佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

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2011/02/28 錦絵黄金時代の清長・歌麿・写楽初公開作品に満ちた「ボストン美術館 浮世絵名品展」

 浮世絵名品144点をじっくり味わったのは初めてです。先週末、東京 山種美術館で『ボストン美術館 浮世絵名品展 錦絵の黄金時代―清長、歌麿、写楽』(2/26~4/17)を鑑賞しました。山種美術館より公式画像をお借りして、そのすばらしさを皆様に簡単にご紹介します。もうすぐ桜の季節ですので、桜を中心とした画も選びました。★印

 錦絵の黄金時代と言われる天明・寛政期(1781――1801)の華やいだ世界に焦点をあて、清長、歌麿、写楽および同時代の絵師の浮世絵版画、肉筆画、版本名品144点を展覧しています。これほど充実した展覧会はないかもしれませんね。

 絢爛豪華な美人画の匂い立つ色香、多彩な役者絵の表現を展示する静かな美術館を歩きながら、明るく人間味に満ちた江戸時代芸術世界に誘われ、楽しい時間を過ごしました。現代に脈々と続いている明るく楽しい「庶民芸術」の大きな源流の一つなのだと思いました。

 ボストン美術館の日本美術コレクションは、約54,000点と日本国外では最大で世界屈指といわれます。明治初期、日本美術に魅了されたモース、フェノロサ、ビゲローらによって収集されました。

 極彩色の多色摺である錦絵の華麗な色彩美に驚きました。それは、ボストン美術館が、保存優先で公開せず大切に保存してきたからです。今回は、これまでほとんど公開されていなかった名品が日本で初公開されました。文化財保護の規定で、本展出品作品は今後5年以上展示の機会が無いそうです。この機会に是非ご覧下さい。

 ボストン美術館については、昨年4月BIエッセイ「 心躍るボストン美術館展。六本木ヒルズで西洋絵画47巨匠80名画を一堂に観る贅沢!」(詳細はこちら>>)で紹介しています。
山種美術館にて 山種美術館にて ボストン美術館
Photograph (c)2011 Museum of Fine Arts, Boston. All rights reserved.

(第1章)鳥居清長(1752~1815)~八頭身の健康的美人画で一世を風靡

鳥居清長 大判錦絵「雛形若菜の初模様 丁子屋内 しをり つまき」 鳥居清長 大判錦絵続絵「風俗東之錦 萩見」
★画像左:鳥居清長 大判錦絵「雛形若菜の初模様 丁子屋内 しをり つまき」 天明2年頃
画像右:鳥居清長 大判錦絵続絵「風俗東之錦 萩見」天明3~4年頃
Photograph (c)2011 Museum of Fine Arts, Boston. All rights reserved.

 辻惟雄氏によると、「浮世絵は美人画と役者絵を軸に展開し、世界の美術史上、稀にみる豊かな風俗表現の版画、絵画作品群として展開する。」(参考文献2)

 天明(1781-89)から寛政(1789-1801)年間に、錦絵創始期の鈴木春信様式から脱皮した、新しい個性的画家鳥居清長が現れました。鳥居清長は、鳥居派の伝統的役者絵でデビューしましたが、人気をさらったのは美人画でした。

 八頭身の健康的美人で、実在感のある堂々とした画風です。代表的な大判揃物の美人画やワイド画面の続絵の迫力ある女性群像、役者絵や子供絵までしっかり概観できる展示です。

(第2章)喜多川歌麿(?~1806)~大首絵で、迫力ある艶のある美人画で一時代を築く

喜多川歌麿 大判錦絵「歌撰恋之部 稀二逢恋」 寛政5-6年 喜多川歌麿《青楼遊君合鏡丁子屋内雛鶴雛松》寛政9年頃
画像左:喜多川歌麿 大判錦絵「歌撰恋之部 稀二逢恋」 寛政5-6年
画像右:喜多川歌麿《青楼遊君合鏡丁子屋内雛鶴雛松》寛政9年頃
Photograph (c)2011 Museum of Fine Arts, Boston. All rights reserved.

 清長が鳥居家4代目を襲名し、家業である看板絵や芝居関係の作品に専念して美人画から遠ざかってしまった後に台頭したのが喜多川歌麿です。内藤正人氏は、「清長の清楚な美人に対し、官能的な魅惑に満ちた美人の登場である。」と述べています。(参考文献3)

 本展覧会では、天明前期のまだ歌麿独自の様式が確立していない初期美人画から、その芸術性の頂点に達した寛政年代の傑作まで、美人画の一時代を築いた歌麿芸術の真髄を克明に紹介しています。本当に嬉しい企画であり、滅多にない機会に見ることが出来て本当に感激しました。
 

(第3章)東州斎写楽(生没年不詳)~役者の内面まで描いた独特の大首絵は、現在も健在

東州斎写楽 大判錦絵「中山富三郎の宮城野」 東州斎写楽 大判錦絵「市川男女像の奴一平」
画像左:東州斎写楽 大判錦絵「中山富三郎の宮城野」 寛政6年
画像右:東州斎写楽 大判錦絵「市川男女像の奴一平」 寛政6年
Photograph (c)2011 Museum of Fine Arts, Boston. All rights reserved.

 上の絵は、ご存じの方も多いことでしょう。一目で写楽とわかりますね。

 寛政6年(1794)5月、版元であるプロデューサー蔦屋重三郎から28図の役者大首絵を発表してデビューした写楽は、わずか10ケ月足らずの間に140数点の作品を発表して忽然と姿を消したそうです。

 画風は、勝川春章らによって完成されてきた役者似顔絵を、さらに一歩進めて役者の内面まで描いた極めて個性的なものと評価されています。最初の28図はすべて背景に黒雲母を用いた豪華な大首絵で全作品の中でもとりわけ高い評価を受けているそうです。ヨーロッパの前衛映画の理論にヒントを与えたという研究もあります。

 合計21点の作品が一堂に展示されています。写楽の作品を、まとまった点数で観覧できる貴重な機会です。

(第4章)黄金期の三大絵師をとりまく大家たち――勝川春章、鳥文斎栄之、歌川豊春・豊国

賀川春章 「三代目瀬川菊之丞の羽子板」  鳥文斎栄之 「茶屋娘見立雁金五人男」
歌川豊国 「六玉川 調布の玉川」
画像左:歌川春章 「三代目瀬川菊之丞の羽子板」 天明期
画像右:鳥文斎栄之 「茶屋娘見立雁金五人男」 寛政5年頃
画像下:歌川豊国 「六玉川 調布の玉川」 寛政後期
Photograph (c)2011 Museum of Fine Arts, Boston. All rights reserved.

 黄金期には、清長・歌麿・写楽の三大絵師だけでなく、個性豊かな実力派の絵師がそれぞれの画派を形成して活躍していました。同時代に活躍した絵師たちの多様な作品を展示しています。

 ・役者絵を斬新な似顔絵に発展創始し、晩年は優美な肉筆美人画に傾倒した賀川春章。
 ・旗本武家出身ながら浮世絵師の道に進み、高雅な貴人の理想美で描かれた美人画に没頭した鳥文斎栄之とその一派。
 ・歌川豊春、歌川豊国はじめ幕末の一大画閥となった歌川派。

 昨年は、2月ルノワール展、4月ボストン美術館西洋名画展、6月オルセー美術館展、9月ドガ展、10月ゴッホ展と西洋名画特別展ラッシュの年でした。特別展のすばらしさは格別でした。

 今年は、日本の美術、日本の画家の作品をじっくりと味わいたいと展覧会計画を調査中です。皆様と一緒に楽しい美術の出会いが生まれれば嬉しい限りです。

以上

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『ボストン美術館 浮世絵名品展』

会場:山種美術館
会期:2011年2月26日(土)―2011年4月17日(日)

◆開館時間
午前10時―午後5時(入館は午後4時30分まで)
※金曜日は午後7時まで開館(入館は午後6時30分まで)

◆休館日
月曜日(ただし3月21日は開館、翌22日は休館)

◆アクセス
JR・東京メトロ日比谷線「恵比寿」駅より徒歩約10分
渋谷駅東口より都バス(学03番 日赤医療センター前行)東4丁目下車、徒歩2分(降車①、乗車②)
恵比寿駅前より都バス(学06番 日赤医療センター前行)広尾高校前下車徒歩1分(降車③、乗車④)
※美術館に駐車場はありません。公共の交通機関をご利用ください。

◆主催
山種美術館、ボストン美術館、日本経済新聞社、テレビ東京

公式サイト:http://ukiyoe.exhn.jp/index.html

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(参考文献)
1.監修 セーラ・トンプソン、永田生慈 編集 岩切友里子、日本経済新聞社文化事業部
「ボストン美術館浮世絵名品展 錦絵の黄金時代――清長・歌麿・写楽」図録(日本経済新聞社)
2.内藤正人『浮世絵再発見――大名たちが愛でた逸品・絶品』(小学館 2005年9月)
3.辻惟雄『日本美術の歴史』(東京大学出版会 2005年12月)



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