佐々木昭美のBIエッセイ 明るく楽しくイノベーション

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2010/02/15 「出し惜しみしない」:私の「JR東日本-新幹線人間塾」

 私は、JR東日本新幹線の座席前網BOXで無料提供している月刊誌『トランヴェール』数冊を大事に自宅の書斎に保管しています。

 腰痛に悩まされ、ここ数年、冬場の通勤は座れる新幹線に救われている。普通列車で60分かかる大宮-東京間の新幹線通勤は25分間で着く短い時間ですが、楽しみながら車内誌『トランヴェール』を読むことが多い。毎号すばらしいその巻頭エッセイにしばし心を癒やされ、元気をもらうことも多い。いつしか、新幹線は私の「人間塾」に早変わりしてしまい、普通列車はもっと暖かくなってからと財布に話しかけています。

 その巻頭エッセイ、内館牧子『「踊り子号」の男』(2008年11月号)に書かれた出来事と言葉は絶対に忘れられません。どんなに励まされたことか。この2月号伊集院静『暖炉の火』は厳寒の心を暖かくしてくれます。

参考書籍 3つのリテラシー

(1)2008年11月の新幹線は忘れられない

 2008年11月は忘れられない年月です。前年の母に続いて父が90歳を目前にして去った。痛恨の思いで、大宮駅から実家大崎市にある古川駅まで東北新幹線で何度か往復しました。

 その11月、通勤の新幹線で読んでいた内館牧子(うちだて まきこ)『「踊り子号」の男』(『トランヴェール』2008年11月号)が滲みいった。同時に心の底からの元気をもらいました。

 2007年から始まった金融危機が、2008年秋リーマン・ショックを境に世界的大不況へと転落した。その影響が「激震」「大津波」のように日本企業にも押し寄せ、私のお客様にも急速に広がり始まった。もちろん、当社も新規案件、新規プロジェクトは全くストップした。

 私の決断は、「顧客満足度300%」の実践である。100%では当たり前、200%となって始めて笑顔で喜んでもらえる。当時、気持ち的には300%必要であると思った。当然、私を先頭に、スタッフにも「顧客満足度300%」の仕事を断固として要求した。同時に、お客様にも生き残るために、愛情と非情の境を設けずに「顧客満足度300%」の仕事をしようと粘り強く接し続けた。要するに、数倍のフットワークとヘッドワークをしようということに尽きる。

 月2~3回訪問の会社が多いが、契約を超えて多くの会社に毎週2回以上通う日々が長く続き、平日の余裕時間はなくなった。また、第1回事業リーダー実践塾を11月から開始し、その初回は私が講師であり、種々の準備に3ケ月忙殺された。ベンチャー学会、組織学会という2つの学会年次研究大会は10~12月土日に開催された。

 BIエッセイも10月から月2回から毎週に変更して情報配信し、皆さまを激励するためにも自分自身がまず頑張ることを決断した。佐々木さんは閑(ヒマ)だから毎週書いているのだろうとのご感想も頂戴したが、実際は平日昼夜も土日も超多忙であった。私のON&OFFをいつでもオープンに見て頂けるのは、BIPホームページのBIエッセイなので。

 スタッフとは、電話やメールだけの日が多く、本当によくやってくれたと心より感謝しています。

 1年近い激闘の結果、2009年9月までには1年間以上の長期契約数社のすべてが減収ながらも増益か増収増益となった。5年以上赤字の会社が3年間連続黒字となった。2年間赤字の会社が増収増益となった。危機一髪の会社が劇的に減収増益に転じ、増収増益基調に転じつつある。しかし、油断はできない。

 この厳しい環境の中での成果は奇跡のようにも見えるが奇跡ではないと思う。各社幹部の皆様が、事業開発(ビジネスインテグレーション)と経営管理(ビジネスインテリジェンス)という両論経営の王道に立ち返り、非常時に“出し惜しみ”なく、火事場の「馬鹿力」を発揮したのだろうと思っている。多くの人が他人事で「評論家」の時に、素直に実践した方々は偉いと思う。

(2)“出し惜しみしない”――内館牧子『「踊り子号」の男』(2008年11月号)

 私の言う「顧客満足度300%」と全く同じ思いを、「出し惜しみしない」という異なる言葉で勇気づけてくれたのが内館牧子『「踊り子号」の男』でした。内館さんは、脚本家として活躍し名をあげた後も、私の母校でもある東北大学大学院文学研究科修士課程に入学、修了した方として記憶にあった。また、男世界である相撲界で女性の横綱審議委員会委員としても2000年より2010年1月まで活躍しています。

 昔NHK朝の連続テレビ小説『ひらり』を書くことになって、脚本家先輩である橋田壽賀子先生と熱海で食事された。その際、たったひとつだけアドバイスをお願いした時の言葉は強烈だったという。

 「出し惜しみしちゃダメよ」

 さらに続く橋田さんの言葉もすごいが、その後内館さんが素直にとった行動がまた凄い。

『「半年間も続くドラマだから、ついついこの話は後にとってこうとか、この展開はもう少ししてから使おうと考えがちなの。でも、後のことは考えないで、どんどん投入するの。出し惜しみしない姿勢で向かえば、後で窮しても必ずまた開けるものよ」

実はその時、私はすでに半年分のおおまかなストーリーを作り終えていた。出し惜しみと水増しのストーリーだった。熱海から帰った夜、私はそれをすべて捨てた。向き合う姿勢が間違っていると思った。

「出し惜しみしない」という姿勢は、人間の生き方すべてに通ずる気がする。』(参考文献1:2ページ)

実はこの話を内館さんは、伊東に向かう「踊り子号」の中で思い出したという。近くの席で、五十代の男性が連れに嗚咽しながら絞り出す言葉に耳を澄ました。

「お前はちゃんとやれよ。人なんて急に死ぬんだからさ・・・『後で』って言ってると・・・相手がいなくなってる・・・」(参考文献1:2ページ)

彼の妻は事故で三ケ月前急死した。彼は妻を大事にし感謝もしていたが、旅行などの妻の希望には、「定年後」と言って実行しなかったらしく、それを激しく悔やんでいた。

40年近く遠く離れた生活で、一言も最後の言葉を交わさず2年続けて父母を失った私にも深く滲み入るエッセイであった。同時に、自分の信念と同じ考え方にどれだけ励まされたことか、感謝の気持ちで一杯でした。忘れないようにその時の車内誌を本棚に保管しています。

これからも、せめて仕事や縁のある方々には、精一杯「出し惜しみしない」姿勢で接することにしようと思った。よく考えると、東北の田舎で敗戦後苦労して4人の子供を育てた父母の姿勢にも通ずる思いがしました。いつも笑顔であったが、「出し惜しみ」する余裕など一度もなかった一生であったに違いない。

(3)“仕事の基本は、丁寧と誠実”:伊集院静『暖炉の火』(2010年2月号)

 この2月、JR東日本車内誌『トランヴェール』の巻頭エッセイは、伊集院静(いじゅういん しずか)『暖炉の火』。十数年前から北国に暮らすようになった伊集院氏が、冬の暖炉の火で思い出した記憶を書いています。薪を運び、ゴミ一つなく清掃した少年を思い出し、仕事の訓(おしえ)としたという。

 「仕事の基本は、丁寧と誠実なのだと思った。」(参考文献2:3ページ)

 詳細は、新幹線のJR東日本『トランヴェール』2月号をお読みください。人間力リテラシーを学ぶ学校や塾は身近な周囲に満ちているのですね。これからも、皆様と一緒に人間力・社会力・経営力のリテラシーを学び続けたいと思います。(BIエッセイ2010/01/12『2010年初夢(個人編):「働く喜び、学ぶ喜び、遊ぶ喜び」の生きる喜び「三喜計画」を描く-2010年は「再スタート元年」-』詳細はこちら>>
以上

(参考文献)
1.東日本旅客鉄道株式会社『トランヴェール』2008年11月号
2.東日本旅客鉄道株式会社『トランヴェール』2010年 2月号

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