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2012/05/14 佐々木流 BI経営進化論 第7回 “若者よ、この本を手に世界をめざせ!”

BI経営進化論
 “若者よ、この本を手に世界をめざせ!” このメッセージは、「週間ダイヤモンド」2011年の<ベスト経済書>第4位となった戸堂康之東京大学大学院教授『日本経済の底力』の帯に記された言葉です。

 大学研究者の経済書にしては激しい口調の言葉を発する背景には、著者の東日本大震災後の日本経済への危機感と同時に、経済学の示す未来指針への確信を是非共有してほしいという熱情があります。

 ビジネスパーソンは、ミクロ経済である企業成長と同時にマクロ経済である日本経済の成長を複眼で学び行動する必要性を痛感し、BIエッセイでも再三取り上げてきました。2010年は「政治経済を読むシリーズ」6回、2011年は東日本大震災発生前に「政治経済書を読む」を2回執筆しました。震災後9月と今年新春にも、私なりのメッセージを改めて述べました。

 東日本大震災後の日本経済を立て直すにはどうすれば良いのか? この問題を考える時には、震災前の日本が停滞していた事実を忘れず、飛躍的成長の軸を考える必要があると強調しています。この本は、経済学の実に豊富な研究実績やデータから、日本経済の未来への方向性をしっかりと語っている。

(1)戸堂康之『日本経済の底力』が示す日本経済飛躍への核心――EPA中軸にグローバル化と特区活用による産業集積

参考資料

 リーマンショック、ヨーロッパ金融危機、東日本大震災等を身近に体験する中で、日本人(政治家、メディア、学識者含む)はマクロ政治経済が個人や企業のインフラであることを痛感しつつありますが、将来の目指すべき方向については残念ながらコンセンサスが出来ていないこと、また強い確信を持てないでいることが低迷を打破できない要因にもなっています。戸堂教授の著書は、その意味で大変有意義なものです。

 『日本経済の底力』の著者戸堂康之氏は、東京大学大学院新領域創成科学研究科国際協力学専攻教授。 目次に示すように、日本経済の飛躍的発展方向として①グローバル化②産業集積の2点を挙げています。
 
 第1章 復興と成長   
 第2章 経済成長の鍵 その1 ――グローバル化
 第3章 グローバル化の方策 ――TPPを中心に  
 第4章 第2章 経済成長の鍵 その2 ――産業集積  
 第5章 産業集積の実態  
 第6章 「つながり」と「技術」による集積
 終章 日本人の底力

【EPA中軸にグローバル化――日本の対外輸出・対外直接投資、海外からの国内投資共に先進国中最低レベル】

 日本人は、日本は輸出国家という認識が強いと思います。確かに自動車産業や部品産業などの一部は国際競争力があり、その関連産業は大きいものがあります。

 しかし、GDPに占める輸出の割合は未だ15.6%で、先進国中最低レベルが事実です。また、海外企業による国内投資はGDPの0.2%程度であり先進国で最低水準です。日本のグローバル化は大きく遅れているのです。

 何故、グローバル化が重要なのかは、イデオロギーではなくその経済効果にあります。経済産業省『企業活動基本調査』によると、大企業、中堅企業問わず輸出をした企業と全くしていない企業を比較すると前者は労働生産性が大きく成長している。内外の研究によると、輸出或いは海外直接投資をすることで企業の生産性成長率は平均2%ほど上昇するという。

 グローバル化の中核は、EPA(経済連携協定)です。2011年7月現在、日本の実行国は11ケ国で、中韓、アジア、米国、EUに遅れ、輸出産業の競争力は厳しい状況で多くの企業が中韓台企業に敗退しつつあります。EPAの一つであるTPPも政府は、今尚正式決定できない現状にあります。
 
【特区活用による産業集積――過去事例を学び、新たな政策創造】

「実際、産業集積によって企業や労働者の生産性が向上することは、多くのデータで実証されている。日本については、人口密度が二倍になると労働者の実質賃金が三%上昇すると結果が出ている。・・・このことは産業集積の密度が上がると生産性が上がることを示していると見て差し支えない。」(参考文献1)

 そもそも日本の関東圏は、人口だけでなく世界最大の産業集積地です。

 産業集積は、シリコンバレーのように偶然に、中国の中関村科技園区のように政策によってもできてきたことを指摘しています。もちろん、神戸震災後に、世界的に上位だった神戸港のコンテナ産業が回復への対応が遅れて衰退したように、永遠であるとも限らない。 

 世界はもとより日本にも、古くから多くの産業集積があります。著者は3つのタイプに整理しています。
 ①「城下町型」~豊田市のように、トヨタを中心に多くの自動車部品産業が集積。浜松市を中心に二輪車産業が集積等
 ②「都市集積型」~東京都太田区や東大阪市のように大都市やその周辺に中小企業が集積
 ③「産地型」~福井県鯖江市はメガネフレームで世界シェア20%、新潟県燕市は食器製造などのように特定の製品に特化して集積

 最近では、2001年より経済産業省主導の「産業クラスター計画」があります。成果もあるが、もちろん課題もある。

 国内外の成功事例に学び、改善や革新をして前進すべきとして、特区制度を活用して「つながり」と「技術」による集積を提案しています。

 私の理解では、明治以来の中央集権制度の改革が重要でその解決への努力と共に、並行して、現在の制度をうまく活用して香港、上海などのように一国二制度を日本でも展開して成功事例をつくり、同時に国民意識も啓蒙していく実践的な提案の一つだと思いました。

(2)複眼二刀流~ビジネスマンとステイツマンの両面持つ日本人になるために

 戸堂康之『日本経済の底力』が提起する“若者よ、この本を手に世界をめざせ!”というメッセージは、日本人とりわけ圧倒的人口を占めるビジネスパーソンは、ステイツマンとしての的確な認識と意思表示をすることが重要な時期だとも教えていると思います。遅れることは、一層日本経済の発展を阻害することになると思います。

 私はその強い思いを新春のメッセージでも述べました。簡単にその一部を紹介します

*BIエッセイ2012/01/23 『もしドラ』と共に『もしフリ』の時代-2012年、「複眼二刀流」で不変・変化を探る(後編 日本目線)より
参考資料
【ビジネスマンと共にステイツマンであれ!】

 私は今、痛恨の反省の中でこのエッセイを書いています。

 第1は、ミクロ経済のビジネスリーダーの端くれとして一定の貢献をしてきたと思う反面、ミクロ経済の基盤となるマクロ政治経済の改革への意識や行動が弱かったと思う。特に、ビジネスリーダーは、マクロ政治経済にどう関わるべきかという意外に重い問に応えるべきだが、少し引いていた結果、日本政治経済の危機が深刻になった責任の一部があるのではないかという自責の念があります。

 第2は、戦後貧しい時代に育った中で、団塊の世代として自分の未来と人生のために一生懸命に生きてきたと思うが、選挙権やお金のない子供や孫の世代をどこまで考えてきたのだろうかという自戒である。ある意味、自由経済は間違った動きもするが正直に正当な復讐もする。

 端的に言うと、ビジネスマンと共にステイツマンであれ! という反省である。

②日本の政治経済はどこに向かうべきなのか~小泉改革/民主党の政権交代体験が示す真実
 
2013年8月に衆議院の任期が終了する。2012年か2013年に衆議院選挙は確実です。日本人は、「小泉改革」「民主党政権交代」を支持して、既に正反対の両方の政治経済を体験した。

 結果は明確です。すべて「低迷した20年」ではない。

 過去の自民党政権と決別したデフレ化の小泉改革時代は、金融危機を解決し、公共事業を減らしながら「官から民」への経済改革で過去20年の中で唯一経済成長し、失業率も改善した。基礎的財政収支(プライマリーバランス)を数兆円の赤字まで詰めた。

 民主党の多く、自民党の半分、多くのメディアが「格差」が拡大したと批判したが、実体は違っていた。その前から続いていた「格差拡大」は止まり、「グローバル競争」「世代間格差」の大きいことが本質であることが専門家・ジャーナリストの研究書の出版で明らかにされた。「貧困」の増大は、経済成長戦略の欠如でもたらされたことも今や明白である。(詳細は2010/05/24 政治経済を読むシリーズ2 暴論に騙されないための経済入門書!辛坊治郎・辛坊正喜「日本経済の真実」

 自民党麻生政権、民主党政権は「バラまき政治」と呼ばれる社会主義的配分優先政策を大々的に展開した。結果は経済停滞、円高、社会保障「聖域化」支出継続、公共事業再開、国債発行増大。そして実行しないと公約した消費税増税路線に転換している。パイを広げないでの配分優先とは、結局他人の財布から税金として巻き上げて全体が貧しくなる「大きな政府」の社会主義的政策に近い。人類は長い悲惨な実践の結果、ほとんどの国が大失敗で約20年前に止めた政治である。(詳細は 2010/06/28 政治経済を読むシリーズ4~民主党ブレーン榊原英資氏と小泉内閣の経済財政大臣竹中平蔵氏の対談“絶対こうなる!日本経済”)

 自民党、民主党の「行政財政改革」「地方分権」などの消極的姿勢を拒否した自民党・民主党の有志が結成した「みんなの党」が第三党に躍進しています。小泉改革の精神をある程度受け継いだ政党に見え、無党派や若手経済人の支持を広げていますね。大阪維新の会との連携も進めています。

 橋本徹大阪市長・元知事率いる大阪維新の会が圧勝した。明治の廃藩置県以来の日本の統治制度を大変革するという。世界文明は大都市間競争の時代。公務員制度も抜本改革するという。橋本市長と元自民党地方議員有志が中心で結成した大阪維新の会。みんなの党と多くの無党派と若者が支持をした。国政への進出如何も注目されます。

 フェルドマン氏によると米国の財政問題は実は「小さな政府」と「大きな政府」の戦いが本質だと述べています。そして、日本はダイナミックなビジネス大国への復活の提言をしています。

 マクロ政治経済から目が離せないというだけでの姿勢ではなく、どういう日本をつくるかという議論が大切な時期にいます。日本はどういう路線の選択が大事なのでしょうか。

 私は、日本は世界の未来島だと思っています。一方で「課題先進国」とシニカルに言う学者等もいます。しかし、日本・世界には既に直面する課題を解決した理論や歴史、成功事例が既に多くあります。

なによりも、日本を主体的に考え、行動しなければならないのは若者も、シニアも含め全ての日本人です。世界的視野で事実と方向性を真摯に学び、前に進む勇気を持つ時期だと考えた次第です。

以上

(参考文献)
1.戸堂康之『日本経済の底力』(中公新書 2011年8月)
2.佐々木昭美 BIエッセイ2011/09/05 「今、日本企業、経営学にとって大切なこと~「災害復興、経済復興、日本再生」の新起点に立って
3.佐々木昭美 BIエッセイ2012/01/23 『もしドラ』と共に『もしフリ』の時代-2012年、「複眼二刀流」で不変・変化を探る(後編 日本目線)

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