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2010/08/23 政治経済を読むシリーズ5:日本デフレ不況の確信犯?日銀金融政策の実証分析!元内閣参事官 高橋洋一『日本経済のウソ』(上)

 6月22日民主党政府は、景気は順調に回復局面と発表していた。日本銀行も、7月15日、8月10日と続けて、景気は緩やかに回復しつつあると発表していた。

 現実は、円高、株価下降、雇用低迷が続いていた。

先週、8月16日内閣府が発表した「2010年4~6月期四半期別GDP速報」は現実の厳しさをはっきりと示した。名目GDPの成長率は、▲0.9%(年率▲3.7%)、実質GDPの成長率は、0.1%(年率0.4%)となった。名目の内訳は、内需が▲0.9%、純輸出が▲0.1%となった。内需と外需共に、1~3月のプラス成長からマイナス成長に急落した。

 民主党政府と日銀はあわてて、会談を持つというが、定期的に会ってもいないのでしょうか?経済財政諮問会議時代は2週間に一度以上会議があり、経済の司令塔が明確でした。。またどういう金融政策、財政政策を取るのでしょうか? 

 そもそも、リーマンショック時に直接影響がないと言われた日本が、OECD諸国の中でデフレが継続し、一番景気回復が遅れ、円高が進み、株価が下降しています。

 その根本的な疑問に、1990年代半ばから続いているデフレ経済と日銀の金融政策に焦点を合わせた実証的研究書が、先日8月10日に出版されました。元財務省理財局資金企画室長、元内閣参事官、嘉悦大学教授高橋洋一著『日本経済のウソ』。日銀の金融政策と学会、エコノミスト、マスコミの「定説」のウソを実証分析で解明しています。経済統計も豊富です。早速読んで大変参考になりました。

 今週と来週の2回にわたって、その読書メモを書いてみます。個人の人生は、広い意味でその時代の政治経済に大きな影響を受けているのは自明です。一見難関で普段触れないマクロ経済政策、特に金融政策について皆様と一緒に考えてみたいと思います。紙面の関係もあり、私の興味をもった箇所中心となりますので、あらかじめお許し願いたいと思います。詳細は是非ご購読願います。

(1)勝間和代氏の推薦コメント“「埋蔵金」を国庫から発掘した高橋洋一さんが、今度は「デフレ不況の新犯人」を白日の下にさらします。”

参考書籍

 すでにご存知の方も多いと思いますが、高橋洋一教授の簡単な紹介を致します。
 
1955年東京都生まれ。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。大蔵省(現財務省)理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員などを経て、2006年から内閣参事官。2010年より喜悦大学教授。著書に『財投改革の経済学』(東洋経済新報社)、『さらば財務省!』(講談社)、『この金融政策が日本経済を救う』『日本の大問題が解ける本』(光文社)など。

高橋洋一教授は、勝間和代氏の推薦文を待つまでもなく、2007年に特別会計の「埋蔵金」を暴露して、一躍知られるようになりました。その後も、官僚出身でありながら、その知識と経験を生かして、官僚益にとらわれない政策研究を行っています。客員研究員のプリンストン大学は、FRBバーナンキ議長がかつて研究をしていた大学です。

高橋洋一教授『日本経済のウソ』の概要を目次の引用でまずご紹介します。

 ●はじめに――日本経済のウソと真実を見抜け!
 ●第1章 日本はなぜ不況なのか?――デフレ不況の経済学
   1.日本はなぜ不況なのか
   2.デフレは誰の責任か?
   3.正しいデフレ対策とはなにか?
 ●第2章 危機はいかに克服されるのか?――危機克服の経済学
   1.これまで、どのようなデフレがあったか?
   2.歴史から何を学ぶか?
   3.いかに金融システムを安定させるか?
 ●第3章 これからの日本経済はどうなるか?――国家再建の経済学
   1.日本経済はどうなっていくか?
   2.日本はなぜ正しい金融政策を行えないのか?
   3.日本の未来はどうなるか?

(2)日銀はデフレ経済の「確信犯」?日本の実質金利はアメリカより高い。

参考資料
※参考資料 高橋洋一『日本経済のウソ』P29より

 1990年代からのデフレによる経済停滞について、「日本の構造的な問題を強調する立場」と「金融政策の失敗を強調する立場」があるといいます。本書は、後者をサポートするような日銀の量的金融緩和が不十分であったことを分析しています。

 経済が不況となると各国中央銀行は金利を下げるという金融政策で経済を刺激し、支援します。金利が0%近くになると量的金融緩和と呼ばれる大量の資金供給を行う政策を実施します。その結果、たとえばアメリカの名目金利は日本より高いが、実質は逆な状況です。2009年政権交代時の状況は以下の通りでした。実質金利は、日本の方が高い。この状態では、経済取引上一般に円ドルレートに円高圧力がかかります。
                 日本     アメリカ
 10年国債の利回り      1.2%    3.2%
 10年物価連動国債の利回り  2.4%    1.5%
 一般物価の将来予想     ▲1.2%    1.7%

 日銀は消費者物価(除く生鮮食品)を0~2%にするような金融政策を運営していると言いますが、上図の通りマイナス1~0%になるように運営してきました。目標通りできないのは能力がないということですが、高橋教授は「確信」的にそうしてきたと分析しています。

 なぜなのでしょうか。第1の言い分は、マイナス金利はない。それでは、量的金融緩和をすればよいではないか。しかし十分にやっていない。また、雇用等は日銀の役割でないという経済に責任を負わない態度、それは日銀法の欠陥に由来する、まさにこれが最大の論点だといいます。先進各国と比して日本だけが違うことを見ていきたいと思います。

(3)デフレは誰の責任か?金融政策を行わない唯一の国

参考資料
※名目GDP成長率の推移(内閣府経済社会総合研究所資料)
 
 先週8月16日、内閣府経済社会総合研究所が発表した名目GDP成長率の推移のグラフをご覧ください。4~6月期経済が急落しているのは明白です。

民主党政府の6月発表した認識を読んでみてください。
「我が国経済は、平成21年春を景気の底とする拡張局面にある。世界経済の緩やかな回復に加え、同年末の緊急経済対策により、高めの成長が実現している。このところは雇用・所得環境に底堅い動きがみられるようになり、平成22年度予算の執行を通じてこれら環境の改善は確実さを増していくと考えられる。」(内閣府2010年6月22日)

日本銀行が、8月10日金融政策会合後発表した議事録要旨を読んでみてください。
「わが国の景気は、海外経済の改善を起点として、緩やかに回復しつつある。すなわち、新興国経済の高成長や世界的な情報関連財需要の拡大などを背景に、輸出や生産は増加を続けている。設備投資は持ち直しに転じつつある。」(日銀 当面の金融政策運営について)

 デフレ不況に対して、民主党政府と日本銀行の公式文書を皆さんは読んでどう思いましたか? 現実を無視しているだけでなく、国民生活、企業業績に直結するデフレ経済は他人ごとのような印象を私はうけました。

参考資料
※参考資料 高橋洋一『日本経済のウソ』P39より
参考資料
※参考資料 高橋洋一『日本経済のウソ』P40より

 経済不況には、財政政策と金融政策があります。リーマンショック後、各国はGDPギャップを埋めるために財政政策と金融政策を実施しています。世界各国と日本の状況を端的に示す高橋教授の提供するこのグラフは何を物語っているのでしょうか。

 高橋教授は、日本は金融政策をほとんど行っていない唯一の国と述べています。アメリカと欧州の中央銀行のバランスシートを比較するともっと歴然とします。いわゆる量的金融緩和を明らかに日本銀行は拒否しているとしか思えないグラフですね。

 「日銀は2008年もミスしています。2008年10月8日、リーマンショック後に米欧の銀行間市場が凍りつき、連鎖リスクが高まったため、世界同時に利下げが行われました。利下げを発表したのは欧米六中銀のほか、中国、UAE(アラブ首長国連邦)、香港、クウェートの計10ケ国・地域です。そこに日本の名はありません。その前日の7日、日銀は政策決定会合で金利据え置きを決めていたのです。8日当日、日銀は利下げでなく「支持」を表明しました。あるテレビ局は「支持」を「支援」と報道して慌てて訂正しました。それほど日銀の利下げ不参加は、微妙かつ奇異な出来事でした。・・(略)・・日本だけが金融緩和しなかったため相対的に日本の金利は割高になり、円高圧力がかかって円が急騰し、優良株といわれる輸出関連株が下がって怨嗟の声があがりました。日銀が重い腰をあげて政策金利を0.2%下げたのは10月31日、それでも足りず12月19日に0.2%下げて現行の0.1%にしたのです。1999年から2001年にかけて行われた速水優総裁時代のゼロ金利と量的緩和政策に反対したのが、当時審議役だった今の白川総裁と山口泰副総裁です。」(参考文献1:40~41ページ)

何故、日銀は金利引き下げや量的金融緩和に否定的なのでしょうか。意味がないと思っているのでしょうか。本当はしたくないと考えているのでしょうか?それでは、論点の一つである量的金融緩和などについて、世界のデフレとその教訓としての世界の経済学の到達点を次回触れたいと思います。
(次回第2回は、8月30日の予定です。)

以上

(参考文献)
1.高橋洋一『日本経済のウソ』 (ちくま新書 2010年8月10日 第1刷発行)

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