルタント(経営改善、事業開発、ビジネスモデル、 人事戦略、IPO、M&A、社外取締役)

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