佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

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2009/06/29 経営品質・現場品質統合経営の時代①:『TQM21世紀の総合「質」経営』と『シックスシグマ』を読み返して思うこと

 “経営品質・現場品質統合経営の時代”というテーマでビジネスエッセイを何回か書いてみたいと思います。私の率直な実感の表明が、ちょっと押しつけがましい印象があるとしたらご容赦願いたい。一緒に考えて頂き、ご助言やご意見を頂戴できれば幸いです。

BIPビーアイピーは6月、シックスシグマの専門家である経営コンサルタント関本哲志(せきもとさとし)氏(元ソニー(株)品質保証部長)を迎えました。(プロフィール詳細はこちら>>)たまたま私もコープさっぽろ勤務の30歳代にTQCマネジャーを数年ですが経験しました。

『TQM21世紀の総合「質」経営』と『シックスシグマ』は、21世紀を迎える直前1998年同じ年に出版されました。当時読んで刺激を受けた本ですが、企業経営の激変に当たって、10年前を振り返り今回改めて読み返してみました。

日本は20世紀後半、製造業も流通・サービス業も品質改善・業務改善の全員参加活動、いわゆるTQC活動を進め、世界的競争力を実現してきました。米国も日本製品の浸透に対抗して、製品競争力回復を目指してシックスシグマという品質改善活動を展開しました。21世紀を迎える時期に、世界第1位の経済大国米国と世界第2位の経済大国日本という両先進国が共に、品質改善という同じテーマの重要性を掲げていました。

 昨今の経済環境の激変によって、企業経営のあり方が問われている時代です。私は、10年以上の視野をもって現在と未来に立ち向かっていく必要を感じています。最近の新聞報道によると、世界トップ企業トヨタは、経営品質と現場品質を統合した変革を宣言したように感じます。

BIP第1期事業リーダー実践塾第2回テキスト 参考文献

(1)『TQM21世紀の総合「質」経営』が伝えるもの

 『TQM21世紀の総合「質」経営』出版の直接の目的は、1996年4月に(財)日本科学技術連盟(以下、日科技連)が「TQC」と呼称を「TQM」に変更した後の議論を整理して、TQMへの発展内容を論じたものである。TQMに対応する日本語として「総合「質」経営」という用語を提案している。(参考文献1:24ページ)

 誤解を恐れずに言えば、21世紀の企業経営を前にして、TQMへの名称変更は品質改善のスコープ(適用範囲)を経営システムに拡大・発展させるべきという宣言であると思う。第1世代のQCの主な対象は、製造業を中心に製造品質であった。第2世代のTQCは、あらゆる産業の製品・サービスの質へと発展した。私も第2世代のTQC活動を、1980年代に日科技連の指導を頂きながら流通・小売業態で展開した。第3世代のTQMは、経営の質への発展であるとされる。私流の言葉で表現すると「経営品質・現場品質統合経営の時代」にあった経営科学、経営管理技術への挑戦の呼びかけであったと思う。

 この基本思想というか、時代認識は素晴らしいものであると思う。この本が出版された時に、私はインターネットビジネスの最前線にいたが、TQCのOBとして、この基本思想に大きな刺激を受けつつ、その創造的挑戦への思いを強くした覚えがある。『その本質は、顧客の支持を得るために、常に危機感を抱いて、ビジネスモデル創造革新、事業開発へのパラノイア的な変革への衝動の連続でした。体汗頭汗ライブともいうべき、楽しいが激しい肉体的、知的労働であったと思います。』(BIエッセイ2007年7月10号「ビーアイに恋をした。大手町にあこがれた」詳細はこちら>>)と感想を述べたことがある。日本だけにも欧米だけにも偏らず、多くの経営科学と成功事例を学び、事業創造への実践、仮説への挑戦の日々という思いであった。

日本全体は低成長で“失われた10年”と言われるが、成長した企業と衰退した企業があり、その和が日本である。TQMが普遍的経営科学をめざす以上、TQM名称発表から10数年を中間総括し、成功の法則と失敗の教訓を伝える役割があると思う。

 6月トヨタは、経営体制の刷新と同時に、800名の現場品質改善リーダー追加育成方針決定の記事が報道されている。世界トップ企業トヨタは、経営品質と現場品質の両面から統合した変革を宣言したように私には感じられる。

(2)『シックスシグマ』が伝えるもの

 『シックスシグマ』は1998年に出版され、当時すぐ買って読んだ。IPOの責任者として店頭公開成功後、1,000億企業をめざし新規事業開発の部門責任者に職務変更となった頃である。米国の大企業復活に貢献した品質改善経営手法を要約した好著であった。

 本の帯には、「あのGE、ソニーが全面導入した「全社的経営革新」のすべて!!」と書いてあり興味を持った。「ソニーではすでにCQO(チーフ・クオリティー・オフィサー:最高品質責任者)を出井伸之社長自らが兼務し、内外で賞賛されるその高品質維持のためにさまざまな取り組みが行われている。品質についても世界ブランドとなっているソニーが、「次の一手」としてシックスシグマ手法を選んだということをとってみても、シックスシグマ手法が経営に及ぼすインパクトの大きさを垣間見ることができるだろう。」(参考文献2:22~23ページ)と、著者は日本での展開を勧めていた。そのソニーで、1985年より1998年まで品質保証部長を歴任し、1999年よりシックスシグマインストラクターとして大活躍した専門家が経営コンサルタント関本氏である。奇遇な嬉しい出会いである。

 第1章「シックスシグマとはなにか」は、こう説明している。

 『人間のすること、完全無欠の欠陥ゼロはありえないが、シックスシグマという手法の画期的なところは、これを企業に根づかせることに成功すれば、企業が生み出す商品・サービスのエラーやミスの発生確立を100万分の3.4回にまで抑えることができることである。シグマ(σ)は標準偏差と呼ばれ、分布のバラつき度合い、すなわちエラーやミスの発生確率を示す統計用語である。統計学では上記の「エラーやミスの発生確率が100万分の3.4回」というレベルを6σと規定していることから、6σレベルのエラー発生確率であればほぼすべての品質・経営管理目標として用いることができると考えた考案者が「シックスシグマ」という基準にしたのである。』(参考文献2:2ページ)
 
 シックスシグマは、やはり「経営全般を対象とする経営革新活動」であるといわれる。(参考文献2:86ページ)世界経済第1位の米国と第2位の日本が期せずして、現場とともに経営全般を対象とする科学的品質改善を掲げたのである。繰り返すが、私流の解釈は「経営品質・現場品質統合経営の時代」である。それから10年余、昨今の不況前の好景気の時期に、各企業はこの総合「質」の経営という言葉をどう受けとめたのだろうか。

 1980年代に、日本の製品品質に劣ることを自覚したモトラーラが開発し成果を挙げた手法は、1990年代にはTI、IBM、GEなど米国大企業に広がった。1980年代以降、シリコンバレーに代表される情報通信ベンチャー発展の一方で、米国大企業の地道な努力があった。私自身、ベンチャー経営第一線で実践しながらベンチャー学会等で交流・学ぶ一方で、同時にトヨタ、ホンダ、松下、ソニー、シャープ、コマツ等日本大企業及びIBM、GE等米国大企業の企業変革を学んだ。今思えば、シリコンバレー流ベンチャー経営論の良さは取り入れ積極的に実践する一方、それだけに偏らず大企業革新のノウハウを同時に研究、実践したことは、ベンチャーから大規模化した日本企業の変革、持続的成長の糧になったと痛感する。経営者も経営科学も現実によって鍛えられるものである。

(3)『実行力は何%ですか。事業リーダーが知っておくべきPDCA手法』(BIP第1期事業リーダー実践塾)が伝えるもの

 BIPビーアイピーは、30~40代のリーダーを対象に昨年11月より今年3月まで、全5回夜間コースで『BIP第1期事業リーダー実践塾』を開催した。単なるリーダーから事業リーダーすなわち「事業家」的リーダーへの成功を支援する教育研修講座である。(詳細はこちら>>

 その第2回講座が、『実行力は何%ですか。事業リーダーが知っておくべきPDCA手法』である。日米の経営科学と事例に詳しいコーチャーズオフィス代表岸田伸幸氏に講義して頂いた。

 このカリキュラムの第1章は、「イノベーションを実現するPDCAサイクル」として、イノベーションの観点から「イノベーションの基本動作としてPDCAサイクルを回し続ける」ことの大切さを改めて理解して頂き、リーダーとして実践指導できることを求めたものである。

 第2章は、「進化するMOTマネジメント技法」である。日本のTQMは、MOTの源流であり、米国での成果として6Σ(シックスシグマ)とLPS(リーン生産方式)等を紹介している。

 第3章は、「TQMのイロハ:七つ道具をマスターしよう」である。QC七つ道具(Q7)、新QC七つ道具(N7)、商品開発七つ道具(P7)等を改めて説明した。

 第4章は、「事業計画とシナリオアプローチ」である。もちろん、現場の改善と同時に事業計画というテーマに凝縮して経営全般の改善との関連を論じている。経営計画論の詳細は、第3回講座で更に深く学習、実習する

 2年間のコンサルティング実践の中で、意外にも若いミドル世代はTQMの学習・実践体験が少ない方が多いことを実感した。TQMの基本言語が伝わらないという現実を体験したのである。30~40代の事業リーダーを目指す方には、その成功のためにも現場品質改善の基本を必ず身につけてほしいと思いカリキュラムを構成した。

経営品質と現場品質は、統合しながら総合「質」経営があるいう基本思想にこだわりながら内実を探究していきたいと思う。
以上

(参考文献)
1. TQM委員会編著『TQM-21世紀の総合「質」経営』(株)日科技連出版社 1998年6月)
2. 青木保彦・三田昌弘・安藤紫『シックスシグマ~品質立国ニッポン復活の経営手法』(ダイヤモンド社 1998年4月)
3. コーチャーズオフィス代表 岸田伸幸『実行力は何%ですか。事業リーダーが知っておくべきPDCA手法』(BIPビーアイピー第1期事業リーダー実践塾第2回テキスト 2008年12月)

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